ホエール・ホエール

渦黎深

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 クジラくらいの大きさの岩を迂回して、昇月を前に向き直させると、気持ち悪いチリチリってノイズがあたしの頭の中に響きだした。
「なにこれ」
「太陽系交通の通知用O・W。この先でトラブってて通行止めらしいよ」
「はぁ⁉︎最悪。このまま行っても間に合うかどうかギリギリのところなのに。というかこんな遠くまで飛ばせるものなの?」
「知らないの?やば。企業用にチューンされたO・Wだよ、スイおばあちゃん。栄えてる星じゃほとんどの企業が使ってるし」
 あたしはこんなのが響きまわってる街を想像してうんざりした。これじゃまともに会話すらできない。あたしは耐えられなくなって仮想ディスプレイをいじってプレイヤーのスイッチを入れた。
 軽くドライブのかかったギターのリフレインが耳を打つ。David Bowieの『Rebel Rebel』だ。
 あたしの足はアクセルの上で自然に踊りだした。昇月は何度かグラついたあと、グイッとスピードをあげた。
「あっぶないなぁ」 
「うっさい」
 ダメ押しでさらにスピードをあげる。
 何度かワープを繰り返し一時間くらい走ると、フロントガラスの真ん中にチカチカ光る黄色とオレンジ色が見えてきたと思うと、それは腕を振る人間の交通指導員を模した巨大なパネルになった。小さく見積もっても30メートルはありそう。
「趣味ワルッ」
 目に痛い光で縁取られた指導員はチェシャ猫みたいに笑いながら、これまた目に刺さる真っ赤な蛍光棒を持った腕を、一往復するのを見ていたらピッチが石を穿つくらいの遅さで振っている。その前には大小様々な船が停まっていてカラフルに輝く魚の群れみたい。よく見るといくつかの船のボディには見覚えのあるステッカーが貼ってあるから、あたしたちと同じ目的地なのかもしれない。他の船をジロジロ眺め回して同志を探していると、デカ指導員の平面部に電光掲示の文字が流れてきた。
〈太陽系公航路をご利用の皆様。大変ご迷惑をおかけしております。現在この先下り方面は、航路上に出現した多数の氷塊の影響で通行止めとなっております。現時点では復旧の目処は立っておりません。大変申し訳ありません。なおこの先50キロの準惑星オボロスに簡易補給基地を設置しておりますのでご利用ください......〉
 あたしが文字を追っかけるのに必死になっていると、昇月が燃料が減っていることを知らせるアラート音を発した。昔飼ってた電猫みたいだった。
「行こっか」
O・Wでとっくに状況を把握していたサクは、あたしのタバコを勝手に吸いながら頷いた。後で絶対返してもらう。
 交通指導員から誘導信号を受け取った昇月は餌に向かってまっしぐらに泳ぎだした。
「もー、間に合わなかったらどうしよう。ゼー・イー・ベーの出番わりと早いのに」
「私のは結構後だし、この辺でゆっくりしてってもいいけどね。おっさんたちに混じってライブ見たくないし」
「ふざけんな。リアルがライブに出ることなんて滅多にないのよ。何年振りだと思う?七十年よ、七十年!」
 サクは煙をため息に乗せて吐き出した。
「まだ生きてたのって感じよ。ピークだったのって私たちが生まれるよりずっと前じゃん。ほんと物好き。クラシックもいいけど新しいのも聞きなさい。行き過ぎた懐古趣味は栄養失調を招くってね」
「そのためにもフェスに行くの。アタシ最近のバンド全然知らないから教えてよね」
 サクは得意げになって
「任せなさい。今回のフェスはめちゃくちゃレベル高いから」と言ってあたしにお手製の絶対見るバンドリストを送ってきた。いろんなバンドの写真を切り貼りしたり、バンドのイメージごとにフォントやら色やらを変えて綺麗に作ってある。サクはこういうところがかわいい。
「まずはチンフォラオドンね。火星の炭鉱街出身のバンドなんだけどポストネオモダンブルース界じゃ今一番熱い。あとはモータル・クォータルとか。スモーカーズ・フォレスト出身で超高純度の草を吸って育ってきたから、並の人間の十倍はキマってて、ファーストの『ウィー・アー・プロフェッツ』を精神病患者に聞かせてるっていう星もあるらしいわ。生で聴けば確実にトベるってウワサ。そうそう飛ぶって言えばガニメデ・サイクロップスね。この前のライブで大音量出し過ぎてステージごと吹っ飛ばしたらしくて、その辺一帯のライブ主催者から総スカンくらったらしいんだけど、今回はその辺をどう調整するのかも見物ね。私はここのベースが好きなの、なんてったって顔がいいんだから。巨人だから顔の細部まで余すことなく見れんの。この前なんか......」
 
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