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5.十年前の初恋(4)

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『ノア様を保護して頂いて本当にありがとうございました』
『いえいえ。こちらとしても孫とノア君と楽しそうに遊んでいたのを見て和みましてだな……』

 オジーと兵隊さんがこれまでのいきさつを話している。話を合間合間に聞いていると、ノア君はこの近くで乗馬訓練をしていたが訓練中にいなくなったらしい。それで彼ら兵隊達が総出で捜索にあたっていたんだとか。そりゃあ大騒ぎだろうな。

『はい、これあげる』

 私は昨日ノア君が何かを作ってという要望通り、用意していた不細工な猫の人形を差し出す。彼が寝ている間に以前作ったものを少し改良したものだが、我ながらへたくそな出来である。こんなんでいいのだろうか。

『……これ……狸か?』
『猫だよ』

 猫と狸を間違える程のへたくそな出来だが一生懸命作ったのだ。

『ありがとう……大事にする。御守りにするよ』

 ノア君は猫の人形を受け取って大事そうに懐にしまう。大したものじゃないんだけどな。

『大げさだよ。そんな下手くそなの』
『大げさなんかじゃない。俺にとっては亡くなった母親以外からの初めての手作りの贈り物に違いないんだ』

 複雑な環境の家に住んでいるのだろうか。

『カーリィ』
『ん……?』
『本当にまたあえたら……俺の……嫁になって……くれるか?』
『え……』

 ノア君の頬が、先ほど手を繋ぎ合って歩いていた時のように真っ赤になっている。緊張と不安が見え隠れしていて、相当勇気を出して言った言葉なんだろう。

『約束したよな。もらいにくるって』
『あ、あー……たしかにしたような……』

 訳も分からず返事したなんて言えないけれど、でもやっとその意味がわかった私としては恥ずかしげに口を開く。

『じゃあ、きみが……私のこと……ずっと好きでいてくれたら……嫁になってあげてもいよ』

 子供同士の約束だから、そのうち大人になってしまえば変わるかもしれない。でもこの時は本当に本気でノア君だったらいいなって思い始めていて、またすぐに逢えると思っていた。

『じゃあ……約束する。もっと身長が高くなって、もっと強くなって、賢くもなって、カーリィが惚れ直すくらいイイ男になる。その時こそ……もう一度言うよ。好きだって』
『ノア君……』

 寂しげだけれど、希望をもったノア君の笑顔があの時はまぶしかった。またねって何度も何度も手を振った。

 変だな。もう一度会えるはずなのに、どうしてそんなに泣いてるのかなって思っていたけど、今思えば彼はどこかの貴族だからそう簡単にあえるはずなんてないのにな。ばかだなー私。無知すぎてほんと馬鹿。

 元気にしているだろうか……ノア君。

 きみが住んでいると思われる帝都にもやって来たし、貴族が住んでいるだろう高級住宅街にも通り過ぎた事だってある。私が今立っているこの城下のどこかで、一瞬でもすれ違えたらって思うけど多くは望まない。

 もうあれから十年。男勝りな女の事なんてきっと忘れちゃっているかもしれないし、彼は貴族だ。それなりの身分のお嬢様と婚約でもしている頃だろう。貴族同士の結婚は早いと聞く。むしろ、別な人と結婚して幸せをもう掴んでいるかもしれない。

 それでも。それでももし、キミが独身で、今でも私を好きなら――……


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