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「いやぁ、本当に申し訳ない」
ドロボー(大)は何回もあたしたちに謝りながら、変な形の容器にお湯を注いでいる。
「おじさん、何者?」
「おじさんかー」と少し長めの髪の毛を指で撫でながらドロボー(大)は苦笑いした。
「僕はナミシマってんだ。この星の研究所で働いてる」
あたしが、戻ってきたギターケースのポケットを開けて中身を確認していると、ナミシマは湯気のたちのぼるマグカップを三つ、お盆に乗せてこっちに近づいてきた。
「コーヒーだったんだ。人が淹れてるの初めて見たかも」
サクがちょっと興奮して言う。
「これぐらいしかお詫びはできないからね。子供のしたこととはいえ本当に申し訳ない。改めて謝らせてくれ。この子のしたことは全て僕の責任だ」
そう言うとナミシマはさっきからずっと腰にひっついている子どもの頭をポンと触った。
多分この子がさっきまで追いかけっこをしていた相手なんだろう。あたしは思ったよりも幼いドロボーに拍子抜けした。
「ほらルイ、このお姉さんに謝りなさい。ルイはこの人のとっても大事なものを盗っちゃったんだよ」
ルイと呼ばれたその子はちょっと躊躇ってからゆっくりとナミシマの足に押し付けていた顔をこっちに向けた。
透き通る青い瞳、人工物みたいに均一で、人の肌ではありえない文字通りの黒色の肌、だけど何よりもあたしの目を惹きつけたのは、振り向くと同時にふわりと外れたフードから出た、肩くらいまである真っ白な髪だった。今まで見たどんな白よりも白くて、周りの色を全て跳ね返して輝いていた。
「ごめんなさい、おねえちゃん」
いろんな音が混ざり合ったみたいな深い声に諭されるように、あたしは自然に頷いていた。
「い、いいよ、もう。ギターは無事に帰ってきたしね」
「んふっ。どもってる」
バカにしてきたサクを軽く睨むと、サクもルイの髪をじっと見つめている。
「ほんと、キレイ」
「でも、なんでギターなんか盗んだの?」
「それ、おっきい音出るんでしょ。最近ここにくる人たちがたまに持ってる。それを使ってお母さんが戻ってこれるようにするの」
「お母さん?どこにいるの?」
ルイは上を向いてつぶやいた。
「そら」
「……そっか。……あとで貸してあげる。おっきい音だけじゃなくて、いろんな音が出るんだよ」
「ほんと!?ナミシマ!これでお母さん戻ってくる!」
ルイはご機嫌そうに両手を広げて深く長く響く声で鼻歌を歌いながら、家の奥に走っていった。
「さっき言ったように、ルイが楽器を盗んでくるのはこれが初めてじゃないんだ。最近どういうわけだか、この星域を楽器を持ってる人がよく通るんだよ。そんでこの星に補給に降りた人の楽器を、たまにあいつが盗ってきちまう。困ったもんだよ」
そう言ってコーヒーを啜るナミシマは、言葉ほどは困ってなさそうだった。
「この通行止めが始まってからは君たちが初めてだよ。それにしてもどうしてこんなに楽器を持ってる人がいるんだ?」
「この先カイパーベルトの方面でおっきいフェスがあるの。あたしたちはそれにいく途中でトラブってるってわけ」
「なるほどな。ということは君たちは出演者ってことか」
「ん、ん~。まあそんなとこ」
「へー、すごいな。僕はその方面はからっきし分からないけど、そんな大きい物に出るってことは相当やり手とみた」
サクは呆れた顔をしながら「違うよ。うちらはただの客。こいつがちょっと変な理由で楽器持ってるってだけなの」ってソッコーでバラしやがった。
「なんだそうなのか。サインの一つでも頼もうと思ってたのに」
「未来の出演者よ。それに変な理由じゃないし……」
「まあどのみちこの通行止めじゃ当分かかるし、基地にいてばかりじゃ気が滅入るだろうからゆっくりしていってくれ」
「ゆっくりなんてしてらんないの!早くフェス会場につかなきゃいけないのよ。」
