輝きを見抜く令嬢は、偽りの愛にさよならを告げる

法華

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3話

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 自室に閉じ込められ、どれくらいの時間が経っただろうか。セレスティーナは冷たい床に座り込んだまま、深い絶望に包まれていた。ユーリウスにも、継母たちにも、誰にも自分の言葉は届かない。それどころか、度重なる否定は、彼女自身の心をも蝕み始めていた。自分の持つこの「眼」が、ただの妄想や、他人を妬む心が生み出した幻覚なのではないかとさえ思えてくる。

(本当に、私の見ているものは正しいのかしら……。もし、私のほうが間違っていて、ユーリウス様を傷つけただけだったら……)

 不安が黒い霧のように胸を締め付ける。しかし、心の奥底で、何かが違うと叫んでいた。これまで自分の「眼」が間違えたことは一度もなかったのだ。幼い頃から、ただの石ころにしか見えない泥の塊の中に、息をのむような美しい結晶や、豊かな魔力が眠っているのを、彼女だけは見抜いてきた。その輝きは、いつも確かなものだった。

(確かめなければ……。せめて、この眼が本物なのかどうか、それだけは自分のために確かめたい)

 その一心で、セレスティーナは立ち上がった。夜の帳が下り、屋敷の者たちが寝静まるのを待って、彼女は音を立てないように部屋を抜け出した。月明かりだけを頼りに裏口から外へ出ると、冷たい夜気が肌を刺す。それでも、彼女の足は止まらなかった。

 向かったのは、王都の職人街の、そのまた入り組んだ裏路地にある小さな工房だった。そこは、腕は確かだが偏屈で有名な彫金師、レオ・グランダーが営む店だと聞く。貴族を嫌い、本当に価値のあるものしか扱わないという彼ならば、真贋を見極めてくれるかもしれない。最後の望みを託し、彼女は古びた木の扉を震える手で叩いた。

 しばらくして、中から不機嫌そうな壮年の男が顔を覗かせた。煤で汚れた顔に、すべてを見透かすような鋭い眼光。彼がレオ・グランダーだろう。

「あんだ、こんな夜更けに。お嬢ちゃん、ここはガキの来るところじゃねえ。ましてや、そのなりじゃ貴族だろうが。さっさと帰りな」

 レオはセレスティーナの身なりを一瞥し、虫を払うように手を振る。その拒絶の態度に怯みそうになるのを、セレスティーナはぐっとこらえた。もう後には引けない。

「お願いです、見ていただきたいものがあります。これの価値を、ただ、真実を教えてください」

 彼女はそう言うと、震える手で小さな革袋を取り出し、中からいくつかの石を作業台の上のランプの光の下に取り出した。それらはすべて、彼女がこれまでに集めた、磨かれる前の原石たちだ。夜会で砕かれた蛍石の仲間や、泥にまみれた水晶、何の変哲もない瑪瑙。傍から見れば、ただの石ころの集まりにしか見えないだろう。
 レオは呆れたようにそれらを見下ろしたが、ふと、そのうちの一つを無造作に手に取ると、眉を寄せた。そして次の石、また次の石と、次々に手に取って専門家の目で検分していく。彼の無表情だった顔から、徐々に侮りの色が消え、驚き、そして畏敬のような色へと変わっていくのをセレスティーナは見逃さなかった。

 やがてレオはすべての石を調べ終えると、ごくりと喉を鳴らし、信じられないものを見るような目でセレスティーナを見つめ返した。

「……お嬢さん。こいつら、全部、どこで手に入れたんだ?」
「家の領地の森や、川辺で……自分で見つけました」
「自分で……だと? 冗談だろ……」

 レオは息をのんだ。セレスティーナが差し出した「石ころ」たちは、すべてが未加工ながらも、最高品質の魔力と純度を秘めた、超一級品の原石ばかりだったのだ。こんな逸品を、素人が偶然見つけられるはずがない。これは、天賦の才だ。

 レオはセレスティーナの、不安と希望が入り混じった真っ直ぐな瞳をじっと見つめると、確信したように言った。

「なるほどな。あんた、持ってるのか。ごく稀に生まれるっていう、伝説の『神の眼(ディヴァイン・アイ)』に類するものを」
「神の、眼……?」
「ああ。石くれにしか見えねえ原石の、真の価値を見抜く眼だ。そいつは金や権力じゃ手に入らねえ、とんでもねえ代物だぜ。……お嬢さん、あんたのその眼は、国ひとつ買える価値がある」

 その言葉は、乾いた大地に染み込む水のように、セレスティーナの心に深く、深く染み渡った。
 ずっと蔑まれ、嘲笑されてきた。自分自身でさえ信じきれずにいたこの力が、初めて誰かに認められた。それも、本物だけを求める気難しい職人に、最高の賛辞をもって。
 安堵と、喜びと、そして今までの孤独や悲しみが一度にこみ上げてきて、セレスティーナはこらえきれず涙をこぼした。その涙は、工房の薄暗いランプの光を浴びて、本物の宝石のようにきらきらと輝いていた。

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