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第2章
12.『炙り出され行く』
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一点_____蒼を目で捕らえながら顔を歪ませポツリと呟く。
それは絶望にも似た声だった。
「やっぱり、あれは幻なんかじゃなかった。すべて現実だった…」
「お姉ちゃん…!」
小さく呟きながらくらりとふらつく永陽を心配して、雪実が傍に駆け寄り支えようとする。しかし、受けようとする腕はいとも簡単に永陽を交わすようにすり抜ける。
「!?」
その瞬間、蒼の腕が唸るように咆哮をあげる。
手から凄まじい程の魔力が溢れ出ていた。
一方、大量の魔力の放出に耐えられないとばかり、肩膝をつく蒼。
両腕を動かすことすらままならない。十分な酸素も吸えずに、額に冷や汗を滲ませて歯を食いしばる。
「な、何…?私、なんで…。」
「……。」
雪実の様子をじっと見つめ、眉を微妙に狭ませて何かを察するなごみ。それと対照的に、ヒステリックな声が部屋を充満させた。
「雪実!考えちゃ駄目!」
絶望に染まる表情から一転、雪実の弱々しい声音で一気に目が覚めた。
自らの腕を怪しむように、悲しむように睨みつける我が妹を目前で見れば、永陽の心の内は一気に焦燥に駆られてしまう。
「蒼、蒼!」
掠れた声で精一杯叫ぶように、永陽は従弟の名を呼ぶ。
魔力の急な多放出により、それ所ではない蒼は、今にも泣きそうに唇を震わせ、藍色の髪を揺らす少女に目配せするだけで一杯一杯であった。
蒼は事情を聞かずしても、何をすれば良いのか分かっていた。
頭の中で『ある物』を思い浮かべ、目を瞑り思考を集中させる。
先程の謎の人物の講習を受けている途中に負った、頬の傷の痛さを忘れない内に、あの感覚を取り戻すようにして。
「お兄、何して…。」
状況を静かに見守っていた茜が、心配して蒼の元に駆け寄る。それと同時に、具現化に成功した熊のぬいぐるみが蒼の頭上にて作り出される。その反動で塞がれていたような感覚に陥っていた呼吸器が一気に活動を開始したかのように、蒼の肩が大きく跳ね上がり荒く息をし始めた。
「っ、はぁ…はぁ……」
「わぁ、すごい!大きいよ!お兄、魔法使えるようになったんだ!!」
落下してきたぬいぐるみをキャッチするや否や、暗い表情をする雪実の目の前でそれを見せつけ、感嘆の声を上げた。
雪実は顔を上げ、ぬいぐるみを見やる。
「違う…それは、“俺の魔力”で作り出された物じゃない。よく見てみろ、魔力の色を。」
そう言われた一行は、一斉にそのぬいぐるみに視線を落とした。
僅かに綻びる魔力のオーラ。
北極で見るようなオーロラのカーテンと酷似している。
微かに帯びる色も、皆の肉眼で見えたようで思わず目を見開き絶句する。
四六時中共に過ごしている雪実…そして、影からずっと身を潜めて見守っていた永陽には、何が起きているのかすぐに分かった。
「雪実、俺のローブに付いている十字架の色は?」
「紺色、だよね。」
胸元部分にある十字架を小突きながら、当たり前の事を問うた。
それに対して鋭い目付きで、少々低めの声音で淡々と言い放つ。
この様子だと、雪実はちゃんと異変に気づいているようだ。
「ああ、俺の魔力はこの十字架の色と全く同じ色だ。じゃあ永陽、このぬいぐるみが帯びている魔力の色は何色だ?」
「…水色、ね。」
更なるご名答に、蒼が深く頷く。
「水色……。」
思わず茜が復唱する。その言葉は、イマイチ状況が掴めないでいたなごみの耳にも、しかと届いた。
静聴していたなごみは、一つ固唾を飲み込んでから躊躇うことなく見えざる者___つまり永陽に、こんな質問を投げかけた。
「雪実ちゃんのお姉さん…永陽さん。今そこにいるのなら、私の質問に答えてはくれないでしょうか?少し胸に引っかかるものがあるのです。絵本で読んだ時の、ちょっとした知識の上で語らせてもらいます。…幽霊は、実体を持っておらず魂だけ。それなら壁があっても簡単にすり抜けて何処にでも行けるみたいです。」
最初の自己紹介の時とは、全く違う声音で饒舌に話し始める。
そして驚く事に、なごみのいる位置の目の前には永陽がいるのだ。対話するにも違和感のない距離である。
見えない筈のなごみは、気配で察知しているのか。とても自然にその場に居合わせていた。
「雪実ちゃんや、お兄様の知らない所で情報を手に入れた、なんて事も可能だと私は思いました。」
永陽はまるで、直面する恐怖と対峙するかのようになごみを見つめている。
しかし内心では、焦りと困惑…そして不安が混ざりあって複雑な感情が出来上がりつつあるのだ。
言っても良いのだろうか、この事実を。
先程、雪実の悲しそうに自らの透ける腕を見た時の表情が頭に張り付いて離れない。
自分は知っている。_____知っているのだ、星野家の、秘密を。
