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六章初デート

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「おい生意気なんだよ!」
「よえーくせに吠えやがってよ!」

 けんか腰の野郎共の声が聞こえる。五、六人くらいの複数の野郎共か。どこのクラスのモンだ。

「おらあ!」
「上級生にたてつくんじゃねーぞ!」

 あーうるせーなあ……!
 怒声と共にたちまち乱闘が始まってますますイライラしてくる。
 物が散乱する音やデスクが倒れる音など、殴りあう音が生々しく隣から響いてきて俺のイライラは頂点に達した。
 俺はがばっと起き上がり、勢いよく隣の部屋の扉を蹴り開けて飛ばして踊り出た。

「うるせーんだよ大馬鹿野郎!体調悪いのに寝られねーじゃねーか!」

 扉を蹴り飛ばして怒鳴り付けた先には、柄の悪い工業科に属する奴らが一人の生徒をボコっていた。

「げ……!お前は極悪不良の架谷甲斐!」

 俺の姿を見るなり顔を引きつらせていく面々。

「極悪不良?まあ、名前を知っているなら話は早いな」

 手首やら指をボキボキしながら俺は奴らに近づく。俺ってなんて有名人なんでしょ。有名になりすぎたせいで学園一の問題児と言われるようになっちゃった今日この頃だ。極悪不良の架谷甲斐だってよ。ぷぷ、俺これでも不良じゃないんですけど。平和主義なのに噂も独り歩きするとこうなるのか。
 俺が極悪不良ならこいつらは極悪チンピラだと思うんだが違うか?

 ま、学園どころかご町内では強姦魔と呼ばれて村八分受けていたからな。同じ学園でありながらもほとんど顔を合わせない工業科の生徒でも、俺の噂くらいは知っているんだろう。つーか工業科の生徒がここに来ているのが珍しい。校舎自体別なのになんでいるんだ。

 ちなみに工業科に属する生徒は9割方不良とかそういう奴らの溜まり場なので、普通科の生徒がビビッて近づく事はまずないとされている。金持ちなくせに工業科にいるというのは、だいたいが金はあるが不良債権扱いされてぶちこまれたクチの生徒なんだってよ。(情報源・健一)

 勉強ができて、家柄も文句なしで、品行方正で、教師達からの有望株なんかは普通科のSやらAなどの上位クラスに属されるが、権力親への反抗心や問題児、会社経営より専門職に就きたいものが工業科に進むとよく聞く。そのため、羽振りがいい生徒でも手がつけられない奴は工業科不良の溜り場へと自動的に送られるのだ。
 あのデブ理事長とバカ校長ですらビビッて近づかないらしく、さすがに従順にできないこいつらみたいなのを秘密の花園にはできんようだ。
 
 余談だが、学園一問題児扱いされている俺がEクラスなのは、単純に貧乏だからである。
 金持ちだと工業科へ左遷されていただろうが、金払いもよくなくて勉強もできない俺やEクラスの面々は、工業科より下位って事で全校生徒達から見下されているのだ。

 四天王王様>>SとAクラス超金持ちと開星美女>>越えられない壁>>B~Dクラス成金や一般市民>>工業科全般不良>>Eクラス奴隷貧乏という構図は納得いかんよ。

「俺の眠りを妨げるとはいい度胸だ。んでもって一人の生徒を集団でリンチとかなっさけねー。人間のクズか」

 体調不良と眠気でイライラしている俺は苛立ちをぶつけずにはおられんわ。

「ふんっ!てめえのようなEクラスで強姦魔には言われたくねーよ!」
「そうだそうだ!極悪不良のてめえよりはマシだゴラァ!」
「いやいや。たった一人を囲んで弱い者いじめしているお前らにも言われたくねーし」

 工業科の奴らにリンチを受けていた生徒は、顔面をボコボコにされて上半身を裸にされていたようだ。根性焼きやら暴行を受けた痕が生々しい。

「弱いものいじめして、集団でしか粋がれねーてめえらなんざEクラスどころかそこらに落ちてる石ころ以下だろ。工業科ってお前らを代表すると糞みてーなのばっかなんだな」
「この……!マジきれた!」