「まあまあどうしようもない事もあるよ。ねぇ、それよりタバコ吸ってもいい?」
ゆっくりしていってくれって言われた途端にそれかよ。あたしが呆れてるとナミシマは言った。
「そうだな。それじゃあ、外に行こう」
さっきまであたしたちがいたポーチに出ると冷たい風が吹き始めていた。
「二人はあまり驚かないんだね。助かるよ」
ナミシマが煙を吐き出しながらつぶやく。
「何が?」
「ルイのことだよ。この星じゃルイの姿を見て驚かない人の方が少ない。それもほとんどはネガティブな反応だ。おかげで、僕たちはこんな隅っこに住んでる」
「いや驚いたよ。ルイがどんな子なのか、今もめっちゃ気になってる。でもネガティブな気持ちはないよ、すごいキレイだと思ったし、悪い子じゃないってわかったから」
「そりゃ助かるよ。ルイの外見に違和感を覚えるのは仕方がない。でも分からないものに恐怖を感じて、避けようとする人がこの星には多すぎる。ルイにはまともに話せる相手が僕しかいないんだ」
「ナミシマが気にしすぎなんじゃない?ルイのことを受け入れてくれる人も中にはいると思うな」
「そうやって外に晒さないようにしてんでしょ、過保護」
「ハハ、過保護か……僕にもいつの間にか親心が芽生えてきてたってわけだ。まあ、ともかく、君たちがこの星にいる間だけでもルイの遊び相手になってくれないかな?」
ナミシマは恥ずかしそうに鼻をかきながら言った。
「いいけど、この通行止めっていつまで続くの?ナミシマはこの星に住んでるんだから、なんか分からないわけ?」
「分からないことはない。なんなら熟知していると言ってもいい」
「そうなの!?じゃあ教えてよ!」
「通行止めの原因になっているのは氷鯨という生き物だ」
「そうそれ!さっき基地で見たわ」
「氷鯨はこの星にしか生息していない軟体生物で僕の研究対象だ。そして……」
ナミシマは最後のタバコを吸いきり、火を押し付けてもみ消すと言った。
「ルイの母親だ」
ドロボー(大)は何回もあたしたちに謝りながら、変な形の容器にお湯を注いでいる。
「おじさん、何者?」
「おじさんかー」と少し長めの髪の毛を指で撫でながらドロボー(大)は苦笑いした。
「僕はナミシマってんだ。この星の研究所で働いてる」
あたしが、戻ってきたギターケースのポケットを開けて中身を確認していると、ナミシマは湯気のたちのぼるマグカップを三つ、お盆に乗せてこっちに近づいてきた。
「コーヒーだったんだ。人が淹れてるの初めて見たかも」
サクがちょっと興奮して言う。
「これぐらいしかお詫びはできないからね。子供のしたこととはいえ本当に申し訳ない。改めて謝らせてくれ。この子のしたことは全て僕の責任だ」
そう言うとナミシマはさっきからずっと腰にひっついている子どもの頭をポンと触った。
多分この子がさっきまで追いかけっこをしていた相手なんだろう。あたしは思ったよりも幼いドロボーに拍子抜けした。
「ほらルイ、このお姉さんに謝りなさい。ルイはこの人のとっても大事なものを盗っちゃったんだよ」
ルイと呼ばれたその子はちょっと躊躇ってからゆっくりとナミシマの足に押し付けていた顔をこっちに向けた。
透き通る青い瞳、人工物みたいに均一で、人の肌ではありえない文字通りの黒色の肌、だけど何よりもあたしの目を惹きつけたのは、振り向くと同時にふわりと外れたフードから出た、肩くらいまである真っ白な髪だった。今まで見たどんな白よりも白くて、周りの色を全て跳ね返して輝いていた。
「ごめんなさい、おねえちゃん」
いろんな音が混ざり合ったみたいな深い声に諭されるように、あたしは自然に頷いていた。
「い、いいよ、もう。ギターは無事に帰ってきたしね」
「んふっ。どもってる」
バカにしてきたサクを軽く睨むと、サクもルイの髪をじっと見つめている。
「ほんと、キレイ」
「でも、なんでギターなんか盗んだの?」
