空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第4章 少年期 アラキア編

第六十八話「ルドルフの過ごした一年」

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「はぁ……」

 一人の中年の男が、聞けば気が滅入るほどの深いため息をついた。
 行きつけの酒場の席に腰かけ、酒を乱暴に流し込む。

「お前、昼間っからそんなに飲んだくれて大丈夫なのか?」
「うるせえ。良いだろ」
「まあ、文句は言わねえが……。
 あんまし、ヤケ酒を流し込むのも良くないぞ」
「わがってらぁ」

 既にベロベロに酔っている男に、オーナーは呆れたように額に手を当てる。

「どうなんだ? 捜索活動の方は」
「順調だったら、昼間からこんなに飲んでないだろう」
「そんなに飲むんだから、よっぽどの余裕があるんだろうなって思ってな」
「――テメェ! 舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!」

 男はオーナーの胸ぐらを掴み、自分の眼前まで引っ張る。
 何の騒ぎかと、他の客もざわつき始める。
 酒の臭いをまとった男の顔を見て、「分かった。悪かったよ」と謝罪する。
 男は軽く舌打ちをして、オーナーから手を放した。

「今日はもういらん。また来る」

 男は立ち上がり、銀貨を何枚かカウンターに叩き付けるように置いた。
 そして、乱暴に扉を開けて、店を後にした。

「……チッ」

 男は再び舌打ちをして、人通りの中を足早に歩く。
 この男から放たれている負のオーラは、尋常ではない。
 そのため、悪い意味でよく目立つ。

 (オレだって、このままじゃダメだってことぐらいわかってるんだ)

 胸の奥から湧き上がるのは、そんな言葉だった。
 「このままではいけない」と、何度思ったことか。

「……戻った」
「おかえりなさい、団長」

 男が入っていったのは、冒険者ギルドだ。
 そこにいるのは、大人の男女約40人。
 中には、赤子を抱いている女もいる。

「今日はやけに荒れてるなぁ」
「ちょっと、な」

 酔って顔を赤くした男は、自嘲げに笑った。
 今になって、先ほどの自分の暴挙を恥じている。

 この冒険者ギルドは、もう一週間ほどこの集団が貸し切っている。
 当初、この街の冒険者はかなり迷惑に思っていた。
 しかし、この集団の事情を知ってからは皆、何の文句も言わなくなった。

 ――グレイス王国の、転移隕石衝突災害。
 ここに集まっている人間は全員、その被災者である。

「丸一年捜し回って、これだけの人数しか見つからなかった。
 情報は結構集まっているとはいえ、こりゃかなりしんどいな」
「団長のお前が弱音を吐いてどうするんだよ。
 ――ルドルフ」
「……そうだよな。悪い悪い」

 ルドルフ・パノヴァ。
 当然ながら、この男も件の災害の被災者の一人だ。

 あの転移災害の日。
 ベルとエリーゼ、そしてリベラとアリスに家を任せて、
 妻のロトアと共に空の異変の調査に向かったルドルフ。

 その道中で、彼らが向かおうとしていたアヴァンに隕石が衝突。
 そこから物凄い勢いで広がった青白い光の接近に、ルドルフはパニック状態に陥った。
 馬車を飛び降りてロトアと別れ、村に残していったベル達に危険を伝えようと走り出した所で、ルドルフは光に飲まれた。

 つまり、ロトアとルドルフは別々の場所に転移したということだ。

 転移先は、デュシス大陸の北部に位置するノルディア皇国付近の雪原地帯だった。
 凍えるような寒さと豪雪によって、ルドルフは危篤状態にあった。
 だが、ルドルフは死んでなるものかと奮起し、何とか皇国に辿り着いた。

 それから数か月間ノルディアで生活している時に、
 偶然かつてのラニカ村の「守り人」の二人と再会。
 そして、転移災害に巻き込まれた人々の捜索団を結成し、今に至る。
 一年間捜し回って、ようやく見つけたのはせいぜい40人程度。
 当時の村の人口は3000人余りであったため、その約1パーセントしか発見されていない。

「もうそろそろ、この街を出たほうがいい気がするわ」
「同感だ」
「そうだな。明日には出るか」
「でも、街を出た後はどうするつもりだ?
 地図なんて持ってないぞ?」
「世界地図のことか? それなら、オレが持ってる」