「単刀直入に聞きます。永陽さん、貴女は一体何を見たのですか。」
質問を浴びせられた永陽の視界は、一瞬にして暗闇に染まった。
それは絶望にも似た声だった。
「やっぱり、あれは幻なんかじゃなかった。すべて現実だった…」
「お姉ちゃん…!」
小さく呟きながらくらりとふらつく永陽を心配して、雪実が傍に駆け寄り支えようとする。しかし、受けようとする腕はいとも簡単に永陽を交わすようにすり抜ける。
「!?」
その瞬間、蒼の腕が唸るように咆哮をあげる。
手から凄まじい程の魔力が溢れ出ていた。
一方、大量の魔力の放出に耐えられないとばかり、肩膝をつく蒼。
両腕を動かすことすらままならない。十分な酸素も吸えずに、額に冷や汗を滲ませて歯を食いしばる。
「な、何…?私、なんで…。」
「……。」
雪実の様子をじっと見つめ、眉を微妙に狭ませて何かを察するなごみ。それと対照的に、ヒステリックな声が部屋を充満させた。
「雪実!考えちゃ駄目!」
絶望に染まる表情から一転、雪実の弱々しい声音で一気に目が覚めた。
自らの腕を怪しむように、悲しむように睨みつける我が妹を目前で見れば、永陽の心の内は一気に焦燥に駆られてしまう。
「蒼、蒼!」
掠れた声で精一杯叫ぶように、永陽は従弟の名を呼ぶ。
魔力の急な多放出により、それ所ではない蒼は、今にも泣きそうに唇を震わせ、藍色の髪を揺らす少女に目配せするだけで一杯一杯であった。
蒼は事情を聞かずしても、何をすれば良いのか分かっていた。
頭の中で『ある物』を思い浮かべ、目を瞑り思考を集中させる。
先程の謎の人物の講習を受けている途中に負った、頬の傷の痛さを忘れない内に、あの感覚を取り戻すようにして。
「お兄、何して…。」
状況を静かに見守っていた茜が、心配して蒼の元に駆け寄る。それと同時に、具現化に成功した熊のぬいぐるみが蒼の頭上にて作り出される。その反動で塞がれていたような感覚に陥っていた呼吸器が一気に活動を開始したかのように、蒼の肩が大きく跳ね上がり荒く息をし始めた。
「っ、はぁ…はぁ……」
「わぁ、すごい!大きいよ!お兄、魔法使えるようになったんだ!!」
落下してきたぬいぐるみをキャッチするや否や、暗い表情をする雪実の目の前でそれを見せつけ、感嘆の声を上げた。
雪実は顔を上げ、ぬいぐるみを見やる。
「違う…それは、“俺の魔力”で作り出された物じゃない。よく見てみろ、魔力の色を。」
そう言われた一行は、一斉にそのぬいぐるみに視線を落とした。
僅かに綻びる魔力のオーラ。
北極で見るようなオーロラのカーテンと酷似している。
微かに帯びる色も、皆の肉眼で見えたようで思わず目を見開き絶句する。
四六時中共に過ごしている雪実…そして、影からずっと身を潜めて見守っていた永陽には、何が起きているのかすぐに分かった。
「雪実、俺のローブに付いている十字架の色は?」
「紺色、だよね。」
胸元部分にある十字架を小突きながら、当たり前の事を問うた。
それに対して鋭い目付きで、少々低めの声音で淡々と言い放つ。
この様子だと、雪実はちゃんと異変に気づいているようだ。
「ああ、俺の魔力はこの十字架の色と全く同じ色だ。じゃあ永陽、このぬいぐるみが帯びている魔力の色は何色だ?」
「…水色、ね。」
更なるご名答に、蒼が深く頷く。
「水色……。」
思わず茜が復唱する。その言葉は、イマイチ状況が掴めないでいたなごみの耳にも、しかと届いた。
静聴していたなごみは、一つ固唾を飲み込んでから躊躇うことなく見えざる者___つまり永陽に、こんな質問を投げかけた。
「雪実ちゃんのお姉さん…永陽さん。今そこにいるのなら、私の質問に答えてはくれないでしょうか?少し胸に引っかかるものがあるのです。絵本で読んだ時の、ちょっとした知識の上で語らせてもらいます。…幽霊は、実体を持っておらず魂だけ。それなら壁があっても簡単にすり抜けて何処にでも行けるみたいです。」
最初の自己紹介の時とは、全く違う声音で饒舌に話し始める。
そして驚く事に、なごみのいる位置の目の前には永陽がいるのだ。対話するにも違和感のない距離である。
見えない筈のなごみは、気配で察知しているのか。とても自然にその場に居合わせていた。
「雪実ちゃんや、お兄様の知らない所で情報を手に入れた、なんて事も可能だと私は思いました。」
永陽はまるで、直面する恐怖と対峙するかのようになごみを見つめている。
しかし内心では、焦りと困惑…そして不安が混ざりあって複雑な感情が出来上がりつつあるのだ。
言っても良いのだろうか、この事実を。
先程、雪実の悲しそうに自らの透ける腕を見た時の表情が頭に張り付いて離れない。
自分は知っている。_____知っているのだ、星野家の、秘密を。
「単刀直入に聞きます。永陽さん、貴女は一体何を見たのですか。」
質問を浴びせられた永陽の視界は、一瞬にして暗闇に染まった。
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