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一方的に婚約破棄してきたくせに、後から「申し訳ない」なんて通用しません!
しおりを挟む「リーシャ・グレイ。お前との婚約を破棄する!」
そう告げられた時は、頭が真っ白になりました。
愛していた人に、公衆の面前で罵倒され、傷つけられ、その上の婚約破棄。
恐ろしいやら恥ずかしいやらで、逃げるように街を去ったあの日。
あれから三年。
彼はなぜか、私の前で頭を下げています。
「本っ当に、申し訳なかった!あの時の俺はどうかしてたんだ」
そう言う彼の名前は、フェリックス・ダイク。
総資産額世界一とも目される大富豪、ジーク・ダイク......のいとこの孫。父親が相続権を放棄する代わりにお金を貰ったらしく、この国では有数の資産家の息子として、ちょっとした有名人です。
私はいわゆる普通の家に生まれて、平凡な日々を過ごしてきましたが、ある日彼と出会い、求婚されました。
私も当時はうぶだったものですから舞い上がってしまって、即刻OKしました。ですが後になって、やっぱりちゃんと付き合ってからの方が、ということになり、それから一年半ほど彼と付き合いました。
ところが、です。
そろそろ両親に紹介を、という段階になって、突然彼は婚約を破棄すると言い出したのです。
しかもその宣言を、街中の人々が集まる市政120周年のパーティーでしたものですから、瞬く間に噂は広がり、私は生まれた時から過ごした街にいられなくなりました。
理由は、彼は私の彼に対する態度が気に食わない、と言っていましたが、本当は単純に、私に「飽きた」のだと思います。
街を去ってすぐに、風の噂で彼に新しい婚約者が出来たことを知りました。
あの時のことは、私が馬鹿だった、と割り切って、新しい土地で三年を過ごしてきました。今は自分の人生にそれなりに満足しています。
それが、どうしてこんなことになったのでしょう。
「あの、私は」
「やり直したいんだ。信じられないかもしれないけど、俺は本気だから」
私の話を聞こうともせずに、一方的にまくし立てるフェリックス。
どうやら、あれから何度も自分の都合で婚約破棄を繰り返した結果、悪評が広まりついに婚約してくれる方がいなくなってしまった、ということらしいです。
「やっぱり、俺のことを本当にわかってくれたのは君だけだった。あの時のことは本当に、申し訳なかったと思ってるんだ」
すがりつくようにしながら、彼は猫なで声で私にそう言います。
私はため息をつきました。
「......あなたに、私の苦しみがわかりますか」
「えっ?」
きょとんとするフェリックス。
冗談じゃない。私の方こそ、言いたいことはたくさんあるのです。
「私はあの街で、子供の頃から暮らしてきました。思い出の場所も、昔からの友人も、あの街にはたくさんあったんです。それなのに、あなたのせいで、みんな奪われてしまいました」
「......」
「それだけじゃありません。あなたは、私の心を弄び、貴重な一年半まで無駄にしました。今更謝られたって、困ります。二度と来ないでください!」
言い終わる頃には、フェリックスの目つきは随分と鋭くなっていました。
「......そうかい。それならいいんだ。別にお前じゃなくたって、女はたくさんいる。妙な噂が流れていない、どこか別の街に行けばいいだけだ」
背筋を伸ばして、脅すようにこちらを見下ろすフェリックス。
それで脅しているつもりなのでしょうか。
「どうぞご勝手に」
私は言ってやります。
「ちなみに私は今、結婚しています。夫はあなたみたいなお金持ちじゃないけれど、とても優しい人です。あなたも早くできるといいですね、結婚」
これは流石に効いたようで、フェリックスは虚を突かれたような顔をした後、何も言わずに玄関から飛び出していきました。
全く、はた迷惑な話です。
翌日の朝刊に、フェリックス・ダイクのことが載りました。
私をこけにしたエピソードが、事細かに記載されています。他の女性から同様のタレコミが寄せられるのも、時間の問題でしょう。
私の夫はお金持ちではありませんが、新聞社に勤めています。
フェリックスが帰った後、彼のことを夫に話して、記事にしてほしいと頼みました。小さなコラム欄ですが、何しろ購読数ナンバーワンの全国紙です。国中を探しても、彼の悪評が流れていない土地は、ほとんどないでしょう。
これは、私のささやかな復讐です。
まぁ、また同じような目に遭った可哀想な女性を出さないため、でもありますけどね。
私は今、とても幸せです。
fin.
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その後の奴の末路が読みたいですm(_ _)m
良かった〜。
全国紙ですか。
「噂の広がってない場所で〜」
…詐欺予告ですか?
と問い詰めたくなりました。