 そう言って、ルドルフは懐から丸めた世界地図を取り出した。
 テーブルの上に広げ、丸まらないように端を固定する。
 中々固定できなくて、ルドルフは少し苛立った。

「オレ達がいるのが、ここだ。
 ここから西に行けば中央大陸に渡れる港があるが、
 この道を通って行くのはやめておいた方がいいらしい」
「どうして? そっちの方が近いんじゃないの?」
「ほら、ボレアス大陸に『飛龍山脈』ってのがあるだろ?
 真っ直ぐ西に行ったら、あれと同じくらいの危険度の『地龍山脈』って山脈があるらしい。
 そこを通らないことには、その港町には行けないんだと。
 だから、中央大陸に渡るなら、ここからずっと北上して、そこから西に行く。
 それが一番安全なルートだ」

 ルドルフは地図に指を滑らせながら、そう説明した。
 いくら『剣帝』ルドルフとは言っても、大勢の強力な魔物を相手にするのは難しい。
 対人戦なら何とかなるが、魔物が相手だと訳が違う。

「待て この流れだと、俺達は中央大陸に渡るってことになるのか?
 デュシス大陸の北部はまだしも、天大陸はまだ捜索してないぞ?」
「ああ、説明するのを忘れていた。
 天大陸に行く前に、まずはラニカに戻ってみることにした」
「ラニカに? そりゃまた何でだ?」
「恐らく、ラニカに戻っている人間も少なからずいるはずだ。
 だから、戻った奴らと情報共有がしたい」

 ルドルフもまた、ベルと同じ考えであった。
 一度ラニカ村のあった場所に戻り、故郷の様子を確認する。
 3000人が一斉に転移したとしても、何人かは帰郷している可能性がある。
 その者達に話を聞いてみることで、情報共有ができると考えたのだ。

 この世界には、スマホもネットも存在しない。
 だから、自らの足で赴くしかコミュニケーションをとる方法はないのだ。

「なにも、全員で戻る必要はないんじゃないか?
 半分ずつに分けて、天大陸を捜索する組と一旦ラニカに帰還する組に分かれるってのはどうだ?」
「名案だ、ラディン。だが、戦力は大丈夫なのか?」
「出来ることなら、守り人を天大陸組に固めて欲しいわ。
 ルドルフは一人でも十分でしょう?」
「簡単に言ってくれるな……。
 まあ、大丈夫だろう」

 ルドルフは、腰に提げている「鳳凰剣」を見つめる。
 ちなみに「世界四大魔剣」のような特別な効果はないものの、
 ルドルフは「かっこいいから」という理由でその名前を付けた。

 事実、ルドルフは生まれてこの方、剣を新調したことはない。
 この剣を気に入りすぎて、中々手放せないのだ。

「天大陸は、デュシス大陸や中央大陸ほどの広さはなさそうだな」
「その分、魔物の強さは段違いだぞ。
 魔大陸ほどじゃないだろうが、オレでも手こずるような魔物もいるかもしれない」
「そうなったら、潔く諦めるぜ」
「馬鹿言え。死なれたら困るんだよ」

 ルドルフはクレッグの頭をバシッと叩いた。
 ギルド内に、笑いが沸き起こる。

「んじゃ、守り人は天大陸組に固まれ。
 アーレント、お前はこっちに来てくれ」
「へいへい」

 いくらルドルフと言っても、一人で守り抜けるという絶対的な自信はない。
 もう一人くらいは戦える人間がいないと、流石にプレッシャーが大きすぎるのだ。

 ルドルフは地図を丸めて、懐にしまった。
 そして、受付カウンターに向かう。

「すまん、受付嬢。紙とペンはあるか?」
「ここにございますよ」
「おう。サンキュー」

 ルドルフは受付嬢から紙とペンを受け取り、再びテーブルに戻った。
 そして、文字を書き始めた。

「何してんだ?」
「張り紙だ。もし万が一、転移事件の被害者がこのギルドを訪れた時のためにな。
 これまでに寄った街のギルドには、もれなくこの張り紙を張っている」
「なるほど。ルドルフにしちゃ、賢いな」
「褒められた気がしないんだが」

