18 / 34
練習試合応援編
彼の隣に座するは強烈元カノ
しおりを挟む
新調したゲームウエアに袖を通す。
規定で決められた丈が膝上までしかないパンツを履く。
速乾機能性の高いポリエステル素材は肌触りも良い。
河相佳子はコートの中心で両腕を伸ばして叫ぶ。
「よっしゃあー! 気合い入ってきたー!」
延びに延びた他校との試合。
普段の基礎練習も嫌いではないがやはり実戦より面白く楽しいものはない。
「おー、いつにもまして気合い入ってんなー、河相ー」
「あ! 鏡先生! こんちゃー!」
「こんにちはだろ、やり直し」
「こんにちはー!」
「試合開始から元気有り余ってるな。その元気、先生にも分けてほしいよ」
貧血気味で血の気が薄い顔をした高身長の女監督、鏡。白い半そでTシャツに長ズボンのジャージを履くラフな格好をしている。
「いま送ります! 受け取ってくださいね!」
「あぁわりぃ。先生はそういうノリは高校で卒業したんで」
「それじゃあよく食べてよく寝て元気を取り戻してくださいね」
「ほんと、練習試合や部活がなければそうしたいんだがな」
「それで先生、今日のポジションは決まってます? 私、シューティングガードでもスモール、パワーフォワードでもセンターでも行けますよ!」
「相変わらずポイントカードはやりたがらないんだな」
「頭使うの苦手なものでして」
「適正はあると思うんだがな。というかどのポジションに配置しても充分使えるからコーチとしては有難いようで悩ましいんだよなぁ」
「いや~それほどでも」
「褒めてないぞ」
「それでそれでポジションは決まってます?」
「あぁ、決まってるぞ。特に河相、お前だけはな」
「どこどこどこ?」
「ベ・ン・チ」
「…………………………ベンチ。聞いたことないです。新しいポジションですか?」
「わかるだろ。今日お前、スタメンじゃないぞ」
「……うっそー!? なんでですか!? 困りますよー!」
「ばあか。大きい声では言えないが相手は万年一回戦敗退の弱小校だぞ? 近所のよしみで伝統的に慣れ合ってるだけだ。エースのお前は温存。公式試合外で怪我されちゃ困るからな」
「試合に出られないの困ります! 応援してもらう約束なんです!」
「なんだ? 彼氏か?」
「かかかか彼氏なわけないじゃないですか!」
断じて彼氏ではない。何度も身体を重ねているが決してそういう関係ではない。
「はっははは! だよな! 全青春をバスケに注いでるお前に彼氏ができたら先生嫉妬で泣いちゃうぞ?」
「先生、もっと先生らしくしてください」
「とにかく今日はお前の出番はない! ……まあ、負けそうになったら出番があるかもな。そんなこと万が一億が一もありえないがな! 負けたら先生、裸で公民館を一周しちゃうぞ!」
鏡先生は笑いながらどこかへ歩き去っていく。
「うーん、困ったことになったな……出番なくなったって伝えようかな。伝えたら伝えたできっとがっかりするだろうな……」
頭を抱えているとバッグからスマートフォンの着信音。
正行からのメッセージが届いていた。
「お、おう……もう到着してる……」
自由時間はあと十五分残っている。事情を話しに彼がいる入口へと向かった。
狭い入り口でマスク姿の大人たちで混雑している。
目を凝らして彼の姿を探す。
「いない……どこだ……」
すると突然両脇腹にくすぐったい感触。
「ひゃああ!?」
「バスケウェアでしたっけ。いい肌触りですね」
背後からくすぐってきた犯人は上段正行だった。
「も~、あんまり女性をからかわないの」
「佳子さんの反応がかわいいからつい……なので僕は無罪です」
ニコニコと楽しそうに笑う正行。
せっかく応援しに来てくれたのに、出番がないと伝えるのは心苦しい。
(でも……ちゃんと話さないとだよね)
誠実さを優先する。
「あのね、実は今日」
「あっれれ~~! マイケルきゅんだ~!!」
突然上がる女子の甲高い声。
