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あの日、レオに己の価値を認められてから、セレスティーナの世界は色を取り戻し始めた。彼女は継母たちの目を盗んでは、レオの工房へ足繁く通うようになった。レオはぶっきらぼうな態度を崩さなかったが、その瞳には明らかな熱意が宿っていた。「あんたの眼は宝だ。そいつを活かす術を叩き込んでやる」と言い、鉱石に関する専門的な知識から、原石を輝かせるための基礎的な加工技術まで、惜しみなく彼女に教えてくれた。
セレスティーナは、まるで乾いたスポンジが水を吸うように、夢中でそれらを吸収した。自分の「眼」が選び出した原石に、レオが教えた技術でヤスリをかけ、磨きをかける。すると、ただの石ころだったものが、内なる光を解き放ち、息をのむような宝珠へと姿を変える。自分の手で輝きを生み出すその喜びは、セレスティーナの内に深く眠っていた自信と誇りを、少しずつ、しかし確実に呼び覚ましていった。
一方で、王都ではヴァイスリング家に関する不穏な噂が、まるで燻る煙のように密やかに広まり始めていた。ユーリウスが掴まされた偽のブルーダイヤモンドの話が、どこからか漏れたのだ。「高価な偽物を掴まされて多額の損失を出したらしい」「もともと傾いていた財政が、いよいよもって危ないようだ」――そんな囁きは、お茶会の扇の陰で、あるいは夜会のダンスの合間に、貴族たちの間で格好の噂の種となっていた。
その噂を聞くたび、セレスティーナは複雑な気持ちになった。やはり自分の「眼」は正しかったのだという安堵と、忠告を聞き入れずに破滅へと突き進むユーリウスへの呆れ。そして、彼がこれから迎えるであろう苦難を思うと、微かな痛みが胸をよぎった。だが、その痛みはもはや、かつてのような恋慕からくるものではない。愚かな人間への憐れみに近かった。
(でも、もうわたくしには関係のないこと。自分の足で、自分の力で立たなければ)
そう決意を新たにしたセレスティーナは、ある日、レオにひとつの提案を持ちかけた。
「レオ師匠。この魔晶石を、市場に流してはいただけませんでしょうか」
彼女が作業台に並べたのは、自らが見つけ出し、丁寧に磨き上げた小さな魔晶石だった。魔晶石は魔力を貯蔵できる便利な石だが、品質には大きなばらつきがあるのが常だ。しかし、セレスティーナが選んだ石は、小粒ながらも驚異的な魔力貯蔵効率を誇る逸品ばかりだった。
レオは彼女の意図を即座に察し、口の端を上げてにやりと笑った。
「ほう、商売を始めるってか。いい度胸だ。いいだろう、面白そうだ。こいつは俺の工房の新作として、匿名で市場に出しておく。お嬢さんの名前は絶対に出さねえから、安心しな」
「ありがとうございます、師匠。このご恩は、決して忘れません」
レオの協力のもと、セレスティーナの魔晶石は市場に流された。そして、すぐにその真価が認められた。安価でありながら、従来のどの製品よりもはるかに性能が良い。特に、魔導具を製作する職人たちの間で瞬く間に人気が爆発し、「あの裏路地の工房の新作はすごい」と注文が殺到した。
数日後、レオは売り上げの入ったずしりと重い革袋を、セレスティーナに無言で手渡した。
「ほらよ、お嬢さんの取り分だ。たいしたもんだぜ、たった数日でこれだ」
革袋の中の硬貨がぶつかり合う重い感触と冷たい音は、セレスティーナにとって、どんな宝石よりも確かなものに感じられた。それは、誰かに与えられたものではない。自分自身の力で、自分の才能で、初めて手にした収入だった。