 俺がくだらん挑発をすると、工業科の奴らがいきり立って殴りかかってくる。
 こんな奴ら雑魚同然すぎて目を閉じててもどうってことねーわ。って事でまず前衛二匹を足払いでひっくり返す。んで中衛一匹を軽く腕をひねって関節技かけて、背後から来るもう一匹を片手で襟袖掴んで投げ飛ばした。
 あまり力を入れすぎると骨折っちまうからな。難しいながらも力加減してあげたよ。感謝せい。

「くっそー!やっぱこいつつえーぞ!」
「おい、野郎共!であえであえ!」

 工業科の奴らが増援を呼んできやがった。こんな狭い部屋でこいつらと乱闘して過ごすのなんて時間の無駄だ。あと乱闘して部屋めちゃくちゃにしたら南先生に鬼のように怒られそうだしな。あのセンセ怒ると超怖いし。

「おい、お前。とりあえずここを離れるぞ」

 ここは仕方なしに退却するほかない。あとで工業科の奴らに寝ていたのを邪魔したという報復を決意し、ボコられていた生徒の襟袖を引っ掴んでその場を後にした。


 とりあえず、ボコられていた生徒を普通科の中庭まで運んできた。
 ここまで来れば奴らも迂闊にはやって来ないだろう。普通科と工業科は校舎が違うし、中庭は工業科からは結構離れているため、距離を考えれば来ようとする奴はほとんどいない。それにここは超大金持ちのSクラスの生徒らもいるので、何かあれば警備員らにつまみ出されるはずだ。
 それにしても頭いてえな。こりゃあまじで体調不良になってきたかも。

「おい、お前大丈夫か?」

 ボコられていた生徒は小柄で小学生かってくらい身長が低い黒髪男子だった。
 顔は俯いていてよく見えないが、がたがた震えている。校章の色を見る限りやっぱり工業科の生徒か。

「ま、お前もいろいろあるんだろうけど、あーゆー奴に対抗するにはまず自分が強くn「勝手な事すんじゃねーよ」

 は?ん、なんか言った?

「誰が助けてくれって言ったんだよ!勝手な事しやがって!」

 ボコられていた生徒は顔を上げて俺を睨み付けてきた。

「お前……」
「おれは自分でなんとかしようと思ってたんだ!なのにてめえはおれを助けやがって!正義の味方気取るんじゃねえよ!この偽善者!」

 まさかのいじめられたいドMな奴……ではなさそうだ。
 
「そーかいそーかい。そりゃ悪かったな。お前があまりに情けなさそうだったから助けてやったんだよ。わるぅーございました!」
「っ……!てめえ」

 俺の嫌味な態度にますます怒りを孕んだようだ。だって余計なお世話ではあったがその態度はねーだろよ。

「俺に怒れる元気があるなら全然平気そうだな。鼻っ柱は強いじゃないかオチビちゃん」
「チビ扱いすんじゃねーよ!糞強姦魔野郎!」

 俺に飛び掛かり、コイツ俺の腕に思いっきし噛みついてきやがった。

「いでっ!いでででええ!この噛みつくな!狂犬チビ!」
「うるせえ!てめえみたいな偽善者大嫌いだ!歯形つけてやるー!」

 俺の腕に噛みつきながらぽかぽかと叩いてくる攻撃は大したことはないが、すっげー鬱陶しい。嚙みつきが地味に痛い。チビだから小坊の生意気なガキにしか思えんわ。

「ええい!このクソガキが!いい加減にしねーとぶっとばs「甲斐くんと、翔くん!?」

 通りすがりの悠里がこちらに気づいて駆け寄ってきた。

「おい、こいつ悠里の知り合いか。クソ生意気なチビだな」

 放してくれねーので噛みつかれたまま悠里に見せつけた。くそ、噛みついた痕が残りそうだな。

「ごめんね!この子中学時代の幼馴染なんだ。工業科二年の山本翔介やまもとしょうすけくん。普段はいい子なのに……ちょっと翔くん。甲斐くんを放してあげて」

 悠里が肩を叩いてこのガキに声をかけると、ガキはぱっと顔をあげて笑顔になった。

「おれの悠里!」
「おれの悠里ぃ?」

 おれの、ってなんやねん。

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