 ため息混じりにそう言いながら、ルドルフは文字を書き続ける。

「お前……そんな字じゃ読めねぇだろ」
「おかしい。上手く書けん」
「昼間っからそんなに飲んだからじゃないの?」

 平静を装ってはいるが、ルドルフは泥酔状態だ。
 そのため、かなり字は曲がっている。
 少なくとも、他人が読めるレベルではない。

「ペン貸せ。俺が代わりに書く」
「お、おう……」
「なんて書くんだ?」
「『この張り紙を見たら、グレイス王国・ヒグニス領・ラニカ村に戻ってきてください』」

 ラディンはルドルフからペンを受け取り、言われた通りに書いた。
 そして、掲示板にその張り紙を張った。

「サンキュー、ラディン。
 じゃあ、そういうことで、解散」

 ルドルフの合図で、捜索団はその場を解散した。

---

 ルドルフは宿に戻り、ベッドに横になった。
 膝を立てて足を組み、頭の後ろに両手を回した。
 天井を見つめ、目を閉じた。

 一年経った今でも、あの日のことを夢に見る。
 もしあの時、馬車を降りなければ、ロトアと離別することはなかった。
 そもそも調査に行かなければ、子供達と離別することもなかったかもしれない。

「はぁ……」

 ルドルフは、随分とやさぐれてしまっている。
 捜索団の皆といる時は、良い団長を演じているだけ。
 本当のルドルフは、酒場でのルドルフだ。

 綺麗だった黒髪はボサボサで、髭も処理していないため伸びきっている。
 ヤケ酒なんて、ロトアと結婚してからはやったことすらなかった。
 捜索団を結成して捜索を始めてから、幾度となく仲間達と衝突した。
 その度に、ルドルフの精神は削られていった。

 団長としての責任に耐えながら、過酷な捜索の旅をする。
 ただでさえ、その重圧が絶えず彼にのしかかっているのだ。

 家族の安否も分からない。
 特級魔術師のロトアはまだしも、
 ベルやエリーゼがたった二人で生き延びられるとは思えない。
 もっと言うなら、二人が一緒にいるとも限らない。

 そして、アリス。
 当時まだ二歳だったアリスは、どうなってしまったのか。

 拾い子であるベル、養子という形で預かったエリーゼとは違い、初めてロトアとの間に産まれた実子。
 実際に一緒にいた期間はたったの二年だ。

 二歳だったアリスが、一人で生きているとは思えない。
 ルドルフは、内心では覚悟している。

「会いたい……」

 誰でもいい。
 ロトアでも、
 ベルでも、
 エリーゼでも、
 アリスでもいい。

 ――家族に、会いたい。

 故郷に帰ったら、誰かが戻っていないだろうか。
 ……願わくば、このリンドの街に誰か居ないだろうか。

 そんなことを考えながら、ルドルフは眠りに落ちた。

* * *

 目が覚めると、オレは雪原にいた。
 見渡す限り広がる、真っ白な雪景色。
 状況が、全く飲み込めなかった。

 さっきまで、オレはラニカ村からアヴァンに向かう馬車に乗っていた。
 それで、あの青白い光が迫ってきて、馬車を飛び降りて……。

 ああ、クソ。
 何であの時、オレは馬車を降りたんだ。
 もちろん、隣にロトアは居ない。
 それで、一体ここはどこなんだ。

 吐く息が白い。
 寒さで体の芯から震えている。
 ラニカは春だから、温かかった。
 だから、着ている服の生地は薄い。

 これはきっと夢だ。
 そう考えるしかない。

 全く見知らぬ土地。
 だが、これだけ寒いってことは、北の方か?
 あの光で、オレは北のどこかに転移したってことなのか?

