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第4章
20.『明と暗の差』
しおりを挟むお出迎えはなごみとインターホンから聞こえてきた人物の一人であった。
玄関は何処ぞの旅館を連想するが、正座をしてお出迎えする女将等は居ないようだ。
「うっ…うっ…つーくんのばか……。」
「あ、放っておけば泣き止みますんで。」
「つーくん!!」
目の前で身内漫才を繰り広げられ、未だ目を丸くしてその様子を見守る星野家一行。
__この紹介は要らないかもしれないが、この絶賛悲しみ中の少女は毎度お馴染み(?)の祀杞なごみ。新情報として、祀杞家の唯一のいじられ役という事が発覚した。
そして、このなごみを泣かせた張本人であるつーくんと呼ばれた少年。
他の色なんて見当たらないような、純粋な黒髪。なごみとは一応身内な為か若干顔つきは似ているが、目つきが鋭く釣り上がっているため大分見分けは付く。
少年は、星野の人間を見定めるように真っ赤な瞳で一人ずつ確認している。
「えーっと……。」
「祀杞椿。よろしく。」
その場の空気にたじろぐ雪実を見兼ね、淡々と自己紹介をする黒髪の少年。淡々としすぎていて、雪実以外にも蒼、茜も頭を真っ白にさせていた。
「つ、つーくんは私のはとこです!意地っ張りですけど、本当は優しいお兄さんだから…」
「お前は?」
なごみの言葉を遮るようにして椿は重みのある声で目の前の人物を見据えた。
「お、俺…?星野、蒼ですけど……。」
黄金の瞳が一瞬にして揺らぐ。傍から見れば、かなり動揺しているようにも見える。
しかしこうして蒼が肩を震わせチキっているのにはキチンと理由がある。
椿の赤黒い瞳が、ピンポイントで蒼を睨み付けているからだ。
この状態は、とあることわざに当てはまるかも知れない、と危機とした状況の中蒼は思う。
《蛇に睨まれた蛙》
悔しいくらいしっくりきてしまうことわざだった。
「そうか、蒼。………お前」
と同時に睨む瞳がより一層キツさを増す。
何か言われる、と確信した蒼は唇を堅く結んだ。
しかし、次の一言で場の空気は凍りつくことになる。
「マイ枕は持ってきたか。」
………。
……………。
……………………………。
「はぇ?」
なんと、自ら空気を破壊しに行った祀杞椿氏。
一方当の本人はと言うと、ふざけた様子どころか、寧ろ真剣な眼差しで答えを待っているよう。
……マイ枕…そのまま自分の枕、という解釈で良いのだろうか…?まいまくら、まいまくら…マイクラ。
そうして一つの答えを導き出し、人差し指を立て潔く蒼は発言した。
「マインク●フトか!」
「「バカなの!?」」
すかさずツッコミにかかる雪実と茜。
ほとほと呆れ返ったのか、近くにふわりと浮いていた永陽は静かにため息を零した。
*
初めて祀杞宅に上がった星野家一行が抱いた印象は、『和』そのものだった。
昔ながらの木造建築の一軒家を想像してみればそれに近いものを感じる。……が、脆いだとか雨宿りしそうな外観はしていない。
……仮にそういう外観をしていても、口が裂けても言わないが。
この家は二階建てになっているようだが、一階は主に客を出迎えるよう客間が用意されている。一方二階はと言うと、
「突き当たりと手前の左側にベランダと空部屋があって、手前の右側に私のお姉ちゃんの部屋、奥の右側には浅葱お姉ちゃんの部屋、その隣の部屋が私の部屋となります。」
「つまり、俺達男は外で寝るって事だ。」
「なんだと…………。」
「そんな訳ありません!お兄様も、つーくんの言葉を真に受けないで下さい!」
冗談だと知り安心したように蒼は笑みを浮かべた。
祀杞家にお邪魔した時から浮かない表情をしていたが、徐々に慣れてきたようで、斜め後ろから見守っていた永陽も安堵の表情を浮かべた。
そう、思ったが……
自分が安心してどうするんだ、と永陽は自分自身に鞭を打った。
___あくまでもこのお泊まり会は、蒼達星野家と、なごみ達祀杞家の交流会だ。
その中に、永陽は含まれていない。姿形すら見えないのだから。
それに、永陽の本来の目的は___祀杞正門を探し出すこと。
「(腕輪から感じたオーラが近い。なごみちゃんが言っていた、“祀杞正門”さんがいるのかしら。……まぁ、ここに住んでいるのは当然だとは思うけど。)」
オーラとは、その者から発せられる魔力の事だ。
個々から発せられる魔力には個人差があるが、誰しも莫大であったり微々たるものであってもオーラは纏われている。
例としてあげてしまえば、蒼だ。
蒼は元々の魔力の放出量が極めて低い。しかもここまでの低さはごく稀である。その為、他人のオーラを感じ取るのは愚か、星野家式洋術を習得したものの完全に使う事も難しく感じてしまう。
しかし、魔力は放出する為だけのものでは無い。
放出の反対語__それは“溜め”だ。
悔しいながら、この事を聞いたのは憎き『アイツ』からだったようだが……そのお陰で、魔力の“放出”や“溜め”に関する事実が明らかとなった。
それは、“溜め”の量が多ければ多い程、“放出”の量は少なくなる事。その逆もまた然り。
しかも、蒼の足りない“放出”の部分を何らかの方法で強引に吸い取っているような、永陽はそんな予感が胸を過ぎっていた。
なによりも、それに反応してなのか雪実の“溜め”と“放出”のバランスが崩れ始めているのだ。
雪実の身体が不自然に透けていたのもそのせいだろう。
そこから導き出される答えは、
『星野家内で不正を働いている者がいる。』
それが、永陽を悩ませていた良くない“幻”の全貌。
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