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【第2章】物理的に飛ばされて南部。再会あり、バイオレンスあり、ロマンスあり

過去を懐かしむアレクシス嬢

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 許婚。二人の父親が政略のため、安定した生活を送るために本人たちの同意も得ずに勝手に取り付けた契約だった。アレクシス、イバンの二人にとっては恋愛感情はなく良い迷惑だった……というのは当初の話。

『アレクシス・バトレ……俺と結婚してくれ』

 いつしかイバンはアレクシスに本気に惚れ込み、気持ちを誤魔化せずにいた。
 イバンは我の強い俺様系ワイルドイケメンだった。女性からの人気も高かったがしかし彼の気持ちは彼女には届かなかった。顔が好みではなかったからではない。面食いのアレクシスも「王道とは違うが、これはこれで最高」と趣向からずれているものの評価も高い。それでは何故か。答えは簡単であり、すでに彼女の心は別の男を向いていたからだ。



 アレクシスはぷくりと頬を膨らます。

「会った時から失礼な方とは思っていましたが、まさか水浴びを覗こうとする方とは思っていませんでしたわ」
「悪いがこればっかりは不可抗力だ……会った時のことは……すまん、あの時の俺はまだまだ未熟でな」

 貴族同士なら礼儀正しく作法に則って名乗りあい、親しい関係を築き上げるよう心掛けるもの。

「今でも鮮明と覚えてますよ。イバン様ってば『なんだぁ、この磯臭い田舎者は! 髪の毛に塩がこびりついているぜ!』と公衆の面前で、それはもう大きな声で、とてもユニークな御冗談をおっしゃってましたものね、おほほ」

 壊滅的な下手な物まねを交えながら、空気を明るくしようと試みるアレクシス嬢。
 しかしそれはまるで逆効果で、

「すまない、本当に……どう詫びたらいいか」

 本気で凹むイバン。かつての彼ならとっくに手をあげていただろう。女であろうと手出ししていたが今ではすっかり丸くなっていた。

「あ、こちらこそ、すみません。意地悪が過ぎましたわ。いけませんね、いつまでも過去の過ちをネチネチ言うのは。せっかく川でお会いしましたのですし水に流しましょう、なんて、おーほっほっほっほ!」
「その鼓膜を突き破るような高笑いも久しぶりだな……お詫びといってはなんだが食事にでもするか」

 矢を背の筒に戻す。彼は剣術もそうだったが弓の技術も高かった。森に行き動物を発見させすれば必ず射貫いてみせた。そしてもっとも射貫いた獲物は──、

「そしてそこでじっくりと、どうしてここにお前がいるのか聞かせてもらおうか」

 イバンは茶目っ気たっぷりにウィンクを見せた。
 もっとも射貫いた獲物は、人間の女性だったという。
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