 自分で言っていて訳が分からない。
 だが、自然とオレは納得した。

「どうしたものか……」

 幸い、剣はある。
 戦いになっても、最悪戦える。

 降り積もった雪をかき分けながら、オレは歩き出す。
 クソ、雪が強くなりやがった。
 でも、遠くの方ではあるが建物が見える。
 きっとあれは国か街だな。

 何とかあそこまで辿り着ければ、ひとまずは大丈夫だろう。

---

 街に着いた。
 三日かけて、何とか生き延びた。
 途中で、体が動かなくなりかけた。
 寒さと空腹で、意識が朦朧としたこともあった。
 こういう時に眠気に負けて目を閉じれば、もう二度と目が覚めないなんてこともある。
 登山家の奴がそんなことを言っていたのを思い出せてよかった。
 でなきゃ、きっとオレは死んでいただろう。

 今は、持っていた金で宿を借りて休んでいる。
 グレイス王国の通貨は、使えなかった。
 だから、ギルドで両替をしてもらった。

 ここは、ノルディア皇国という国らしい。
 デュシス大陸の北部に位置している。
 一瞬で、中央大陸の東にあるグレイス王国からデュシス大陸の北部だ。
 意味が分からない。

 が、一つ思い出したことがある。
 オレは、この感覚を味わったことがある。

 確か、オレがまだロトアと二人で冒険者をやっていた時。
 迷宮でうっかり、転移魔法陣を踏んでしまった。
 それで別の階層に飛ばされた時のあの感覚に、とても似ている。

 つまり、オレはあの光で別の大陸に転移したということだろう。
 そう考えれば、自然と頷ける。

 だが、だとしたら、ロトアも巻き込まれたはずだ。
 ロトアだけじゃない。
 ベルも、エリーゼも、アリスも、そしてリベラも巻き込まれた可能性が高い。
 それに、アヴァンやラニカ村の人間達。

 あの光は、とんでもない速さで広がってきた。
 オレを飲み込むまでも、本当に一瞬だった。
 きっと、村も丸ごと飲み込まれただろうな。

 3000人が、この世界のどこかに転移したってことだ。
 果たして、起こったことは全部現実なのか?
 やっぱり、何かの悪い夢じゃないのか?

 とりあえず、これからどうするべきなんだ。
 いや、答えは一つだろう。
 家族を、捜す。

 だが、どうやって捜すかだ。
 まず、どこに飛ばされたかも分からないあいつらを一人で捜し出すなんてのは無理だ。
 今すぐにでも捜しに行きたいが、まだ行動を起こすには早い。

 第一に、金がない。
 これでもS級の冒険者だからギルドから馬を借りるのは無料で済むが、
 食べ物やらなにやらはそうはいかない。

 ……また、冒険者をやって金を稼ぐしかなさそうだ。
 もう33になったが、まだまだ衰える歳じゃない。
 オレは仮にも、特級剣士。
 『剣神』アベルから、『剣帝』の称号を授かった剣士だ。
 とっとと金を貯めて、馬を借りて旅に出よう。

---

 四か月ほど経った。
 ようやく、オレはノルディアを出発した。
 時間はかかったが、収穫もあった。
 オレは、クレッグとアーレントと再会した。
 どうやら、こいつらも転移したらしい。
 ということは、村も飲み込まれたということが確定した。
 まあ、あれだけの速さで広がってたんだから当然か。

 再会したのは、ひと月前の話だ。
 クレッグとアーレントと三人で冒険者をやって、金を稼いだ。
 休日なんてほとんど設けず、ひたすら魔物を殺し続けた。
 オレには遠く及ばないが、
 二人とも一緒に「守り人」をやっていただけあって普通に戦える。

 オレのS級冒険者特典で三頭馬を借りて、ノルディアを出た。
 金はたっぷり稼いだから、一か月は大丈夫だろう。
 世界地図を買ったから、この先の旅はかなり楽になった。

「オレ達がいるのが、大体この辺りだ。
 ここから南に向かうぞ」
「そんで、このルーアスって街に行くのか?」
「そうだな」

 南に真っ直ぐ進むと、数時間でルーアスという街に着いた。
 そこで、また何日か滞在して、被災者を捜す。
 そんな生活を、二か月ほど繰り返した。

 その間、オレは様々なものを見て、聞いた。

 ルーアスのみならず、寄った街で何人かを発見した。
 四か月もすると、オレ達のように飛ばされた者同士が再会することもあったらしい。
 そして同時に、死亡報告も多くあった。
 というより、発見報告よりも死亡報告の方が多かった。

