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星霜石の発見は、王家にも大きな衝撃と、それ以上の期待をもたらした。国王直属の正式な調査団がフォーサイス辺境伯領に派遣され、その価値が疑いようのないものであると確認されると、すぐさまフォーサイス領は王家直轄の重要開発拠点として指定されることになった。
そして、この歴史的偉業の中心人物であるセレスティーナには、国王陛下自ら「星眼の乙女」という正式な称号が与えられた。それと共に、国家への多大なる貢献に対する報奨金、そして星霜石鉱山の開発・管理における全権が委任された。一介の伯爵令嬢としては、前代未聞の破格の待遇だった。
王都に戻ったセレスティーナが最初にしたことは、父が残し、継母たちが膨らませたクレイヴァーン伯爵家の借金を、受け取った報奨金の一部で綺麗さっぱり完済することだった。そして、すべての手続きを終えた彼女は、久しぶりにあの息の詰まる屋敷の扉を叩いた。
応接室で彼女を迎えたのは、すっかりやつれ果てた様子の継母ファリスと、かつての華やかさを失い、安物のドレスを身につけた義妹クラリッサだった。二人はセレスティーナの華やかな成功を妬みつつも、彼女が莫大な金を手にして帰ってきたことを敏感に察し、媚びるような卑屈な視線を向けてくる。
「セレスティーナ! まあ、よく戻ってきてくれたわね! あなたも色々と大変だったでしょう。これからはまた、家族三人で力を合わせていきましょう」
「お姉様、そのドレス、とても素敵……! わたくしたち、もう貧しい暮らしは嫌なの。お姉様がいるなら、安心よね?」
その手のひらを返したような浅ましさには、もはや怒りも悲しみも湧いてこない。ただ、深い空虚さを感じるだけだった。セレスティーナは平坦な声で、借金の完済を告げた。二人が歓喜の声を上げるのを冷ややかに見つめ、彼女は続ける。
「この屋敷と、生活に最低限必要なだけの土地は残しました。ですが、あなた方にこれ以上の浪費を許すつもりは毛頭ありません」
セレスティーナは、二人に渡すのは最低限の生活費のみであること、そして今後はクレイヴァーン家の財産の管理をすべて自分が行うことを、事務的に、そして冷徹に通告した。それは、ミリアベルがカシアスに冷たく言い放ったように、感情を排した、しかし断固たる決意の表れだった。
「そ、そんな……! あんまりだわ! 私たちは家族でしょう!?」
「わたくしを家のための道具としか見ず、破産寸前のユーリウス様に売り渡そうとした方々が、今更どの口でそれを仰るのですか。わたくしにとっての家族の縁は、あの日、この家を出た時に断ち切りました。ごきげんよう」
わめき散らす二人を背に、セレスティーナは今度こそきっぱりと、そして永遠にあの家と決別した。
その後、彼女は王都の一等地に自身の工房を兼ねた邸宅を構えた。そして、偏屈だが腕は確かな彫金師レオを、破格の待遇で工房長として正式に迎え入れる。セレスティーナの「眼」が選び抜いた星霜石を、レオがその卓越した神業の如き技術で加工する。そうして生み出された宝飾品は、その比類なき美しさと、秘められた強大な魔力で、またたく間に王侯貴族がこぞって求める国一番のブランドとなった。
かつて地味なドレスを着せられ、夜会の隅で息を潜めていた少女は、今や自らの力で社交界の中心に立ち、誰にも真似のできない眩いほどの輝きを放っていた。それは誰かから与えられた偽りの輝きではなく、彼女自身が泥の中から掘り当てた、紛れもない真実の輝きだった。
そして、この歴史的偉業の中心人物であるセレスティーナには、国王陛下自ら「星眼の乙女」という正式な称号が与えられた。それと共に、国家への多大なる貢献に対する報奨金、そして星霜石鉱山の開発・管理における全権が委任された。一介の伯爵令嬢としては、前代未聞の破格の待遇だった。
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「セレスティーナ! まあ、よく戻ってきてくれたわね! あなたも色々と大変だったでしょう。これからはまた、家族三人で力を合わせていきましょう」
「お姉様、そのドレス、とても素敵……! わたくしたち、もう貧しい暮らしは嫌なの。お姉様がいるなら、安心よね?」
その手のひらを返したような浅ましさには、もはや怒りも悲しみも湧いてこない。ただ、深い空虚さを感じるだけだった。セレスティーナは平坦な声で、借金の完済を告げた。二人が歓喜の声を上げるのを冷ややかに見つめ、彼女は続ける。
「この屋敷と、生活に最低限必要なだけの土地は残しました。ですが、あなた方にこれ以上の浪費を許すつもりは毛頭ありません」
セレスティーナは、二人に渡すのは最低限の生活費のみであること、そして今後はクレイヴァーン家の財産の管理をすべて自分が行うことを、事務的に、そして冷徹に通告した。それは、ミリアベルがカシアスに冷たく言い放ったように、感情を排した、しかし断固たる決意の表れだった。
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