【完】初恋相手が皇子とか勘弁しておくれよ

いとこんドリア

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10.大変身

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「これが……あたい……?」

 鏡の前に立って、上から下まで自分の変わり果てた姿をまじまじ見つめる。

 いつも汚れだらけの顔はファンデーションでキメが細かくなっており、眉毛やアイラインのおかげでいつもより目はパッチリ。瞼は薄ピンクのアイシャドウ。まつ毛は上に向き、唇には薄い紅が引かれている。フリルとやらがついたドレスは、空の色を連想させる青。つまり青を基調としたドレス姿の自分に茫然とする。

 髪にはキラキラした宝石がついた髪飾り。靴はダイヤのように輝くガラスのハイヒール。裾に向かって大きく膨らんだドレスはプリンセスラインというらしく、どこかのお伽話のお姫様みたいだった。

「本当は数日前から美容の効果がある食事とパックとエステとかもさせてあげたかったんだけど、お急ぎだったからね。でもだいぶ変わったね」
「はい。とってもかわいいですよ」

 侍女さん達が満足げに私を隅々まで眺めている。この侍女さん達の方が私よりよほど可愛いというか美人だと思うんだけど……。

「化粧とドレスだけで相当変わるんだね~。やっぱり磨けば光る原石だった」

 フレッドさんがじろじろと私を何度も見つめてくる。あのーそんなイケメン顔で見つめてこないでください。いろんな意味で緊張しちまうよ。

「わ、わたくし、オシャレとか疎いですし、言われた事がないので、可愛いとか言われてもピンとこないです」
「そうだろうね。だけど、これからは自分の容姿に自信持って生きてよ。カーリィは可愛いんだから」
「そうです!フレッド様がそう言うんですから。完璧なまでに磨きあげたら一体どこまで綺麗になるか知りたくなっちゃうくらいですよ」


 洋服屋でいう店員がどんなにその人にそれが似合ってなくても「似合ってますよォ」なんて持ち上げまくる心理と同じなのかも。でも、多少なりとも可愛いって自信持っていいのかな。

「せっかく綺麗になったんだから、そのカッコで今夜だけは仕事を忘れて遊んで来なよ」
「遊ぶだなんて」

 それこそ男相手に遊んだらただのアバズレじゃないか。と、考えているとフレッドさんに半ば強引に手を引かれて、舞踏会場へと向かう羽目になってしまった。行き交う人のほとんどがこちらを見て来て、私は下を向きながら歩くのがやっと。やっぱり変だよなこの姿。

 そんなに見ないほしい。恥ずかしい。ドレス姿が似合っていないのは自覚済みだ。そもそもこの人に手を引かれて歩いている私……いいのかな。変な誤解されたらどーすんだって話なのに。先ほどから鉢合わせていく貴族風の女性達の視線が痛い事痛い事。目を合わせないようにするのがやっとだ。

「ほい、これ装着ね」

 入り口前でフレッドさんに蝶のような仮面を手渡された。
 会場内では素性を明かせないルールとなっており、必ず仮面を装着する事が義務付けられている。それは時計塔の閉演を合図する鐘が鳴るまでずっと。仮に故意に正体を明かせば、罰金数十万と二度と夜会に参加ができないペナルティーがあるのだとか。

 へぇ、ちゃんと罰もあるのか。夜会はどうでもいいが罰金はやだなあ。仕事にも支障でそうなのでバレないようにしなきゃ。

「カーリィちゃんは何時まで平気?」
「0時になるまでならいいですよ」

 ふと時計を見ると今は23時半過ぎ。

「あと30分しかないじゃん。別にシンデレラじゃないんだからそれ以降も楽しみなよ。夜はまだまだこれからなんだから」
「や、私まだ仕事残ってるんで。0時にまた戻ってやらないと明日の朝までに終わらないですし。舞踏会に行ってる同僚の分も頼まれてますから」
「ええっ。それって一夜漬け!?働き者すぎでしょ。それに欲もねーとか聖人じゃん。少しくらいは贅沢してもいいのに勿体無い。そーゆー所はいい所でもあるけど、損してるね」
「別に損なんてしてないですよ。たくさん働いた分だけ給料当たりますから。それに忙しいのは今日だけなんで」

 数分ほど待っていると、周りのみんながお気に入りのそれぞれのお相手を選び出した。みんな仮面をつけながらもいいと思った人にアプローチしたり、されていたりする。なるほど、女性はあんな風にドレスを摘まんで挨拶をするのか。初めて知った。男性は男性で畏まりながら胸に手を当てている。ふむふむ、なるほど。

「あ、そろそろ一曲目か。間に合ってよかったね」
「ダンス……あの、本当に踊れないですからっ」
「大丈夫。何事も初めてはそんなもんよ。あと俺にどんと任せといて。ちゃーんとエスコートしてリードしてあげるから抜かりはないさ。こんな愛らしい姫になったんだからね。俺がリードしなくて誰がするんだって話で「フレッド様」

 向こうの方から衛兵らしき数名が慌てた様子で駆けつけてくる。

「ここにいらっしゃいましたか」
「げ、まさかもう自由な時間終了のお知らせ?」

 フレッドさんは残念そうな表情で頭を押さえている。え、終わりって、

「そのまさかです。皆で探しておりました。あちらの方で陛下の使いの方がお待ちです」
「うは。まじか……タイミング悪いなァ」

 ため息がちにフレッドさんは私に向き直る。

「悪いね、カーリィちゃん。お仕事が入っちゃった。今からって時に本当にゴメン」
「あ、いや、こんな格好をさせてくれましたし、それだけ収穫というか……満足です。こちらこそありがとうございました」
「や、カーリィは俺がいなくなってもここで楽しんでいきなよ」
「は、いや、でも……っ」
「不安なのはわかるよ。だけどせっかくそんなカッコしてんのに一曲くらいは誰かと踊りなよ。良くも悪くも思い出になるでしょ」
「フレッドさん……」

 確かに、思い出にはなる。こんな格好なんてもう二度と出来ないし、二度とこんな華やかな世界に足を踏み入れる事もないだろうと思う。

「とにかく、残りの30分を無駄にしちゃだめよ、お姫様!」

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