 その中には、オレの知り合いが何人もいた。
 それを聞くたび、背筋が凍るような思いをした。

 中にはクレッグの家族の名前もあった。
 あいつはそれを聞くなり、膝から崩れ落ちて泣いた。
 数日、立ち直れずに部屋にこもりきりになってしまっていた。
 きっとオレがあいつでも、同じことになるだろう。

 今の所、オレの家族の名前が死亡したという情報はない。
 だが、発見報告もまだない。
 どこかで無事に生きていてくれるといいが。

---

 更に二か月。
 もうあれから八か月が経った。
 未だに、家族の発見報告はない。
 報告がないだけで無事に見つかってくれていればいいんだがな。

 村民に関しては、割と情報は入ってくる。
 そのどれもが、明るい情報ではなかった。
 死亡報告の他に、奴隷になっているのを見たという情報も入ってくるようになった。

 命まで奪われることはないだろうが、
 それでも耐え難い苦痛を味わっている者もいるだろう。
 生きているだけでも幸いというべきなのかもしれない。

 奴隷になった奴を買い戻すには、それこそ莫大な金が要る。
 一人なら何とかなるかもしれないが、
 オレが耳にした報告は数十人にも及ぶ。

 どうにかしてやりたいが、今は行方不明の奴らを見つけるのが最優先だ。
 生きているということが分かったなら、後回しにせざるを得ない。

 オレだって、出来ることなら何とかしてやりたい。
 でも、どうすることもできないんだ。
 奴隷なら、貴族の支配下にあるはずだ。
 それなら、一日三回飯は出るだろうし、生活には困らないはず。

 ――だがもし、オレの家族がそんな状況に置かれていたら?
 もしも、ベルやロトア、そしてエリーゼが奴隷として貴族に酷い扱いを受けていたら?

 そんなこと、考えたくもない。
 というか、考えるだけ無駄だ。

 二人とも人並み以上には戦えるが、
 転移直後に変な奴に襲われた可能性だってないとは言い切れない。
 もしそうだとしたら、オレは迷わず飛び込むだろう。
 そして雇い主の貴族どもを皆殺しにしてでも、オレは家族を取り戻す。

 言っていることは、めちゃくちゃかもしれない。
 でも、家族のためなら手段は厭わない。

---

 一年以上が経った。
 今オレ達がいるのは、リンドという街だ。
 『ルナディア湖』という名前の有名な湖があるらしい。
 夜になると、綺麗な月明かりに照らされて大変美しいという。
 まあ、今はそんな観光なんて興味はないがな。

 見つけた難民は、オレやクレッグ、アーレントを除けば大体40人だ。
 一年で、これだけしか見つけられなかった。
 寄れる街や集落には、出来る限り寄った。
 だが、どれだけ捜し回っても見つかったのはこれだけだ。

 中には、子供を産んでいる奴もいた。
 いや、何も文句は言わない。
 置かれた場所で生きていく決断をした奴も、中にはいるだろう。

 無理に捜索を手伝ってくれとは言わなかった。
 それなのに、ほとんどの奴らが手伝ってくれることになった。
 ラニカ村の人間は、結束力が強い。
 だから、皆言わずともオレに着いてきてくれるのだ。

 だが最近、オレは薄々感づいてきた。

 ――――もう皆、死んじまったんじゃないか。
 これだけ経っても、全く音沙汰がないんだ。
 考えたくないが、嫌でもそんな考えが頭に浮かぶ。

 そんな気を紛らわすために、オレは最近ずっと酒に溺れている。
 酒を飲んで酔っている間は、何も考えなくて済む。
 家族のことも、捜索活動のことも。

 こんなことじゃいけないとは、自分でも思う。
 僅かでも可能性が残されているなら、それを信じて捜し続けるしかないと。
 でも、それでも、やっぱり……。

 ――家族が死んだかもしれないって考えるだけで、気が狂いそうになるんだ。

 しかし、捜索団はまだ捜索を続けている。
 まして、オレはその捜索団のリーダーだ。
 オレがこんなことでどうする。

 そう思いつつ、オレは酒場に入る。

 今日は、少しだけ。
 少しだけ酒を飲んで、気を落ち着かせよう。
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