空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第4章 少年期 アラキア編

第七十九話「王子の思惑」

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 二日後。
 特に何事もなく、俺とランスロットはゼルドニア王国に到着した。
 諸事情で少し出発が遅れてしまい、到着は昼過ぎとなった。
 ……寝坊しました。たはは。
 アラキアとはまた違い、かなり栄えている印象だ。
 ここは、ゼルドニア王国の第一都市・トルメアという街だ。

 そして今、俺たちは宮殿の門の前に立っている。
 この城に、王子が住んでいるらしい。

「こんなに国と国の間の距離が短いなんて、逆に新鮮ですね」
「そうだな」

 一昨日地図を見せてもらった時に思ったんだが、
 このあたりには人の住んでいる集落が少なすぎる。
 ただ、やはり海際には国や街が多いな。
 中国の経済特区みたいな感じで、どこも栄えているんだろう。

「ランスロットさんは、僕が謁見している間はどうするんですか?」
「謁見するだけなら、そこまで時間はかからないだろう。
 適当に時間を潰しておく」

 大きな国だから、歩いているだけで楽しそうだな。
 会ってちょっと茶会をするだけだし、あまり待たせることはないだろう。

「ただ、一つだけ気になることがある」
「気になること、ですか?」
「ああ。あの手紙に書いてあった件だ」

 手紙?
 はて。何か変なことでも書いていただろうか。

「セディウス王子は、わざわざお前に一人で来るように強調していた。
 それがどうも引っかかるのだ」
「……」

 あー、確かに。
 言われてみれば、そんなことも書いてあったような。
 でも、一国の王子だぞ。
 旅人の話を聞くのが好きだと言っていたし、本当に好意で招待してくれたとは思うんだがな。

「まあ、何かあったら僕には魔術がありますし。
 心配には及びませんよ」
「……そうか。茶会が終わったら、寄り道はせずに真っ直ぐ俺の所に帰って来い。
 国の入口の門で待っておくぞ」
「はい、分かりました」

 ランスロットに「行ってきます」と伝え、俺は門をくぐった。

 なんか、ランスロットって本当に親みたいだな。
 たまに口うるさくなるところとか、俺やエリーゼに対しては少し甘いところとか。
 将来、結婚することがあったらいいお父さんになるだろう。

「お待ちしておりました。ベル・パノヴァ様でございますね」
「はい。初めまして」
「私は、ルクリアと申します。
 こちらの宮殿に使える、侍女でございます。
 ここから王子のお部屋まで、ご案内いたします」

 これまたご丁寧にどうも。
 黒い髪を一本に結わえた侍女と共に、宮殿の中に入った。

「失礼ですが、ベル殿の年齢を聞いてもよろしいでしょうか」
「10歳です」
「10歳……ありがとうございます。
 王子は現在14歳、思春期の真っただ中でございます。
 ご対応にはくれぐれもご注意ください」
「は、はあ……」

 ん、待て。
 14歳であの文面を書いたのか?
 思春期の真っ最中なのに、あんなに丁寧な文を書けるとは思えない。

「セディウス王子は、どんな方なんですか?」
「一言でいうなら……そうですね……」

 ルクリアは顎に指を当てる。
 そんなに言葉に悩むのか。
 迂闊に王子の素性を明かすのはまずかったか。

「……変態、でしょうか」
「……」

 悩んだ割にはストレートに言ったな。
 14歳の男の子なんだから、ある程度は仕方ないと思うが。
 俺も14歳の時なんて、教室でエロガキの限りを尽くしていたし。
 どの世界の少年も、そんなもんだろう。

「私たち侍女の中で、彼に胸や尻を触られたことのない者は存在しません」
「けしからんですね」

 前言撤回。
 俺とはレベルが違った。
 エロガキレベルマックスじゃねえか!
 さすがの俺でも、直接触るなんてことはしなかったぞ。
 しかも、手や足ならまだしも、胸と尻だと。
 ルクリアのこの胸を、触っただと……!

 いかんいかん。
 鼻の下が伸びてしまった。
 これを好き放題できるとは、羨ましい限りだ。
 なんて考えは童貞の考えだな。

「ここが、王子の御部屋でございます」

 着いてしまった。
 さっきの話を聞いて、一瞬でイメージダウンしてしまった。
 正直もう茶会なんてどうでもいいから帰りたい。
 迎えに来て、ランスロット。

「お待ちください」

 扉をノックしようとしたところ、ルクリアに止められた。

「杖とお荷物を、お預かりします」
「え? どうしてですか?」
「……その杖を持たれては、王子に危害を加える可能性がありますので」

 そりゃ、そうだ。
 いや何もしないけども。
 俺は大人しく杖と荷物を肩から下ろし、ルクリアに渡した。

「王子。ベル殿をお連れしました」
「入れ」

 聞こえてきたのは、声変わり前の男子小学生のような声。
 ルクリアは中に入るように促す。
 示されるまま、俺は中に入った。

「我はセディウス。ゼルドニア王国の第二王子だ」
「お初にお目にかかります。ベル・パノヴァと申します」

 長年培ってきた礼儀作法で、きちんとご挨拶。
 セディウスは腕を組み、どっしりと椅子に座っている。
 傲慢な性格がにじみ出ている。
 何とも気難しそうなお方だ。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。
 まさか王子直々にご招待をいただけるとは思いもしませんでした」
「ふむ。礼儀はなかなかのものだな」

 そうだろう。
 洗練されたものだぞ。
 グレイス王国の第一王女のお墨付きだ。

 セディウスは立ち上がってこちらに近づいてきて、俺の顔をまじまじと見つめてきた。

「その隻眼は、生まれつきのものか?」
「いえ、これはその……『月神』から授かったものです」
「月神? 『七神』の第七位、ルナディアのことか?」
「さようでございます」

