上手なクマの育て方

ROKU

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 コンビニのバイトは1ヶ月と続かなかった。

「オマエには責任感も勤労意欲もまったく無い!」

 なんて、ショーゴにクドクド言われるまでもなく、責任感が足りないことは自分でもちゃんと解ってる。
 でも言わせてもらえば、勤労意欲くらい、柊一にだってちゃんとあるのだ。
 それがコンビニのバイトで上手く発揮できなかっただけのこと。
 そうは言ってもこんな不平等な世の中で、ろくな学歴もなければ職歴もなく、もちろん親のコネなどカケラも持ち合わせない自分には、職の向き不向きなんて言う余地もないのだ。
 柊一は、薄い掛け布団をひっぱりあげた。
 2月の冷え切った空気が肩の辺りをスースーと通り抜け、オンボロアパートの壁の薄さを痛感する。
 柊一は、くしゃみをひとつ炸裂させ、布団の中で海老のように丸まった。
 するとなにかぬくぬくと温かいものが、柊一の筋張った足の先に触れたのだ。
 それは、どうやら生き物らしかった。
 そいつの方からモゾモゾと、柊一の足に擦り寄ってきた。
 そして柊一の足の匂いを嗅いでいるらしく、軽い息が足指をくすぐるので、柊一は驚く以上に、笑いそうになってしまった。
 大きさからして、ネズミとかネコじゃないらしい。
 じゃあ、犬か?
この安普請のボロアパートなら、野良犬が入り込んできても不思議はないが。
 ヘタに動いて噛みつかれでもしたらイヤだと思い、ジッと様子をうかがっていると、人懐っこい野良犬(?)は匂いに満足したらしく、そのまませんべい布団の中を行軍してきて、柊一の顔もとにポッカリと浮かび上がった。
 驚いたことに現れたのは、人間の子供の顔だった。
 濃い睫毛に縁取られたアーモンド型の眸が、まっすぐに柊一を見つめている。
 褐色の肌に、くっきりした眉、ちんまりした鼻、ぷっくりした唇。それに薔薇色の頬を備えた、幼い子供の顔。
 しかしその頭には、人間にはありえない毛むくじゃらの耳が2つ、髪の毛の間から半円形に突き出ていた。
 顔の両側には、ちゃんと人間の耳が2つ付いているのに、頭のてっぺんに、もう2つ余分な耳が付いているのだ。
 柊一は半分眠った思考で、その不可思議な顔を見つめ返した。
 が、すぐに考えるのが面倒くさくなってしまった。
 まったく意味不明だったが、とりあえず子供の顔は可愛かったし、すり寄ってきた身体はぬくぬくと温かかった。
 しかもこの子供ときたら、なんだかとてもいい匂いがしたのだ。
 嗅いでいると、無性に嬉しくなって、しかも安心するような匂い。
 害になるようなことは何もなさそうだった。
 だから柊一は、すり寄ってきた小さな身体をアンカ代わりに抱きしめて、惰眠の続きを貪り続けることにした。
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