ショートショートまとめ

YUKIKA

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憧れのあなた

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名前も知らないその人に、ひと目で惹かれてしまった。
「すみません、相席してもいいですか。」
オフィス街のお昼時、込み合うカフェの片隅でようやく席を見つけて声をかけた。
「ええ、いいですよ。」
 どうぞと、テーブルの荷物を片付け半分開けて、読んでいた書籍に視線を戻す。フレーム越しに見える目元がとても涼やか。
 やがて運ばれてきたランチセットを食べる姿も、静かで穏やかで、スマホをいじるふりをして、でも、目線はくぎ付けだった。
「どうかしましたか。」 
 うっかり目が合ってしまって気まずい。
「いえ、何でもありません。すみません、じろじろ見るようなことをしてしまって。」
「大丈夫ですよ。何か私の顔についていたかなぁと思っただけです。」
 慌てて謝る私に向られた、ほほえみにもうっとりして次の言葉が見つからなかった。
 その後、同じカフェで何度か顔を合わせた。近くの商社で働いていること、私の会社にも何度か来たことがあること。そして、趣味の読書の話で楽しいひと時を過ごせるようになり。その会話も洗練されていて、もしかして私もすごい人になれたんじゃないかと思えるくらい。
「もしよければ、うちにきませんか、お貸ししたい本もありますし。」
大型連休を目前にしてのお誘い。嬉しくて、
「ぜひ、行かせてもらいます。」
 あこがれの人と女子会なんて、しかもお泊り。ふふっ
「なんだか調子よさそうだね。」
「わかりますか。今度すっごく楽しみなことがあって。」
「もしかして、彼氏ができたとか。」
「もうっ、違いますよぉ。」
「ふーん。」
 面白くなさげな先輩の反応も気にならないくらい、ウキウキ。

 待ちに待った当日、張り切って待ち合わせの1時間も前についてしまう。
「お待たせしました。」
 とか言って集合時間の30分前には来てくれる当たり、なんだか大切にされている気分。
 その後、お部屋にもっていく食べ物や、気になっていた小説の新刊を買い込み、目的地へ。
 その夜は、映画を見ながらいろんな話で盛り上がった、1DKのアパートは本以外のものはすごく少なくて、生活感もあんまり感じなかったけど、それでも間接照明の明かりや観葉植物の緑に癒される空間。
 次の日、遅めに起きた朝は、昨日コンビニで買ったサラダを盛り付けて、スクランブルエッグ。私の仕事は食パンを焼く係。
「それ、温度設定高くなっちゃってるよ。」
「え、わ、わわっ。」
 慌てて取り出してもちょっぴり黒いところが見える。
「ごめんなさい、まだパンが残ってたから、やり直すね。これは私が、、、」
「大丈夫だよここだけ取ってしまえば大丈夫だから。お腹すいちゃったしいただきますしよっ。」
 その日の、予定を話しながら食べる焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった。
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