【スピンオフ】学園トップに反抗したら様子がおかしくなったいろいろ

いとこんドリア

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90歳が高校三年時代へやり直し

中身爺のやり直し6

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 そうして切れた直が、女だろうが問答無用で手を振り上げようとする。
 たくさんの関係者の前だ。いろんな意味であかんと直を止めるべく駆け寄ろうとしたが、捻挫をしていた事を忘れていた俺は痛みにバランスを崩して倒れた。 

「いでぇ、ぶ!!」

 うつ伏せで盛大にすっ転んだ俺は、捻挫の痛みだけじゃなく顔面の痛みに半泣き。
 すげぇブザマだな俺。鼻血でてる。マジダッセェ。

「甲斐!」 

 倒れた俺に気づいた直は、彼女を押しのけて駆け寄ろうとする。
  
「だめじゃない甲斐ちゃん」 

 声と共に急な浮遊感に茫然とする。 

「捻挫しているのに無茶しちゃだめでしょ」 

 現れた相田が、俺を軽々とお姫様抱っこをして持ち上げていた。 

 ちょ、なんで寄りにもよってこの抱き方なんだよ。もっと持ち上げ方があるだろうが。 

「相田、お前なんでここに。ていうかおろせ」 
「えーと直ちゃんに用事があって来ただけー。その直ちゃんは激おこプンプン丸状態だけどね」 
「拓実……甲斐をおろせ」 

 お姫様抱っこという持ち方が気に入らないのか、ただの嫉妬なのか、あるいは両方だろうが、今度は相田に鋭い視線を向けている。 

「そんな睨まないでくれるかなぁ。別に怪我してる幼気な甲斐ちゃんを椅子に座らせようと持ち上げただけですぅ。全く独占欲強すぎ。重たい男は嫌われるよ~?」 
「黙れ。さっさと甲斐を椅子におろして離れろ」 
「へいへい」
 
 相田は俺を近くのソファーにおろした。先ほどの険悪ムードは別な意味でまた険悪になったような気がする。 

「ありがと、相田」 と、鼻血を拭く俺。
「別にいーって事。甲斐ちゃんのピンチにはいつだってこれから現れるからねー。オイラ、甲斐ちゃんの王子様だから」

 愛嬌あるウインクをしてみせるこやつ。遊んでいるのか本気なのかわからん奴だ。

「オウジサマって柄かお前」
「まあまあ、言葉のあやってやつ。それに直とあの女をCMに出させたのは元はといえばオイラが原因だから、ちょっと責任感じてるわけよ。消したくても消せない厄介な女だからね~」 
「冗談に聞こえないぞ」 
「あはは。アメリカンジョークだよ」

 そう言いながらも相田の顔がちっとも笑っていない。めちゃくちゃ笑顔だ。あと目が鋭い。こいつもこいつで物騒だ。ある意味、直以上に怖い所があるから油断ならない野郎である。くわばらくわばら。 

 でも、何を考えているかわからない部分はあっても、それらは全て直の事を思ってやっている事なのは知っている。なんだかんだ言い合っても、こいつらは仲間思いなのだ。きっと葛川沙央梨の事も相田なりになんとかしようと考えているのかもしれない。 

「ねえ、あなた達ってどういう関係なの?」
 
 俺と相田のやり取りを見ていた葛川沙央梨が声を掛けてきた。
 この状況じゃあいろんな意味で誤解されたかも。
 だからお姫様抱っこなんて抱き方はやめてほしかったよ。面倒くさい事になったし。
 そう愚図りつつ、すぐに弁解しようと頭の中で考えていると、

「それなりの深い関係だよーん」 

 あろう事か、相田は俺の肩を抱き寄せてきた。 

「はぁー!?」

 ちょ、おい!誤解されるような事言うなよ相田っ。
 お前と俺は普通の友人関係のようなものだろ。たぶん。

「あらァ、そうなの。じゃあ直の地味なお友達君は相田君とそういう関係なんだ~」 

 彼女は妙に納得したような顔でニヤついている。 
 やめてくれ。別に相田とはそういう関係じゃないっての。本当の恋人の直だって目の前にいるのに。 

 そんな直の表情は……笑顔だった。
 目が全く笑ってなくて、漂ってくる怒りのオーラだけは感じる事が出来る。相当に怒っているのが窺えた。

 俺、後で嫉妬に狂った直に監禁されるかも。そんで犯されまくるかも。尻穴の死亡フラグが立ち始めた。

 
「あら、あたしはそういうのに偏見ないから応援するわよ。お似合いじゃないの」 
「ちょ、違っ「そういう禁断の恋って憧れるわァ。ねえ?直」 

 彼女が直に視線を合わせながら近寄り、腕を絡めてしなだれかかる。こういう馴れ馴れしい女って嫌だな。

「そうだな。仲睦まじいものだな」

 直は死んだ顔で言いながら、あろう事か葛川の腰に手を回し始めた。

 おい、なんでさっきとは一転して葛川にそんな事すんの。そんなオプション行動いらないだろ。なんか考えがあっての事か知らんが、俺はすこぶる嫌な気分になった。

 CMを見た時は多少モヤっとしただけで我慢できたのに、今はハッキリと嫉妬があふれてくる。葛川が直の体にピッタリ触れ、その直はたいした抵抗を見せないどころか葛川の腰に腕をまわしているこの状況。
 
 直に触れるなよ、このクソ女っ。
 直も直だ。なんでその女とくっついてんだ。たとえ考えがあったとしてもそんな見せつける言動やめれや。気分悪いわ。

 あーもう俺ってこんな醜い野郎だったっけ。
 女々しいと思われるかもしれないが、一刻も早くここから立ち去りたい。

 だから、逃げるように「うんこしてくる!」と、走り去っていた。
 俺の根負けで葛川に勝利を与えてしまったようなもので悔しい。 

 それから俺は直に黙って一人で寮に帰って、スマホの電源も切って、ベットの上で悶々と過ごした。着信やメッセージアプリの受信数がすごかったが、今は何も見たくなかった。

 
 ああ、そうだ。思い出した――――。

 俺と直は同時に嫉妬しあったんだ。 


 それが原因でその後、直が怒りだして俺も怒り返して、出会った初期の頃とはまた違った大ゲンカに発展して、今も口を利かないまま一か月経ったんだ。だからずっとケンカをしたまま――――。
 
 それも、仲直りできずにまさかになってしまうなんて――――。

 前世で九十年生きてきた中での最大の後悔の一つがこれだった。
 直の事も、ケンカをしていた事も、何もかも全て忘れていた事だ。



「ちょっと聞いているの!?ホモ野郎!」 

 回想を思い返して佇んでいた俺は、逆行した現実に戻された。
 目の前にいる女。葛川沙央梨の怒り口調によって。 

 回想を思い返していた間はほんの一瞬に過ぎないけれど、膨大な記憶が一瞬にして戻ったために頭が痛い。割れるようだ。 

「別れるって誓いなさいよ。あたしと直は結婚するんだから」 

 どうして忘れていたんだろう。直の事を。直を好きだった事を。愛し合っていた事を。 
 仲直りできないまま永遠に別れてしまった事を――――。

「……別れる事はできない……」 

 俺は頭を押さえながら無意識に言葉を発していた。 
 彼女を挑発してはいけない。これ以上刺激すればあの時のように……

 しかし、直を想う限り自分の気持ちに嘘はつけない。ケンカしたまま別れて、忘れたまま生き続けるなんてあまりに最低だからだ。直に申し訳がなさすぎる。 
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