輝きを見抜く令嬢は、偽りの愛にさよならを告げる

法華

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8話

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 アシュトンの全面的な協力のもと、「祝福された山」の調査が本格的に始まった。セレスティーナの「眼」が指し示す場所を、アシュトンが信頼する領民たちが丁寧に掘り起こすと、地中から次々と未知の鉱石がその美しい姿を現した。それは、まるで夜明けの空を閉じ込めたかのように淡い虹色の光を宿し、星の砂をちりばめたかのような繊細な煌めきを持つ、神秘的な石だった。

 そして、専門家による分析の結果、その鉱石が持つエネルギー効率は、従来の魔晶石とは比較にならないほど凄まじいものであることが判明する。たった一粒で、王都の街灯を何日も灯し続けることができるほどの、莫大なエネルギーを秘めていたのだ。セレスティーナは、悠久の時を経て星の如き輝きを宿したその奇跡の石に、「星霜石(せいそうせき)」と名付けた。

 この発見は、単なる新鉱脈の発見ではない。王国のエネルギー事情を、産業構造を、ひいては軍事バランスさえも根底から覆しかねない、歴史的な大発見だった。

「セレスティーナ、君は……本当に、女神様だったのだな」

 星霜石の驚異的な性能を目の当たりにしたアシュトンは、感嘆と畏敬の声を漏らした。彼はこの発見の重大さを即座に理解し、王家へと報告。その報告を受けた王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、フォーサイス辺境伯領は、一夜にして王国で最も重要な土地の一つへと変貌を遂げた。

 そして、この大発見の立役者であるセレスティーナは、「星眼の乙女」という栄誉ある呼び名と共に、一躍王都の注目の的となる。かつて社交界の隅で「石ころしか愛せない地味な令嬢」と嘲笑された少女が、今や国の未来を担う重要人物として、誰もが敬意と好奇の念をもってその名を口にするようになったのだ。

 一方、その頃。王都の最も薄汚れた地区では、ユーリウスが破産の時を迎えていた。
 セレスティーナという最後の支えを失い、クレイヴァーン家の財産を手に入れることにも失敗した彼は、すべての財産を差し押さえられた。豪奢な屋敷も、きらびやかな服も、友人たちの賞賛も、すべてを失った彼は、日雇いの肉体労働でその日のパンをどうにか得るという、惨めな暮らしに転落していた。

 泥と汗にまみれながら、重い荷物を運ぶ彼の耳に、他の労働者たちが話す噂話が嫌でも届く。

「聞いたか? あのクレイヴァーン家の令嬢が、とんでもない鉱山を見つけたらしいぜ。フォーサイスとかいう辺境で」
「ああ、『星眼の乙女』だろ? 今や王侯貴族も一目置く、時の人だとか。なんでも、伯爵令嬢の身でありながら、王家から直々に称号を賜ったそうだ」

 その噂を聞くたびに、ユーリウスの心は嫉妬と憎悪の黒い炎でじりじりと焦げ付いていった。

(あの女が……! 僕を捨てて、成功しただと……!? 僕がいなければ、あんな地味な女、誰にも見向きもされなかったくせに!)

 彼は、かつて自分が「石ころ」と蔑み、招待客たちの前で無慈悲に床に叩きつけた、あの淡い緑色の蛍石のことを思い出していた。あの時から、いや、もっとずっと前から、彼女は自分が見ようともしなかった本物の輝きを持っていたのだ。その事実に気づくこともできず、傲慢さから彼女を足蹴にしたのは、紛れもなく自分自身だった。

 しかし、今のユーリウスに、自らの過ちを認めるだけの度量はない。彼の心にあるのは、自分をこの絶望の淵に突き落としたセレスティーナへの、身勝手で醜い逆恨みだけだった。彼は汚れた拳を固く握りしめ、成功の光に満ちたセレスティーナの姿を思い浮かべながら、憎悪に満ちた瞳をぎらつかせるのだった。
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