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第2話
しおりを挟むパーティー会場は人で溢れていました。
どう考えてもその場に似つかわしくない格好をしている私は、あちこちで奇異な眼で見られはしたものの、幸いまだ追い出されていません。きっと誰かの女だとでも思われているのでしょう。
人混みの中に、ようやくレヴィを見つけました。
人々の間を縫って、どうにか近づこうとします。すると——。
「ああ、姫様!お元気でいらっしゃいますか」
レヴィは気持ち悪いくらいの猫なで声で、跪いていました。
相手は、煌びやかなドレスに身を包んだ、まだ若い女性です。おそらく、彼女がお姫様でしょう。
何をするつもりだろうか、と皆が見つめる中、レヴィは一輪の花を取り出します。
「今日という日のしるしに、是非この花を。異国で採れた、珍しい花です」
「まぁ、ありがとう」
レヴィがそう言って姫様に渡したのは、お父様の形見、あの花ではありませんか。
——あのっ、馬鹿!
「姫様、それに触れないで!」
「えっ?」
そう言った時には、もう遅すぎました。
彼女は花に、花弁の部分に、触ってしまった。
途端、苦しみだす姫様。
何が起こったかわからない様子で、困惑するレヴィ。どよめく参加者たち。
「ちょっと、そこをどいて!」
私は慌てて飛び出すと、姫様の指先を見ます。
やはり、血が出ていました。この花には、猛毒の棘が隠れているのです。
万が一自分が触れてしまった時のために、といつも持ち歩いていた解毒薬を飲ませると、姫様は少し楽になったようでした。
私は、彼女の手から慎重に花を取ると、レヴィを睨みつけます。
「あの花のことをよくも知りもせずに、盗むからこうなるのです!」
そ、そんな、私は盗んでなど......と、誤魔化そうとするレヴィ。
ですが、日頃から悪評が絶えず、しかもたった今姫様を危険な目に遭わせた者の話になど、今や誰も耳を傾けませんでした。
結局姫様も大したことがなく、お花も無事に戻ってきました。根元から引き抜かれていたのが逆に良く働いて、花壇に戻して水をやると、息を吹き返したようでした。
レヴィの家はお取り潰しが決まったそうです。その瞬間、他の女性にも全員そっぽを向かれて、今は売り払うことが決まっている自宅で、抜け殻のように暮らしているという噂を聞きました。
あの騒動は自分で取り上げられ、私のところにも一時期人が殺到しましたが、今はだいぶ落ち着いてきました。
ただ、今でも毎日やってきては花を買ってくれる方が、一人だけいます。
とても格好いい方なのですが、私が花の説明をしようと話しかけると、顔を真っ赤にして背けてしまうのです。
あの方は一体、何なんでしょうかね。
fin.
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ラスト部分
あの騒動は自分で取り上げられ…
とは?
自分では無く新聞?
花を買って行ってくれる客は…誰でしょう?
〔どこで絡んだモブ〕かのニュアンスがあると、話がすんなり通ると思います。
突然降って沸いたモブにびっくりしてしまいますので。
鈍感主人公で終わりですか?: ( ºωº ;))):
感想ありがとうございます!
まぁそのうちに気づくと思いますよ。