竜宮島の乙姫と一匹の竜

田村ケンタッキー

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勝負決着

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「ほあー! ちょー! とーう!」

 珍妙な掛け声と共にボロ刀が舞う。

「なんだ、この軽い剣は。まるで重みを感じない」

 両目の視界が回復した浦島は襲い掛かる剣戟をあっさりといなす。

 竜之助の攻撃は武闘というよりも舞踏。目を引く派手さは見世物としては最適だが、戦いでの実用性は皆無。

「てりゃー!」

 飛び回転切りした後に着地。竜之助は不用意にも背中を見せてしまう。

「やはり! 卑劣な手を使わなければ生き残れない雑魚であったか!」

 浦島は隙だらけの背中に全力で刀を振り下ろす。

「よせ! 殺す気か!」

 乙姫の呼びかけに

「はああああああああ!!!」

 反応を示さず。
 刃が竜之助を真っ二つにしようと迫っていく。
 見物に徹していた海女たちは思わず目を塞ぐ。

 キン!

 血ではなく火花が舞う。

「……切った、と思うじゃん?」

 してやったりと微笑む。

 咄嗟に背中に刀を回し、しゃがみながら受け止めていた。

「な……!?」

 浦島は驚愕する。
 死角で受け止めたことにではない。
 振り下ろした刀が沈まないことに。

 振り下ろした者にとって受け止められたことは些細な問題ではない。その後、じっくりと力押しで沈めていけばやがて刃が肌に届き、肉を裂く。

 なのに竜之助は力が入らない姿勢にも関わらず、浦島の全力と全体重を込めた振り下ろしに耐えていた。
 驚異はそれだけではない。

「受け止めただけじゃない……! 押されているだと……!」

 歯を食いしばり腕を振るわせるほどの全力を、押し返している。

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

 形勢は逆転した。

 あっさりと攻めと守りが転じる。

 浦島の為すことは変わらない。刀を下に振り下ろすこと。

 しかし、

「……ぐぬぬぬぬ……!」

 必死さはまるで別。息を吹き出し腹筋が背中に届きそうなほど絞る。

 必死にならなければなならい。

 少しでも力を、気を緩めれば刀が吹き飛んでしまう。

(……この力、尋常ではない……!)

 認めざるを得ない。

 剣術はともかく、目の前の男には怪力が備わっている。

「……おい、色男」

 竜之助は奥ゆかしくも話しかける。

「……刀だけは手放すなよ。お前を応援してる者の期待を裏切るな」
「お前何」
「……っふん!」

 ふんばった瞬間、浦島の足は大地を離れて空を蹴る。

「なっ!?」

 突風に吹かれたように後ろに吹き飛ぶ。

 ガチャンガチャン!

 甲冑が砂浜に転がる。整った顔に砂が付く。刀は手放さなかった。

「浦島様!!」
「浦島様! どうなさったのですか!!」

 海女たちが心配し、駆け寄ろうとするが、

「来るな!!!」

 浦島は拒絶する。表情は長い髪が隠して読み取れない。しかし声にはただならぬ怒りが滲んでいた。

 乙姫は緊張が解けた様子でふうっと息を吐く。

「勝負はここまで。この辺にしておけ」

 決着がついた。これで浦島も落ち着くだろう。彼女はそう考えていたが、

「まだですよ、乙姫様……」

 諦め悪くも立ち上がる。

「馬鹿者! 引き際がわからぬのか!」

 よろりと、ぎこちない頼りない立ち方だったが刀を握りなおす。かき分けた髪の先の顔に戦意が残っている。

「おお、立ち上がるか。色男にしては気丈夫たふじゃあねえの」
「ああ、おぞましい。君みたいな男に褒められるなんて……人生最悪の日だ」
「勝負はついたんだ。大人しく引け。主の顔に泥を塗るつもりか」
「泥も何もまだ負けていない。君の怪力の正体を知っているんだよ」

 すー……はー……。

 呼吸を整え、刀を上段に構える。

「いいことを教えてあげよう…… 仙術使いは君だけじゃない……」
「いかん! 逃げろ竜之助!」

 乙姫は危険を察知し、防げとも躱せとも言わず、 逃げろと指図した。

「っ!?」

 しかし何もかも遅い。
 刹那、浦島は竜之助の目の前にいた。
 一丈をはるかに越えた離れた距離を一瞬にして縮めた。

「えいっ!!!」

 今一度、振り下ろされる刃。
 すんでのところで刀を横にして受け止める。
 真正面で受け止めたはずなのに竜之助の顔に余裕はなかった。

「ぐ!!?」

 苦悶の表情を浮かべて膝を折る。
 音のような高速移動から巨岩のような重量攻撃。

(これ、は……しんどい!!)

 みしぃっ……!

 オンボロ刀がしなり始めたかと思えば。

 パキン!

 重さに耐え切れず折れてしまう。

「悪運尽きたな!」

 眼前に迫る白光りする刃。
 回避は間に合わない。
 真剣白刃取りのような酔狂な真似はしない。

「こうなりゃ!」

 竜之助は腕を突き出した。

 カキィン!

 金属と金属が衝突する音。

「へへ、なんとか間に合ったぜ……!」

 竜之助は手枷の鎖で刃を受け止めた。

「姑息! だが虫の息も同然!」

 刀は折れた。
 竜之助は丸腰。
 勝負は決したというのに浦島は引かなかった。
 凶刃が眉間に到達しようとしている。

(これは、死……!)

 死を覚悟した、その時だった。

「竜宮拳法、敷波!」

 玲瓏な声が響いたかと思えば次の瞬間、天地がひっくり返って、訳も分からず水中に投げ出された。
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