背の低いギャルが正行にタックルのように抱きつく。
「やあ、山田さん。こんなところで奇遇ですね」
突然の不意打ちにも笑顔を崩さない女性の味方。
「やだ~マイケルく~ん。私との仲じゃな~い。下の名前で呼んでよ~」
「あの……この子は……?」
「クラスメイトの山田さんです」
「だから下の名前で呼んでって~もう~照れちゃって~! それにもう忘れたの? ただのクラスメイトじゃないでしょ? 男と女の関係でしょ」
「元ですよ。とっくの昔に終わった関係です」
「私は今でも思い出すわ~。あの時のファーストキスの味」
「キ……!?」
「それでどうして山田さんはここに?」
佳子が動揺しているうちに正行は素早く話題を変える。
「クソババ……ママがたまにはお姉ちゃんの試合を応援しろって無理やり……お姉ちゃんの応援をしにきに」
「山田……ああ、マホちゃんの妹さん」
「誰よ、あんた」
女相手には露骨に声が低くなる山田妹。
「……マホちゃんのチームメイトの河相佳子です」
「河相……どこかで聞いたことがあるような」
「山田さん、クラスメイトに河相球児君いるでしょう? 彼のお姉さんでもあるんだよ」
「あー! 球児君のお姉さま! 似てると思ったー!」
「あはは……そりゃどうも」
山田妹に気圧されているうちに自由時間は終わってしまう。
体育館で集合の合図である笛が鳴る。
「それじゃあもう行かないとだから」
手を振って別れを告げる佳子。
「マイケル君、一緒に応援しましょ~。ここ公民館のくせに二階にちょっとした観客席があるんだって~」
正行はずるずると引きずられながらも、
「佳子さん! さっき何か言いかけてませんでしたか!?」
そう問いかけた。
それに対し佳子は、
「ううん、なんでもない。楽しんでいってね、マイケル君」
「マイケ……佳子さん!」
彼の呼びかけを無視して体育館へと向かう。
(あれ……どうしたんだろ、私……)
温まっていたはずの心と体が冷えていくのを感じた。
規定で決められた丈が膝上までしかないパンツを履く。
速乾機能性の高いポリエステル素材は肌触りも良い。
河相佳子はコートの中心で両腕を伸ばして叫ぶ。
「よっしゃあー! 気合い入ってきたー!」
延びに延びた他校との試合。
普段の基礎練習も嫌いではないがやはり実戦より面白く楽しいものはない。
「おー、いつにもまして気合い入ってんなー、河相ー」
「あ! 鏡先生! こんちゃー!」
「こんにちはだろ、やり直し」
「こんにちはー!」
「試合開始から元気有り余ってるな。その元気、先生にも分けてほしいよ」
貧血気味で血の気が薄い顔をした高身長の女監督、鏡。白い半そでTシャツに長ズボンのジャージを履くラフな格好をしている。
「いま送ります! 受け取ってくださいね!」
「あぁわりぃ。先生はそういうノリは高校で卒業したんで」
「それじゃあよく食べてよく寝て元気を取り戻してくださいね」
「ほんと、練習試合や部活がなければそうしたいんだがな」
「それで先生、今日のポジションは決まってます? 私、シューティングガードでもスモール、パワーフォワードでもセンターでも行けますよ!」
「相変わらずポイントカードはやりたがらないんだな」
「頭使うの苦手なものでして」
「適正はあると思うんだがな。というかどのポジションに配置しても充分使えるからコーチとしては有難いようで悩ましいんだよなぁ」
「いや~それほどでも」
「褒めてないぞ」
「それでそれでポジションは決まってます?」
「あぁ、決まってるぞ。特に河相、お前だけはな」
「どこどこどこ?」
「ベ・ン・チ」
「…………………………ベンチ。聞いたことないです。新しいポジションですか?」
「わかるだろ。今日お前、スタメンじゃないぞ」
「……うっそー!? なんでですか!? 困りますよー!」
「ばあか。大きい声では言えないが相手は万年一回戦敗退の弱小校だぞ? 近所のよしみで伝統的に慣れ合ってるだけだ。エースのお前は温存。公式試合外で怪我されちゃ困るからな」
