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六章初デート

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「なあ悠里、もしかしてこの強姦魔と知り合いなのか?」

 このチビは俺と悠里が知り合いなのに驚いている様子。悪いかよ。ていうか強姦魔言うな。

「ちょっと翔くん!甲斐くんは強姦なんてしてないのにそんな事言っちゃだめだよ!」
「強姦魔だろうがそうじゃなかろうが問題児には違いないんだろ?二年E組の架谷甲斐は学園一の超問題児だって有名だぜ。その上、学園の美女達を懐柔した男の敵だとも言われている。悠里だけでも許せねーのに、矢崎直さんの元カノの篠宮恵梨と佐伯先生を誑し込んだ美女好きの女タラシとは貴様の事だろう!」
「なんだその出鱈目」

 あきれた。たしかに学園一の問題児かもわからんがね。秘密の花園の壊滅を企み、理事長と校長に反旗を翻している学園思想犯ではあるよ。だからと言って女タラシってなんやねん。

「翔くん、甲斐君はそんな人じゃないよ!流れ来る噂だけで人を信じちゃだめでしょう」
「で、でも……そいつは学園の成績は下から数えてトップ5に入るって程頭が悪くて、授業はさぼるわ、教師に反抗するわ、暴力事件は日々起こしているわで、問題児のロクデナシなのは間違いないだろ?おまけに強姦魔事件は冤罪だとしても、中学の時に暴力事件起こして逮捕された前科持ちもあるじゃねーか」
「それは……で、でも彼は前科持ちじゃないよ」

 前科持ちだったらネンショー行きになっているだろうし、そもそもこの学園に入学できねーっつうの。鑑別に行って保護観察処分になっただけだバカ。にはなるけどな。

「それでも暴力沙汰起こしている底辺問題児には変わりないだろ」

 さすがの悠里も苦笑していて言葉が出ないようだ。だってその通りだしな。
 学園で下から数えてトップ5の成績なのは間違いないし、伊達に落ちこぼれバスターズの仲間入りはしていない。Eクラスを常に見下して家柄重視の学歴主義の馬鹿教師なんか尊敬もクソもできんし、性懲りもなく嫌がらせしてくる親衛隊も放置なんかできやしない。おまけにレスラー軍団やらその他モロモロやらが襲い掛かってくるのをあしらったりしている毎日だ。俺的には自分を守るための最低限の自衛なんですけど、暴力に思われているようで心外だ。

「そんな女タラシ野郎から助けられてもなんもうれしくねーわけ!それにお前のようなタラシ野郎が、おれの尊敬する矢崎さんの従者って事もゆるせねーのに!」

 チビは拳を握りしめて俺を低身長ながら下から睨みつけてくる。眼力だけは一丁前だな。

「お前、矢崎を尊敬してんのか?」
「当たり前だ!あんな人はいないってくらい超人で天才的なすげー人なんだぞ!それに昔、おれの従兄弟をこっそり助けてくれたいい人でもある!明日の生活もやっとで、路頭に迷う寸前に金銭的に援助してくれて、どれだけあの人におれや従兄弟が救われたか……。陰で矢崎さんを鬼畜だとか魔王だとか冷酷非道だとか悪く言う奴も中にはいるが、あの人が生徒らに制裁を加える奴は決まって学園で尊大だったクズい悪人ばかりだ。口では酷いを事を言いつつも、それは威厳を示すために仕方なく恐れられる存在になっているだけ。真面目で大人しい生徒には絶対手を挙げないし、表向きは傲慢に振舞ってても、裏では虐げられている生徒を隠れて救ったり守ったりされる思いやりのある人だって知っている奴もたくさんいる。だから尊敬しているんだ!お前みたいな女たらしクズと違ってな!」
「…………そうか」

 今の矢崎は前ほど荒んだ奴ではないので、今は少しづつ矢崎や四天王に対する印象も学校内で変わってきている。ただの悪党なんかじゃないってな。それに矢崎はこいつのいう通り、表面上は傲慢に振舞っているだけで本当は思いやりのある奴だ。根が優しい事も俺以外の奴にも案外知れ渡っているみたいで、俺の見る目は間違っちゃいなかった。順調に更生していっているようで何より。
 親衛隊みたいに金と権力目当てに媚び諂う連中なんかじゃなくて、本当のファンもいるようでよかったじゃないか矢崎。