「それ、おっきい音出るんでしょ。最近ここにくる人たちがたまに持ってる。それを使ってお母さんが戻ってこれるようにするの」
「お母さん?どこにいるの?」
ルイは上を向いてつぶやいた。
「そら」
「……そっか。……あとで貸してあげる。おっきい音だけじゃなくて、いろんな音が出るんだよ」
「ほんと!?ナミシマ!これでお母さん戻ってくる!」
ルイはご機嫌そうに両手を広げて深く長く響く声で鼻歌を歌いながら、家の奥に走っていった。
「さっき言ったように、ルイが楽器を盗んでくるのはこれが初めてじゃないんだ。最近どういうわけだか、この星域を楽器を持ってる人がよく通るんだよ。そんでこの星に補給に降りた人の楽器を、たまにあいつが盗ってきちまう。困ったもんだよ」
そう言ってコーヒーを啜るナミシマは、言葉ほどは困ってなさそうだった。
「この通行止めが始まってからは君たちが初めてだよ。それにしてもどうしてこんなに楽器を持ってる人がいるんだ?」
「この先カイパーベルトの方面でおっきいフェスがあるの。あたしたちはそれにいく途中でトラブってるってわけ」
「なるほどな。ということは君たちは出演者ってことか」
「ん、ん~。まあそんなとこ」
「へー、すごいな。僕はその方面はからっきし分からないけど、そんな大きい物に出るってことは相当やり手とみた」
サクは呆れた顔をしながら「違うよ。うちらはただの客。こいつがちょっと変な理由で楽器持ってるってだけなの」ってソッコーでバラしやがった。
「なんだそうなのか。サインの一つでも頼もうと思ってたのに」
「未来の出演者よ。それに変な理由じゃないし……」
「まあどのみちこの通行止めじゃ当分かかるし、基地にいてばかりじゃ気が滅入るだろうからゆっくりしていってくれ」
「ゆっくりなんてしてらんないの!早くフェス会場につかなきゃいけないのよ。」
「まあまあどうしようもない事もあるよ。ねぇ、それよりタバコ吸ってもいい?」
ゆっくりしていってくれって言われた途端にそれかよ。あたしが呆れてるとナミシマは言った。
「そうだな。それじゃあ、外に行こう」
さっきまであたしたちがいたポーチに出ると冷たい風が吹き始めていた。
「二人はあまり驚かないんだね。助かるよ」
ナミシマが煙を吐き出しながらつぶやく。
「何が?」
「ルイのことだよ。この星じゃルイの姿を見て驚かない人の方が少ない。それもほとんどはネガティブな反応だ。おかげで、僕たちはこんな隅っこに住んでる」
「いや驚いたよ。ルイがどんな子なのか、今もめっちゃ気になってる。でもネガティブな気持ちはないよ、すごいキレイだと思ったし、悪い子じゃないってわかったから」
「そりゃ助かるよ。ルイの外見に違和感を覚えるのは仕方がない。でも分からないものに恐怖を感じて、避けようとする人がこの星には多すぎる。ルイにはまともに話せる相手が僕しかいないんだ」
「ナミシマが気にしすぎなんじゃない?ルイのことを受け入れてくれる人も中にはいると思うな」
「そうやって外に晒さないようにしてんでしょ、過保護」
「ハハ、過保護か……僕にもいつの間にか親心が芽生えてきてたってわけだ。まあ、ともかく、君たちがこの星にいる間だけでもルイの遊び相手になってくれないかな?」
ナミシマは恥ずかしそうに鼻をかきながら言った。
「いいけど、この通行止めっていつまで続くの?ナミシマはこの星に住んでるんだから、なんか分からないわけ?」
「分からないことはない。なんなら熟知していると言ってもいい」
「そうなの!?じゃあ教えてよ!」
「通行止めの原因になっているのは氷鯨という生き物だ」
「そうそれ!さっき基地で見たわ」
「氷鯨はこの星にしか生息していない軟体生物で僕の研究対象だ。そして……」
ナミシマは最後のタバコを吸いきり、火を押し付けてもみ消すと言った。
「ルイの母親だ」
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