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竜の間
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「今日は何度も驚かされるな。こりゃまた立派な広間だ」
「ふん。助平竜之助に褒められたって嬉しくないぞ」
「変な苗字を勝手につけないでくださいよ……」
広さはざっと八十畳はある。広間ではあるが厳密には奥と手前で二つの部屋に別れている。
奥の広間には当主代理の乙姫が座っている。広間の壁際に何本もの蝋燭ろうそくが置かれている。
手前の部屋、使者の間には座布団一枚が敷かれていた。側に一個の置き行燈が置かれている。
部屋を仕切る障子は白色無地と飾り気がないが、床の間と欄間にはものの見事な優雅な竜が泳いでいた。
床の間には幅のある大きな掛け軸が飾られている。三日月の形の島から天へと昇っていく竜の今にも飛び出しそうな墨彩画。
欄間の竜はさらに素晴らしい。竜の鱗一枚一枚、波しぶき一滴一滴を緻密に描かれた今にも動き出しそうな立体彫刻。
弱い光に照らされてようやく影の中から顔を覗かせたというのに圧倒的な存在感を示している。
竜を冠する士族なだけに竜へのこだわりと尊敬の強さが伝わってくる。
「そこで楽にしててくれ」
「お言葉に甘えて……ととと」
ゆっくりと座るつもりがどすんと腰を落としてしまう。両手が塞がっていたこと、疲れが溜まっていたことが原因。厳かな広間に埃が舞ってしまう。
「ふん、不細工な座り方だな」
「まったくその通りだ。すまねえな、龍神様よ」
浦島の嫌味を甘んじて受け入れ、頭上の竜に手を合わせる。
「心して謝れば意図しない無礼も龍神様は許してくれよう。もしも許してくれなさそうな時はさっきの助けた蜘蛛が口添えしてもらえるかもしれないぞ」
「男が無様見せた時のことをむやみやたらに掘り返すもんじゃありませんぜ……」
「ははは、面白くてついな」
乙姫は先程の無礼を早々に水に流し、さほど気にしていなかったようだった。
「にしてもあれは……うふふふ、ふはははは!」
「笑いすぎですよ、お姫さん!」
むしろ、からかえる弱みを握り喜んですらいる様子。
「姫様。私はそろそろ」
浦島が乙姫の側で跪く。
ぴたっと笑いを止めて、凛々しい領主の顔に。
「もうそんな時間か。今晩も見張り番を頼むぞ」
「ははっ」
「何度も言うがどんな些細な異変でも即座に包み隠さずに私に報告するように。わかったな」
「承知致しました」
眉一つ動かさずに立ち上がる。
「今夜は居眠りするんじゃないぞー」
「……」
竜之助をいない者かのように無視して部屋を去っていった。
「ふん。助平竜之助に褒められたって嬉しくないぞ」
「変な苗字を勝手につけないでくださいよ……」
広さはざっと八十畳はある。広間ではあるが厳密には奥と手前で二つの部屋に別れている。
奥の広間には当主代理の乙姫が座っている。広間の壁際に何本もの蝋燭ろうそくが置かれている。
手前の部屋、使者の間には座布団一枚が敷かれていた。側に一個の置き行燈が置かれている。
部屋を仕切る障子は白色無地と飾り気がないが、床の間と欄間にはものの見事な優雅な竜が泳いでいた。
床の間には幅のある大きな掛け軸が飾られている。三日月の形の島から天へと昇っていく竜の今にも飛び出しそうな墨彩画。
欄間の竜はさらに素晴らしい。竜の鱗一枚一枚、波しぶき一滴一滴を緻密に描かれた今にも動き出しそうな立体彫刻。
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「そこで楽にしててくれ」
「お言葉に甘えて……ととと」
ゆっくりと座るつもりがどすんと腰を落としてしまう。両手が塞がっていたこと、疲れが溜まっていたことが原因。厳かな広間に埃が舞ってしまう。
「ふん、不細工な座り方だな」
「まったくその通りだ。すまねえな、龍神様よ」
浦島の嫌味を甘んじて受け入れ、頭上の竜に手を合わせる。
「心して謝れば意図しない無礼も龍神様は許してくれよう。もしも許してくれなさそうな時はさっきの助けた蜘蛛が口添えしてもらえるかもしれないぞ」
「男が無様見せた時のことをむやみやたらに掘り返すもんじゃありませんぜ……」
「ははは、面白くてついな」
乙姫は先程の無礼を早々に水に流し、さほど気にしていなかったようだった。
「にしてもあれは……うふふふ、ふはははは!」
「笑いすぎですよ、お姫さん!」
むしろ、からかえる弱みを握り喜んですらいる様子。
「姫様。私はそろそろ」
浦島が乙姫の側で跪く。
ぴたっと笑いを止めて、凛々しい領主の顔に。
「もうそんな時間か。今晩も見張り番を頼むぞ」
「ははっ」
「何度も言うがどんな些細な異変でも即座に包み隠さずに私に報告するように。わかったな」
「承知致しました」
眉一つ動かさずに立ち上がる。
「今夜は居眠りするんじゃないぞー」
「……」
竜之助をいない者かのように無視して部屋を去っていった。
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