「試合に出られないの困ります! 応援してもらう約束なんです!」
「なんだ? 彼氏か?」
「かかかか彼氏なわけないじゃないですか!」
断じて彼氏ではない。何度も身体を重ねているが決してそういう関係ではない。
「はっははは! だよな! 全青春をバスケに注いでるお前に彼氏ができたら先生嫉妬で泣いちゃうぞ?」
「先生、もっと先生らしくしてください」
「とにかく今日はお前の出番はない! ……まあ、負けそうになったら出番があるかもな。そんなこと万が一億が一もありえないがな! 負けたら先生、裸で公民館を一周しちゃうぞ!」
鏡先生は笑いながらどこかへ歩き去っていく。
「うーん、困ったことになったな……出番なくなったって伝えようかな。伝えたら伝えたできっとがっかりするだろうな……」
頭を抱えているとバッグからスマートフォンの着信音。
正行からのメッセージが届いていた。
「お、おう……もう到着してる……」
自由時間はあと十五分残っている。事情を話しに彼がいる入口へと向かった。
狭い入り口でマスク姿の大人たちで混雑している。
目を凝らして彼の姿を探す。
「いない……どこだ……」
すると突然両脇腹にくすぐったい感触。
「ひゃああ!?」
「バスケウェアでしたっけ。いい肌触りですね」
背後からくすぐってきた犯人は上段正行だった。
「も~、あんまり女性をからかわないの」
「佳子さんの反応がかわいいからつい……なので僕は無罪です」
ニコニコと楽しそうに笑う正行。
せっかく応援しに来てくれたのに、出番がないと伝えるのは心苦しい。
(でも……ちゃんと話さないとだよね)
誠実さを優先する。
「あのね、実は今日」
「あっれれ~~! マイケルきゅんだ~!!」
突然上がる女子の甲高い声。
背の低いギャルが正行にタックルのように抱きつく。
「やあ、山田さん。こんなところで奇遇ですね」
突然の不意打ちにも笑顔を崩さない女性の味方。
「やだ~マイケルく~ん。私との仲じゃな~い。下の名前で呼んでよ~」
「あの……この子は……?」
「クラスメイトの山田さんです」
「だから下の名前で呼んでって~もう~照れちゃって~! それにもう忘れたの? ただのクラスメイトじゃないでしょ? 男と女の関係でしょ」
「元ですよ。とっくの昔に終わった関係です」
「私は今でも思い出すわ~。あの時のファーストキスの味」
「キ……!?」
「それでどうして山田さんはここに?」
佳子が動揺しているうちに正行は素早く話題を変える。
「クソババ……ママがたまにはお姉ちゃんの試合を応援しろって無理やり……お姉ちゃんの応援をしにきに」
「山田……ああ、マホちゃんの妹さん」
「誰よ、あんた」
女相手には露骨に声が低くなる山田妹。
「……マホちゃんのチームメイトの河相佳子です」
「河相……どこかで聞いたことがあるような」
「山田さん、クラスメイトに河相球児君いるでしょう? 彼のお姉さんでもあるんだよ」
「あー! 球児君のお姉さま! 似てると思ったー!」
「あはは……そりゃどうも」
山田妹に気圧されているうちに自由時間は終わってしまう。
体育館で集合の合図である笛が鳴る。
「それじゃあもう行かないとだから」
手を振って別れを告げる佳子。
「マイケル君、一緒に応援しましょ~。ここ公民館のくせに二階にちょっとした観客席があるんだって~」
正行はずるずると引きずられながらも、
「佳子さん! さっき何か言いかけてませんでしたか!?」
そう問いかけた。
それに対し佳子は、
「ううん、なんでもない。楽しんでいってね、マイケル君」
「マイケ……佳子さん!」
彼の呼びかけを無視して体育館へと向かう。
(あれ……どうしたんだろ、私……)
温まっていたはずの心と体が冷えていくのを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる