15 / 51
15.皇太子の部屋
しおりを挟む
「えぇ、私が皇太子様の部屋を!?」
メイド長に呼ばれた私は素っ頓狂な声をあげた。
いやだって。入って数か月の下っ端な私がいきなりアラン殿下の部屋を掃除しろだよ。声をあげたくもなるよ。
普通、皇太子の部屋といえば、信頼のおけるベテランや主任クラスのメイドが担当するはずなんだけれど、なぜかぺーぺーの私が抜擢された。私はまだメイドにも昇進していない見習い掃除婦ですよ。わかっているのでしょうか。
いくら人手不足でシフトが回らない状態だからと言っても、見習いが皇太子様の部屋の清掃なんていろんな意味で荷が重い。あの仮面舞踏会でのワンナイトを思い出してしまうし。
「アラン様のお部屋を担当していた子が辞める事になっちゃってね、代わりをヒューズさんならって事で執事長と相談して決めたのよ」
「なぜ私なんでしょうか?」
「あなたは誰よりも真面目に取り組んでいるし、主君や目上の方にお声をかけられても浮かれる様子がなかった。何より、先日の舞踏会での働きぶりが評価されたのよ。みんなが出たがらない特別な行事の日でも、あなただけが一番頑張って動いてくれたからね。アラン様のお部屋を任せてもいいと判断しました」
「で、ですが、メイドではない私が皇太子様のお部屋を担当するだなんて……他に適任が……っ」
「その適任があなたしかいないと思ったの。他のメイドだとどうしても舞い上がってしまうし、色恋の目で見てしまう。ベテランで信頼のおける者はすでに陛下のお部屋を担当していて、さすがにアラン様のお部屋まで担当させるとなると荷が重い。それにアラン様はその、女性に近寄られるのが苦手でいらっしゃるから……だから、アラン様相手でも色欲を見せないあなたがいいと思ったわ」
「えー……そんな」
あの人、女性が苦手なのか。あのダンスの時はそうは見えなかったけどなぁ。それに図書館で別な女性とお楽しみの最中だった事もあるし……
「女性が苦手云々は詳しくは私でもわからないけどそういう事なのよ。適任のメイドが決まるまでの辛抱だからしばらくお願い。給料もその分上乗せするから。あなただけが頼りなのよ」
「っうぐ……」
メイド長の給料上乗せ発言に、つい私はグラついて誘惑に負けてしまった。心の弱い自分で情けない。私って案外金にがめついのかも。故郷に住んでいるオジーを楽させてあげたいって気持ちが大きいせいだ。
それからアラン様の部屋の清掃に行くべく台車を引きながら悶々と廊下を歩いた。
皇太子の部屋か。誘惑に負けて引き受けた身でありながらも、今更ながら怖気づいてきてしまう。無理してでも辞退しておけばよかったかもしれない。
同僚達から羨望の眼差しを一気に浴びたけど、私としては嬉しくないよ。これ以上顔を合わせる事があるようなら、取り返しのつかない事になりそうな気がするのだ。
気になっちゃ……だめなのに……。
ダメだとわかっていながらも、心のどこかで嬉しく思ってしまっている自分がいる。胸がぎゅっと締め付けられて、苦しい。
今の私じゃ地味な掃除婦にしか映らないけど、あの人は……アラン様はあの時の私をどんな風に見ていたんだろう。ただのどこにでもいるような、無理に着飾った平凡な女だと思ったのかな。それとも、少しは見始めてくれたかな。
あの人の事が、やっぱり知りたい………。
心の奥底にいるもう一人の自分が、アラン様への想いを募らせていく。
限られた者しか足を踏み入れられない大理石の空間に圧倒される。廊下からして金箔やら宝石やらの装飾が施され、絨毯も真っ赤な生地に金の刺繍が施されている。
骨董などには興味はないが、きっと死ぬほどお高い素材などを使っているんだろう。この目の前の扉からして豪華さが際立っている。
私は何度目かの深呼吸をして、緊張気味にアラン様の部屋の扉をノックした。
「アラン様……清掃係の者です。お部屋の清掃に参りました」
……………
……………
返事がない。ただの屍のy……じゃない。アラン様はいないのか?
まあ、いない方が都合がいいと考える。会ったら会ったでいろんな意味で緊張しそうだし、ダンスを踊った時のボロが出そうで怖いしな。これ以上いろんな感情を抱きたくないもの。
私は専用のマスターキーで鍵を開けてそっと扉のノブをまわす。ゆっくり中の様子を確かめながら扉を開けて、足を踏み入れる。
恐ろしい程広くて豪華なアラン様の部屋に驚きつつ、とりあえずトイレ掃除から始めようかと雑巾とバケツを準備しに行く。と、奥の部屋からかすかに寝息のようなものが聞こえてきた。
もしかして……いる?
