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3話
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アラン王子が訪れてからというもの、リディアは眠れない夜を過ごしていた。彼の言葉と、セリーナの声に混じる不協和音が、頭の中で何度も繰り返される。信じたい。でも、信じられない。その葛藤が彼女を苛んでいた。
その夜も、リディアはベッドから抜け出し、心を落ち着かせようと月明かりが差し込む庭園をさまよっていた。薔薇のアーチを抜けた先、噴水のそばに二つの人影を見つけたのは、その時だった。
月光に照らし出されたのは、婚約者のアランと、従妹のセリーナ。こんな夜更けに密会している二人の姿に、リディアの心臓が嫌な音を立てて跳ねた。物陰に身を潜め、息を殺して耳を澄ます。
「――あの陰気な女はもう用済みだ。あれだけ追い詰めれば、家の者が隠しているという『王家の遺物』の場所も、そろそろ吐くだろう。そうすれば、すぐにでも捨ててやる」
アランの冷酷な声が、静寂を切り裂いた。リディアは息を呑む。陰気な女。それは、自分のことだ。王家の遺物? 何のことかさっぱりわからない。
だが、それに応えるセリーナの声が、リディアの思考を完全に停止させた。
「ええ、アラン様。私こそが、貴方の隣に立つにふさわしいですわ。あの呪われた姉の代わりに、私が王太子妃になってみせます」
甘えるような声色。しかし、その裏にあるのは、どす黒い野心と嫉妬が奏でる、耳を覆いたくなるほどの強烈な不協和音だった。
「ああ、もちろんだ、私のセリーナ。君こそが私の女神だ」
アランはセリーナを優しく抱き寄せ、その唇に口づけを落とす。
(……ああ、そうだったの)
目の前で繰り広げられる光景に、リディアの世界は音を立てて崩壊した。
婚約者の裏切り。そして、たった一人信じていた従妹の裏切り。
すべての優しさは偽りだった。心配するふりをして、慰めるふりをして、二人は共謀して自分を陥れていたのだ。自分が利用されるためだけの、惨めな駒だったという事実に、絶望がリディアの全身を貫いた。
頭の中で、今まで聞いてきたすべての不協和音の意味が、一つにつながっていく。アランの冷たさも、セリーナの偽りの優しさも、両親の冷遇も、すべては仕組まれたものだった。自分を精神的に追い詰め、何かを手に入れるための、壮大な芝居。
「う……あ……」
声にならない嗚咽が漏れる。涙が後から後から溢れてきて、視界が歪んだ。もうこの屋敷にはいられない。自分を騙し、嘲笑う者たちがいるこの場所に、一秒だっていられない。
リディアは踵を返し、夢中で走り出した。誰にも見つからないように裏口から抜け出し、夜の闇の中へと飛び出していく。どこへ行く当てもない。ただ、この絶望の淵から逃げ出したかった。
冷たい夜気が肌を刺すが、それすら感じない。リディアの心は、裏切りの二重奏によって完全に引き裂かれ、粉々になっていた。
その夜も、リディアはベッドから抜け出し、心を落ち着かせようと月明かりが差し込む庭園をさまよっていた。薔薇のアーチを抜けた先、噴水のそばに二つの人影を見つけたのは、その時だった。
月光に照らし出されたのは、婚約者のアランと、従妹のセリーナ。こんな夜更けに密会している二人の姿に、リディアの心臓が嫌な音を立てて跳ねた。物陰に身を潜め、息を殺して耳を澄ます。
「――あの陰気な女はもう用済みだ。あれだけ追い詰めれば、家の者が隠しているという『王家の遺物』の場所も、そろそろ吐くだろう。そうすれば、すぐにでも捨ててやる」
アランの冷酷な声が、静寂を切り裂いた。リディアは息を呑む。陰気な女。それは、自分のことだ。王家の遺物? 何のことかさっぱりわからない。
だが、それに応えるセリーナの声が、リディアの思考を完全に停止させた。
「ええ、アラン様。私こそが、貴方の隣に立つにふさわしいですわ。あの呪われた姉の代わりに、私が王太子妃になってみせます」
甘えるような声色。しかし、その裏にあるのは、どす黒い野心と嫉妬が奏でる、耳を覆いたくなるほどの強烈な不協和音だった。
「ああ、もちろんだ、私のセリーナ。君こそが私の女神だ」
アランはセリーナを優しく抱き寄せ、その唇に口づけを落とす。
(……ああ、そうだったの)
目の前で繰り広げられる光景に、リディアの世界は音を立てて崩壊した。
婚約者の裏切り。そして、たった一人信じていた従妹の裏切り。
すべての優しさは偽りだった。心配するふりをして、慰めるふりをして、二人は共謀して自分を陥れていたのだ。自分が利用されるためだけの、惨めな駒だったという事実に、絶望がリディアの全身を貫いた。
頭の中で、今まで聞いてきたすべての不協和音の意味が、一つにつながっていく。アランの冷たさも、セリーナの偽りの優しさも、両親の冷遇も、すべては仕組まれたものだった。自分を精神的に追い詰め、何かを手に入れるための、壮大な芝居。
「う……あ……」
声にならない嗚咽が漏れる。涙が後から後から溢れてきて、視界が歪んだ。もうこの屋敷にはいられない。自分を騙し、嘲笑う者たちがいるこの場所に、一秒だっていられない。
リディアは踵を返し、夢中で走り出した。誰にも見つからないように裏口から抜け出し、夜の闇の中へと飛び出していく。どこへ行く当てもない。ただ、この絶望の淵から逃げ出したかった。
冷たい夜気が肌を刺すが、それすら感じない。リディアの心は、裏切りの二重奏によって完全に引き裂かれ、粉々になっていた。
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