「とにかく!そんな問題児でタラシ野郎がおれの悠里や矢崎さんに気に入られているからって調子に乗んじゃねーぞ!このおれと勝負しろや!」

 びしっと俺に人差し指を向けて勝負とやらを挑んできた。何を言い出すかと思えば……生意気な上に熱血ちゃんだな。

「はあ……その前にそのボコボコにされた顔と格好なんとかしろよ」
「何をー!!」
「熱いのも結構だが、時と場所を選べチビ」

 俺が軽いデコピンでチビの額をはねてやったら「いっでええ!」と悲鳴をあげて吹っ飛んだ。あれ?

「しょ、翔君……!」
「え、なにこれ。弱っ」

 全く。これくらいで吹っ飛んで痛がるとは情けない。
 俺、全然力入れてないんだけどひ弱すぎるだろ。この様子では先ほどの工業科に目をつけられてリンチされていたのも、こいつが後先考えないで生意気言ったのが始まりなんだろうな。俺に勝負しろとか言うくらいだし。

「お前な……負けず嫌いな所はいい所だが、己の力量を自覚する事も大事だぞ?じゃないと、いつか血の気の多い奴に殺されるぞ」
「うるせー!く、くそー!今日は調子が悪いぜ」
「はあ……」

 変な奴と知り合っちまったよ。やれやれ。

「はー姫川瑠璃ひめかわるりちゃん。やっぱ可愛いよなー」
「あの天下の矢崎さんと一緒にCM共演したんだろ?俺たちの瑠璃ちゃんは随分出世したよ」

 山本とかいうチビを呆れて見ていると、近くを通りかかったBクラスモブの男子生徒二匹が巷で人気のアイドルの話題で盛り上がっている。別にそれ自体はどうって事はないのだが、矢崎の名前を聞いたので少し気になった。

「少し前までは百合ノ宮の中等部に通いながら地下アイドル活動していたのに、今じゃ国民的アイドルになっちまってさー……寂しいようで俺ぁうれしいよ」
「お前、ドルオタだもんな」
「瑠璃ちゃんくらいの可愛さなら、矢崎さんと一緒にいても決して目劣りしないはずだ。100年に一度のぶりっ子美少女って言われているくらいだし。あの可愛さだからこそ、ぶりっ子が許されて矢崎さんの隣に並べるってもんだ。あーいいよなー。俺も矢崎さん並みのイケメンになりt「なあ、お前ら。矢崎ってCMに出てんのか!?」
「ひっ、架谷甲斐!」

 おい、俺の顔を見ただけでヤクザでも見たような顔すんな。失礼だろ。

「し、知らねーのかよおめー」
「知らん。テレビ見ねーし」

 俺、全然テレビ見ねーから最近のテレビや芸能事情に疎いんだよ。テレビ見るより動画やネットで情報を得る事が多いしな。俺がちゃんとテレビを見る時といえば、スポーツ中継かニュースを見ることくらいか。あとたまに母ちゃんや妹がイケメン俳優が出ているドラマを見ていたり、親父が夜中に深夜エロ番組見ているのを横目にスルーするくらいか。

「ま、お前はEクラスだからテレビ買う金もないんだろ?それなら知らないのも納得だよな」
「自宅は犬小屋みたいで、台風が来たら吹っ飛ぶんだろ?」
「ばか。架谷の家は自宅自体がねーって噂だぜ。日々食うのにも困ってて、ごみ箱から残飯を漁ってるって話だ」
「そんで通行人に物乞いや乞食みたいな真似して、公園で空き缶拾って生活してるんだっけ?貧乏人て大変だなーwww俺達じゃとても無理dぐげぇ!」

 俺はこいつら二匹の襟袖を同時に掴んで持ち上げた。

「さすがにそこまで貧乏じゃねーつうの。そこまでいったらド底辺のホームレスじゃねえかこの大馬鹿野郎が!」

 俺がモブ二匹の襟袖を締めつけると「ぐ、ぐるじ……ずびばぜん。調子ぢ乗びばじだ!」とか「貧乏生活が我々でば想像づがなぐで許じでぐだざぃ」とか、今更謝ってきやがった。謝るくらいなら最初からバカにすんなやこの三下金持ちが。
 

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