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第3章
17.『十字架と腕輪』
しおりを挟む「それともう一つ、気掛かりな事があるのだけど。」
興味を無くした風にも見えたが、唐突に何かを思い出し、再び蒼に向き直る。
羊羹色の髪を靡かせ、茜でもしないような鋭い眼光で蒼を睨みつけていた。
仮にも中身の魂は違えど、実の妹に睨まれ心底傷ついた様子だ。
「……その腕輪。」
視線を変え、永陽はすぐ隣にいたなごみの手首へと目を落とした。
なごみ警戒して守るように腕輪を隠す。
今日一日で色々な事が起きすぎている。例え警戒心が人並み以下であっても、自身の命の危機に晒されれば当然の行為だと思えるだろう。
蒼もまた、その様子を見逃す事は無かった。二人の間を割くようにして、止めを入れる。
「お前……この後に及んでまた危険な行為を繰り返すつもりか?」
「……。」
そう言われても、当の本人永陽は顔色を変えずにただひたすら蒼となごみの二人を交互に見やっていた。
いや、正確に言うとするならば____蒼の十字架と、なごみの腕輪を。
「お姉ちゃん……何か気づいたの?」
「……勘違い、ではないわ。ええ、絶対に。」
納得が行くまで、険しい顔つきで交互に十字架と腕輪を見つめる永陽。
雪実の言うとおり、何かを察したようで一人確認の為独り言が多く漏れ出す。
「その腕輪から……私達の祖父、つまり星野満聖のオーラを感じるの。もう一人のオーラも感じるけれど。」
「おじいちゃんの…オーラが……お姉ちゃん、そんな筈無いよ。だって、この腕輪は祀杞家で作られたもので」
「これは、十字架にも同じ事が言えるのよ。」
雪実の言葉を遮り、食らいつくようにして真実の言葉を浴びせる。
星野満聖_____それは、星野家初代当主だった者。そして異名は……皇帝。魔力の色に因んで、周りからは『韓紅の皇帝』と呼ばれていたそうだ。
「異名は星野満聖が付け始めた物よ。私も現に……そうやって付けられたのだから。」
「…それは初耳だ。その異名ってのは、俺達にも付けられてるのか?」
「こればかりは秘密。だって、次期当主がわかってしまうデリケートな問題なの。」
その言葉を聞いて雪実が首を振る。有り得ないという表情だ。
「何を言ってるの……。次期当主は、もう決まってるんだよ!蒼の、蒼の他に誰がいるって言うの!?」
「あなたよ。」
即答だった。
その一言は、あまりにも大きすぎる鉄槌のように雪実の心に振り下ろされた。
膝を付いて倒れ込む雪実を、ただ黙って見下ろす永陽。傍から見たら永陽が悪者に見える構図である。
「テメェ…これ以上何か言ったら……!」
「そんな事より、十字架の説明の続きはしなくてもいいの?なごみちゃんに、ちゃんと分かってもらわないとね。」
「…ッ」
蒼はこの上ない怒りの感情を覚えていた。
あれだけ揉めた次期当主争いをまたぶり返されてるように思えて、仕方がなかった。
星野のデリケートな問題に、なごみまでも巻き込んでしまい迷惑がかかっている。
「その必要は、もう有りませんよ。」
「……なごみちゃん?」
すべてを理解したような表情で、蒼の背後からなごみが抗議をした。
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