それはまだ、反撃の狼煙としてはあまりに小さなものかもしれない。しかし、セレスティーナの心には、確かな希望の炎が力強く灯っていた。継母やユーリウスに依存せずとも、自分は生きていける。その揺るぎない実感が、彼女の背筋をまっすぐに伸ばさせた。もう、うつむいてばかりの自分はいない。セレスティーナは、顔を上げて未来を見据える力と手段を、その手に掴み始めていた。
セレスティーナは、まるで乾いたスポンジが水を吸うように、夢中でそれらを吸収した。自分の「眼」が選び出した原石に、レオが教えた技術でヤスリをかけ、磨きをかける。すると、ただの石ころだったものが、内なる光を解き放ち、息をのむような宝珠へと姿を変える。自分の手で輝きを生み出すその喜びは、セレスティーナの内に深く眠っていた自信と誇りを、少しずつ、しかし確実に呼び覚ましていった。
一方で、王都ではヴァイスリング家に関する不穏な噂が、まるで燻る煙のように密やかに広まり始めていた。ユーリウスが掴まされた偽のブルーダイヤモンドの話が、どこからか漏れたのだ。「高価な偽物を掴まされて多額の損失を出したらしい」「もともと傾いていた財政が、いよいよもって危ないようだ」――そんな囁きは、お茶会の扇の陰で、あるいは夜会のダンスの合間に、貴族たちの間で格好の噂の種となっていた。
その噂を聞くたび、セレスティーナは複雑な気持ちになった。やはり自分の「眼」は正しかったのだという安堵と、忠告を聞き入れずに破滅へと突き進むユーリウスへの呆れ。そして、彼がこれから迎えるであろう苦難を思うと、微かな痛みが胸をよぎった。だが、その痛みはもはや、かつてのような恋慕からくるものではない。愚かな人間への憐れみに近かった。
(でも、もうわたくしには関係のないこと。自分の足で、自分の力で立たなければ)
そう決意を新たにしたセレスティーナは、ある日、レオにひとつの提案を持ちかけた。
「レオ師匠。この魔晶石を、市場に流してはいただけませんでしょうか」
彼女が作業台に並べたのは、自らが見つけ出し、丁寧に磨き上げた小さな魔晶石だった。魔晶石は魔力を貯蔵できる便利な石だが、品質には大きなばらつきがあるのが常だ。しかし、セレスティーナが選んだ石は、小粒ながらも驚異的な魔力貯蔵効率を誇る逸品ばかりだった。
レオは彼女の意図を即座に察し、口の端を上げてにやりと笑った。
「ほう、商売を始めるってか。いい度胸だ。いいだろう、面白そうだ。こいつは俺の工房の新作として、匿名で市場に出しておく。お嬢さんの名前は絶対に出さねえから、安心しな」
「ありがとうございます、師匠。このご恩は、決して忘れません」
レオの協力のもと、セレスティーナの魔晶石は市場に流された。そして、すぐにその真価が認められた。安価でありながら、従来のどの製品よりもはるかに性能が良い。特に、魔導具を製作する職人たちの間で瞬く間に人気が爆発し、「あの裏路地の工房の新作はすごい」と注文が殺到した。
数日後、レオは売り上げの入ったずしりと重い革袋を、セレスティーナに無言で手渡した。
「ほらよ、お嬢さんの取り分だ。たいしたもんだぜ、たった数日でこれだ」
革袋の中の硬貨がぶつかり合う重い感触と冷たい音は、セレスティーナにとって、どんな宝石よりも確かなものに感じられた。それは、誰かに与えられたものではない。自分自身の力で、自分の才能で、初めて手にした収入だった。
それはまだ、反撃の狼煙としてはあまりに小さなものかもしれない。しかし、セレスティーナの心には、確かな希望の炎が力強く灯っていた。継母やユーリウスに依存せずとも、自分は生きていける。その揺るぎない実感が、彼女の背筋をまっすぐに伸ばさせた。もう、うつむいてばかりの自分はいない。セレスティーナは、顔を上げて未来を見据える力と手段を、その手に掴み始めていた。
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