 お前も味わってみるか?
 眼球をほじくり出される感覚を。
 お前みたいなエロガキには耐えられないだろう。

「おい、ガキ。後ろを見てみろ」
「後ろ?」

 おい、今コイツ俺のことガキって呼んだぞ。
 杖無しでも、いつでも魔術は撃てるんだぜ。

 俺はセディウスに言われるまま、後ろを見る。
 背後、というか少し距離はあるが、二人の女が立っている。
 その片方は、さっきまで俺を案内してくれていたルクリアだ。

「どういうことですか?」
「クフッ」

 セディウスは気持ちの悪い笑い声を漏らした。
 再び体をセディウスに向け、真意を問おうとする――

「――やれ」

 セディウスの言葉と共に、下から何か音がした。
 とっさに下に視線を移すと、もうそこに床はなかった。

 俺は、穴に吸い込まれるように落ちた。

---

 気が付くと、俺は冷たい石床に座っていた。
 あのクソガキ、手荒い真似しやがって。

「クフフッ。滑稽だな!」
 気味の悪い笑みを浮かべながら、落ちた俺を見下ろすセディウス。
 どうにか上に上がれないだろうか。
 意表を突いて、あの顔面に一撃食らわせてやりたい。

「『土壁アースウォール』!」

 ……あれ?
 魔法が発動しない。

「無駄だぞ! 貴様ごときではどう足掻いても脱出できない!」

 足元を見る。
 下には、紫色に光る魔法陣のようなもの。
 何だこれ。

「それは、我が貴様を捕らえるためだけに作らせた特級の結界魔術だ!
 特級以上の魔術じゃないと破れないぞ!」

 特級の、結界魔術。
 特級以上でしか破れないだと?
 俺が使えるのは聖級魔術までだ。
 つまり、自力では脱出できないってことだ。

「どういうつもりですか? 茶会はどこへ?」
「そんなもの、最初から嘘に決まっているではないか!」
「――」

 なるほど。
 俺は完璧にハメられたわけだ。
 あんなにしっかりした印象を与えて信じ込ませておいて、宮殿におびき出したってことか。
 まんまとやられてしまった。

「お前は、レオナをおびき出すためのだ」
「……どういうことですか」

 言っている意味が分からない。
 どうしてここでレオナが出てきたんだ。
 レオナとは一言二言交わした程度で、そこまで仲がいいわけじゃない。

「彼女をおびき出すためなら、リノさんをここに呼べばよかったじゃないですか」
「あの側近の女のことか? あれは無理だ。アイツは頭が良さそうだからな」

 まるで俺の頭が悪いみたいな言い方しやがって。
 いやまあ、今回に関しては否定はできないか。
 甘い言葉に誘惑され、二日もかけてノコノコと出てきてしまった。

「レオナは、我の未来の花嫁だ」
「……はあ」
「何だその反応は! もっとこう、なんかあるだろ!?」
「王子の恋愛事情には、あまり興味がないので」
「何だと!?」

 やべ。
 あまり刺激しすぎたら何をされるか分からない。
 今だけは立場をわきまえるべきか。

「……ふん。まあいい。そうやって余裕をぶっこいていられるのも今のうちだからな」
「王子は、何が目的なんですか?
 レオナ様を花嫁にしたいなら、もっと正当なやり方でやればよかったじゃないですか」
「我はずっと、レオナに恋文を送っている。
 だが、まだ一度も返事が来たことがないのだ!」

 お前程度の男が、レオナに見合うとでも本気で思っているのか?
 レオナは色々抜けていてポンコツだが、顔はいい。
 対して、お前の顔はどうだ。
 ブロブフィッシュみたいな顔しやがって。

 と、心の中で呟く。

「ふぐっ……!」
「おい! 何がおかしい!」

 ずいぶんと、自惚れた王子様だな。
 一度鏡を見てきてはどうだろうか!

「お前をエサにレオナをおびき出して、我の正妻にする。そして」
「……そして?」
「――お前の横にいた赤髪の女と白髪の女も娶る」
「――!」

 ついに、一線を越えたな。
 エリーゼとエルシアを、娶るだと?
 冗談じゃない。
 こんな深海魚に取られてたまるか。

 しかも、レオナが正妻だということは、
 二人は妾として迎えるってことだろ。

「レオナの体は貧相だから、あの二人をメインディッシュにしよう」
「――」
「そうだ! お前の目の前で屈服させてやろう!
 ここから女だけが見えるようにして、その様子を見せてやる!
 絶望しているお前の顔をチラチラ見ながら、何度も何度も……クヒヒッ!」

 うわぁ……ゲスい笑顔。
 今まで見てきた笑顔の中で一番気持ち悪い。
 しかもサラッとレオナの体のことディスったな。
 あれはあれでいいってことをまだ知らないようだな。
 これだからケツの青いガキは。

「どうだ? 悔しいか?」
「ええ、悔しいですとも。
 あー、悔しいなぁ。悔しすぎて死にそうですよー」
「ハハハ! そうだろう、そうだろう!」

 単純な子供だなぁ。
 きっと頭が悪いんだろう。
 こいつがこの王国の王となったら、この国は終わるな。
 きっと破滅に向かって一直線だろう。

「ああ、楽しみだな。
 お前のその顔が絶望に歪む日が、今から待ちきれないなぁ……」

 そう言いながら、セディウスは床を閉めた。
 床を閉めるってのも変な言い回しだが。
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