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はじめての作曲依頼
七英雄の一人マシューの意外な趣味
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来賓室も贅を尽くした、くつろぐにしてはやや気苦労してしまうような豪華な部屋。ハイヒールで歩くのが憚れるほど綺麗に磨き上げられた大理石の床。
来賓室に入るとすかさずメイドが紅茶を淹れる。
フォルテはティーセットに注目する。
カップもソーサーも宝石や貴金属がちりばめられていない陶器であり、オークの枝にコウノトリがとまっている色彩を限定した素朴な絵が描かれている。
(こういう質素な価値観にも理解ありますよってアピールか?)
ピアニーはじっと紅茶を淹れるメイドを見つめている。
「どうかされましたかな? 手違いがありましたらなんなりと申し付けください」
「手違いだなんてとんでもありません! すごく上手だなと感動しておりました! 私はまだまだ紅茶も見習いなものでして」
「お褒め頂きありがとうございます」
メイドは澄ました顔でお辞儀をする。
紅茶の香りが漂ってくる。
「あれ……この香りはもしかして」
「お! お気付きになりましたか! お察しの通り、ピアニー殿の故郷から取り寄せました茶葉でございます! こうして嗜むのは初めてですがなかなかの香りですな! お気に入りになりました!」
「そうですか。マシュー様に気に入ってもらえたのなら何よりでございます」
ようやく緊張がほぐれてきたのか、故郷の茶葉という共感できる話題だったからか、ピアニーはいつも通りの笑顔を浮かべる。
「……さて一息つきましたところでお話があるのですが」
頃合いを見計らったマシューは両膝に手を置いて前かがみになる。
「単刀直入に申し上げます。ピアニー殿に作曲のご依頼したいのです」
「わ、私にですか!?」
ピアニーはマシューの顔を見て、フォルテの顔を見る。
「……お前ほどの実力なら夢ではない。ただ、もうちょっと段階を踏んでからとは思っていたがな。まさかいきなりマシュー・カンタービレ様からお声がかかるとはさすがに夢にも思わなかった」
フォルテは優雅に紅茶を飲む。唇を湿らすほどにしてティーカップをソーサーに置く。
「でもいいんですか? ドナタ・ソナタにも高名な宮廷音楽家がいる。その方たちに依頼せずになんら実績のない彼女に仕事を振って。あちらも良い顔はしないんではないでしょうか。それも七英雄の一人、マシュー・カンタービレ様直々の指名となると尚のこと」
ピアニーに代わってフォルテが話を進める。貴族を相手にするなら貴族。恐らく助けずに見守っていてもピアニーはうんうん頷くことしかできない。
「重々承知でございます。しかし彼らは有能なうえで多忙な身。二年先まで過密にスケジュールが決まっているのですよ」
「……なるほど」
上手く躱された。フォルテはそう思った。
「それに今回の依頼はあなた方が想像されているような公務ではございません」
「公務……じゃない? それでは家族の誕生日を祝うための曲とかでしょうか」
「いえ、もっと私用も私用。とにもかくにもこちらを読んで頂けると話が早い」
メイドに合図をすると一台のワゴンが運ばれてくる。
その上には大量の紙の束。
「工業化され大量生産が可能になったとはいえまだまだ貴重で高級な紙がこんなにたくさん……これは一体……?」
常に自信あふれたまっすぐな瞳をするマシューが急に照れくさそうに笑う。
「お恥ずかしながら……自作演劇の台本でございます」
来賓室に入るとすかさずメイドが紅茶を淹れる。
フォルテはティーセットに注目する。
カップもソーサーも宝石や貴金属がちりばめられていない陶器であり、オークの枝にコウノトリがとまっている色彩を限定した素朴な絵が描かれている。
(こういう質素な価値観にも理解ありますよってアピールか?)
ピアニーはじっと紅茶を淹れるメイドを見つめている。
「どうかされましたかな? 手違いがありましたらなんなりと申し付けください」
「手違いだなんてとんでもありません! すごく上手だなと感動しておりました! 私はまだまだ紅茶も見習いなものでして」
「お褒め頂きありがとうございます」
メイドは澄ました顔でお辞儀をする。
紅茶の香りが漂ってくる。
「あれ……この香りはもしかして」
「お! お気付きになりましたか! お察しの通り、ピアニー殿の故郷から取り寄せました茶葉でございます! こうして嗜むのは初めてですがなかなかの香りですな! お気に入りになりました!」
「そうですか。マシュー様に気に入ってもらえたのなら何よりでございます」
ようやく緊張がほぐれてきたのか、故郷の茶葉という共感できる話題だったからか、ピアニーはいつも通りの笑顔を浮かべる。
「……さて一息つきましたところでお話があるのですが」
頃合いを見計らったマシューは両膝に手を置いて前かがみになる。
「単刀直入に申し上げます。ピアニー殿に作曲のご依頼したいのです」
「わ、私にですか!?」
ピアニーはマシューの顔を見て、フォルテの顔を見る。
「……お前ほどの実力なら夢ではない。ただ、もうちょっと段階を踏んでからとは思っていたがな。まさかいきなりマシュー・カンタービレ様からお声がかかるとはさすがに夢にも思わなかった」
フォルテは優雅に紅茶を飲む。唇を湿らすほどにしてティーカップをソーサーに置く。
「でもいいんですか? ドナタ・ソナタにも高名な宮廷音楽家がいる。その方たちに依頼せずになんら実績のない彼女に仕事を振って。あちらも良い顔はしないんではないでしょうか。それも七英雄の一人、マシュー・カンタービレ様直々の指名となると尚のこと」
ピアニーに代わってフォルテが話を進める。貴族を相手にするなら貴族。恐らく助けずに見守っていてもピアニーはうんうん頷くことしかできない。
「重々承知でございます。しかし彼らは有能なうえで多忙な身。二年先まで過密にスケジュールが決まっているのですよ」
「……なるほど」
上手く躱された。フォルテはそう思った。
「それに今回の依頼はあなた方が想像されているような公務ではございません」
「公務……じゃない? それでは家族の誕生日を祝うための曲とかでしょうか」
「いえ、もっと私用も私用。とにもかくにもこちらを読んで頂けると話が早い」
メイドに合図をすると一台のワゴンが運ばれてくる。
その上には大量の紙の束。
「工業化され大量生産が可能になったとはいえまだまだ貴重で高級な紙がこんなにたくさん……これは一体……?」
常に自信あふれたまっすぐな瞳をするマシューが急に照れくさそうに笑う。
「お恥ずかしながら……自作演劇の台本でございます」
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