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64層 真なる敵は

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 リチャードは自分の持つすべての情報を打ち明けた。自分がエキドナを発見し、最深部まで掘り進め攻略したこと。そして現れた真の敵のことも。唯一の部下に裏切られたことも。

「……状況は想定よりも最悪ですね。そうですか、よりにもよってダンジョンにテイマーが現れるとは」

 トニョは笑みではなく苦い表情を浮かべる。

「そんなにテイマーってのは厄介なのか?」

 テオはわからないことがあればすぐに聞くことができる。

「そりゃ厄介ですよ。ダンジョンにいる魔物を手足のように操れるのですから。それだけではありません、ダンジョンとテイマーは相性が良すぎるのですよ?」
「相性? なんのだ?」
「テイマーのスキルが経験値の共有なんです。自分が使役テイムしている魔物が他の魔物を倒した時の経験値が自らにも入ります」
「ん? それって普通に俺たちのパーティーと同じじゃないのか」
「違うのがその共有できる数です。パーティでの経験値の振り分けの限界はせいぜい6人。そしてそれが貢献度には寄りますがほぼ平等に振り分けられます。ですがテイマーは違います。もしも一匹の魔物が敵を倒した時、振り分けられる経験値は倒した魔物とマスターのみに絞ることができます」
「えっとそれはつまり……?」

 テオの理解がつまずくとマチルドが助け舟を出す。

「例えば私とテオだけで魔物を倒したら私たちだけにたくさんの経験値が入るってこと」
「えー、そんなの嫌だぞ。みんなで平等に強くなりたいぞ」
「何言ってるのよ。自分一人だけズンズン成長してるくせに」

 ビクトリアが面白くなさそうにテオを睨む。

「テイマーのメリットはそれだけではありません。駒をあっという間に乗り換えることができます」
「……独楽?」
「駒よ、駒。回すほうじゃなくてチェスのほう」
「俺、チェスよくわかんない……」
「いつかルールを教えますね。一緒に遊びましょう。ですが今はテイマーの特性の説明です。例えば自分の魔物がレベル差で倒されて死んでしまったとします。その時使役できる数に空きができます。しかしマスターのレベルがその味方を倒した敵よりも上回っていればそいつを使役すればいい。空いた戦力を補うどころかより補強になってしまうのです」
「うう! そんなのひどいぞ! 自分のために戦った魔物をあっさり切り捨てるなんて」
「ええ、ひどい話です。ですが善悪はともあれ効率的であるのは確かです。魔物を使役して自身をレベルアップし、テイムする魔物の強さや数を広げていく。それがテイマーというもの。魔力が無限のように吹き出るここエキドナとの相性は最悪なほどに最高なのです」

 トニョのほどの実力者ですら思いつめる強大な敵。彼の実力をまざまざと感じる魔法組の二人にも緊張が伝わる。

「……ん? テイマーって魔物を大量に使役できるのか」
「ええ、そうですよ。それが何か」
「もしかして師匠の故郷が襲われたってのは」

 テオはリチャードの顔を見る。

「ああ、その通りだ。奴こそが真なる悪。向かうべき道が一つとなり、吾輩も嬉しいぞ」
「おう、そうだな! リチャードと戦わなくて済むってことだ! だよな、師匠」

 親愛なる隣人と戦わなくて済むと知ったテオと違い、真のかたきを見つけたロビンはというと、

「ああ、そうだな! リチャードと戦わなくて済むとわかって俺もほっとしてるぜ!」

 満面の笑みを見せていた。

「安心しろ、ロビン。貴様の敵討ちに吾輩も参加しよう。貴様の夢も大きく前進したと言えよう」
「えっへっへ、そりゃ……どうも」

 一瞬だけロビンは真顔になる。

「あんたと戦えるならそれ以上に嬉しいことはねえよ!」

 その後、すぐに人懐っこい笑顔を取り戻した。

 彼の異変に気づく者は少なかった。
 テオはリチャードとの再会に喜んでおり、リチャードもまた推しとの血まみれの悲劇の回避に喜んでいた。
 トニョは今後について気を重くしていて周囲の気を配る余裕がなかった。
 唯一気づけたのがマチルドだった。

「ねえ、ビクトリア。ロビンが」

 情報をビクトリアと共有しようとするも、

「しっ、後にして。強敵が来てる」

 ビクトリアはすぐさま全員にバフを配る。
 そして目の前の暗闇へと語り掛ける。

「こそこそしてないで出てきなさい。あまりにお粗末な隠密ね。それで隠れているつもり?」

 彼女の耳が上下に揺れる。

 読み通り、暗闇から敵は現れる。頭の上には獣の耳が生えていた。

「獣人!?」

 トニョは魔法を展開し、より強度な臨戦態勢に入る。
 テオも剣を抜き、ロビンも盾を構えた。

「ああ、もう、こんなときに!」

 言いたいことは山ほどあったが仕方なしにマチルドも杖を構えた。
 
「待ってくれ!」

 その中で戦う準備をしていない、できていない者が一人。

「まずは話をさせてくれ!」

 リチャードだった。
 彼がそのような反応を示すも仕方がない。

「……シロくん。久しぶりだね」

 彼らの目の前に現れたのはシロ改めノワールの忠臣ブラン。

「……」

 彼女は返事をしなかった。もはや語ることはないと言葉に出さず態度で物語る。

「……言いたいことは山ほどあるが、これだけは一つ言わせてくれ」

 リチャードは深呼吸をしたのちに大声で叫ぶ。

「なんだああああその破廉恥な格好はああああああ」

 以前は手足以外ほぼ肌を露出しないフォーマルな格好だったが趣向をがらりと変え、隠すところだけ隠すは過激な衣装へと着替えていた。
 眼鏡も外してしまっていた。
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