メイド長に呼ばれた私は素っ頓狂な声をあげた。
いやだって。入って数か月の下っ端な私がいきなりアラン殿下の部屋を掃除しろだよ。声をあげたくもなるよ。
普通、皇太子の部屋といえば、信頼のおけるベテランや主任クラスのメイドが担当するはずなんだけれど、なぜかぺーぺーの私が抜擢された。私はまだメイドにも昇進していない見習い掃除婦ですよ。わかっているのでしょうか。
いくら人手不足でシフトが回らない状態だからと言っても、見習いが皇太子様の部屋の清掃なんていろんな意味で荷が重い。あの仮面舞踏会でのワンナイトを思い出してしまうし。
「アラン様のお部屋を担当していた子が辞める事になっちゃってね、代わりをヒューズさんならって事で執事長と相談して決めたのよ」
「なぜ私なんでしょうか?」
「あなたは誰よりも真面目に取り組んでいるし、主君や目上の方にお声をかけられても浮かれる様子がなかった。何より、先日の舞踏会での働きぶりが評価されたのよ。みんなが出たがらない特別な行事の日でも、あなただけが一番頑張って動いてくれたからね。アラン様のお部屋を任せてもいいと判断しました」
「で、ですが、メイドではない私が皇太子様のお部屋を担当するだなんて……他に適任が……っ」
「その適任があなたしかいないと思ったの。他のメイドだとどうしても舞い上がってしまうし、色恋の目で見てしまう。ベテランで信頼のおける者はすでに陛下のお部屋を担当していて、さすがにアラン様のお部屋まで担当させるとなると荷が重い。それにアラン様はその、女性に近寄られるのが苦手でいらっしゃるから……だから、アラン様相手でも色欲を見せないあなたがいいと思ったわ」
「えー……そんな」
あの人、女性が苦手なのか。あのダンスの時はそうは見えなかったけどなぁ。それに図書館で別な女性とお楽しみの最中だった事もあるし……
「女性が苦手云々は詳しくは私でもわからないけどそういう事なのよ。適任のメイドが決まるまでの辛抱だからしばらくお願い。給料もその分上乗せするから。あなただけが頼りなのよ」
「っうぐ……」
メイド長の給料上乗せ発言に、つい私はグラついて誘惑に負けてしまった。心の弱い自分で情けない。私って案外金にがめついのかも。故郷に住んでいるオジーを楽させてあげたいって気持ちが大きいせいだ。
それからアラン様の部屋の清掃に行くべく台車を引きながら悶々と廊下を歩いた。
皇太子の部屋か。誘惑に負けて引き受けた身でありながらも、今更ながら怖気づいてきてしまう。無理してでも辞退しておけばよかったかもしれない。
同僚達から羨望の眼差しを一気に浴びたけど、私としては嬉しくないよ。これ以上顔を合わせる事があるようなら、取り返しのつかない事になりそうな気がするのだ。
気になっちゃ……だめなのに……。
ダメだとわかっていながらも、心のどこかで嬉しく思ってしまっている自分がいる。胸がぎゅっと締め付けられて、苦しい。
今の私じゃ地味な掃除婦にしか映らないけど、あの人は……アラン様はあの時の私をどんな風に見ていたんだろう。ただのどこにでもいるような、無理に着飾った平凡な女だと思ったのかな。それとも、少しは見始めてくれたかな。
あの人の事が、やっぱり知りたい………。
心の奥底にいるもう一人の自分が、アラン様への想いを募らせていく。
限られた者しか足を踏み入れられない大理石の空間に圧倒される。廊下からして金箔やら宝石やらの装飾が施され、絨毯も真っ赤な生地に金の刺繍が施されている。
骨董などには興味はないが、きっと死ぬほどお高い素材などを使っているんだろう。この目の前の扉からして豪華さが際立っている。
私は何度目かの深呼吸をして、緊張気味にアラン様の部屋の扉をノックした。
「アラン様……清掃係の者です。お部屋の清掃に参りました」
……………
……………
返事がない。ただの屍のy……じゃない。アラン様はいないのか?
まあ、いない方が都合がいいと考える。会ったら会ったでいろんな意味で緊張しそうだし、ダンスを踊った時のボロが出そうで怖いしな。これ以上いろんな感情を抱きたくないもの。
私は専用のマスターキーで鍵を開けてそっと扉のノブをまわす。ゆっくり中の様子を確かめながら扉を開けて、足を踏み入れる。
恐ろしい程広くて豪華なアラン様の部屋に驚きつつ、とりあえずトイレ掃除から始めようかと雑巾とバケツを準備しに行く。と、奥の部屋からかすかに寝息のようなものが聞こえてきた。
もしかして……いる?
0
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる