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第2章
13.『私なんか』
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予想していた事なのに、なぜ足が竦んでしまうのだろうか。
そうなった時は軽々話せばいいやなんて思っていたものの、実際にこうなってしまえば胸の中の不安が高まるばかりで。
最悪、星野家内で本格的に内乱が起きてしまいそうな気がしている。
これだけ大事な情報を持っている、なんて。
星野家の者ではない、外野であるなごみに悟られてしまったのだ。
早すぎる。この子達に事実を伝えるにはまだ、早すぎる。
この場から逃げ出したいと思う感情が、行動に出そうになったその時であった。
「なごみちゃん、その話はまた別の機会に…って事には出来ないか?俺は今、この謎の現状の方が気になってるんだ。」
「それでも、今起きている事と永陽さんが持っている情報には何か共通している物があると思うんです。それなら、ここで聞き出しておくのも良いのではないですか?」
「見る限り永陽も、混乱している。それによって更に状況を掻き乱すような話題を持ってきたら、纏まらなくなっちまうだろ。」
散々周りから言いたいように言われてきた蒼は、今は何処にも居ない。
ただ、この現状の事実だけを知りたいとだけ強くなごみに反論した。
永陽が混乱している、という意見はご最もである。
しかしそれは、なごみ視点で言ってしまえば見えざる者なので感情の読み取りのしようがない。
そこはなごみも盲点だった、と言わんばかりに目を見開き、納得した様子。
「なんか、不快な気分にさせたならごめんな。」
「いいえ、お兄様の言っている事は最もだと思います。私、永陽さんの気持ちも考えずに出しゃばってしまって…。」
しゅん、と俯いてしまうなごみは目の当たりにして、永陽にも『罪悪感』という物が込み上げてくる。
こうやってなごみにも星野家の事で深入りさせてしまったのも、案外自分なのかもしれない。いや、絶対に自分だ。なんて心の中で責め立てながら。
「なごみちゃんが落ち込む必要なんてないよ。これは私達、星野家の問題なんだから。…それよりも、お兄様!どさくさに紛れてなごみちゃんを撫でようったってそうは行かないよ!離れろー!」
「は…!?な、何を誤解させるような事言ってんだ!俺はただ、慰めようとして…」
「おねえ、協力するよ!お兄をホールド!!」
なごみを守るようにして二人の間を割いて雪実が割り込み、蒼の行動を阻止しようと茜が羽交い締めにする。
今の今まで、あんなシリアスな雰囲気だったのが嘘のように状況が明るくなっていく。
「ああぁぁぁーー!!」なんて間抜けた声が蒼の口から出た時には、呆れの感情まで顔を出す。
永陽はほんの少しだけ、口角を上げた。
「さてお兄様。そろそろ本題に入ろう。このぬいぐるみに帯びた魔力の色について、ね!」
「あ、ああ…。本題に入るのはいいけどこの…茜の固め技をどうにかしてくれ……。」
死に際の蚊が弱々しく鳴いているような声で助けを求めながら、自分の首に回された茜の腕を叩いてギブアップを促す。
仕方ないなーと茜は言い、ようやく自由の身となった蒼は服についた埃を払って。
「まあ、この際だからなごみちゃんにも知ってもらうか。星野家の事を。」
「良いのでしょうか?…と言いたい所ですが、それで思い出しました。星野家と祀杞家は、二代前の祖父母世代で関わりがあるという事を…ですからこのご縁にかけて、是非教えて頂きたいです。」
「あー、そっか。その事で重大なお話があるって言ってたのもなんだか中途半端になっちゃってたしね。時間が許す限り話し合おう!って感じで行く?」
「おねえの意見に賛成~!」
そうか、この子達は…私みたいな幽霊の姉が居なくても、全然やっていけるのか。
永陽はそう思い、胸を撫で下ろした。と、同時に心の隅で虚無も感じた。
悪く言ってしまえば、自分なんて必要無いのだ。
現に幽霊としてこの場にいて、ただ状況が収束するさまを見守っているだけ。
『私が、居なくても_____』
「お姉ちゃん、話し合うって案が出てるんだけどそれでもいいかな?」
小首を傾げ、永陽の心の内なんて知らずにきょとんと雪実は様子を伺ってくる。
少しぼーっとしていた永陽は目を丸くして思わず「いいわよ」なんて声を裏返し。
「じゃあ決まりな。まずは今の現状について…」
また空気は一変し、場は静寂に包まれた。
そうなった時は軽々話せばいいやなんて思っていたものの、実際にこうなってしまえば胸の中の不安が高まるばかりで。
最悪、星野家内で本格的に内乱が起きてしまいそうな気がしている。
これだけ大事な情報を持っている、なんて。
星野家の者ではない、外野であるなごみに悟られてしまったのだ。
早すぎる。この子達に事実を伝えるにはまだ、早すぎる。
この場から逃げ出したいと思う感情が、行動に出そうになったその時であった。
「なごみちゃん、その話はまた別の機会に…って事には出来ないか?俺は今、この謎の現状の方が気になってるんだ。」
「それでも、今起きている事と永陽さんが持っている情報には何か共通している物があると思うんです。それなら、ここで聞き出しておくのも良いのではないですか?」
「見る限り永陽も、混乱している。それによって更に状況を掻き乱すような話題を持ってきたら、纏まらなくなっちまうだろ。」
散々周りから言いたいように言われてきた蒼は、今は何処にも居ない。
ただ、この現状の事実だけを知りたいとだけ強くなごみに反論した。
永陽が混乱している、という意見はご最もである。
しかしそれは、なごみ視点で言ってしまえば見えざる者なので感情の読み取りのしようがない。
そこはなごみも盲点だった、と言わんばかりに目を見開き、納得した様子。
「なんか、不快な気分にさせたならごめんな。」
「いいえ、お兄様の言っている事は最もだと思います。私、永陽さんの気持ちも考えずに出しゃばってしまって…。」
しゅん、と俯いてしまうなごみは目の当たりにして、永陽にも『罪悪感』という物が込み上げてくる。
こうやってなごみにも星野家の事で深入りさせてしまったのも、案外自分なのかもしれない。いや、絶対に自分だ。なんて心の中で責め立てながら。
「なごみちゃんが落ち込む必要なんてないよ。これは私達、星野家の問題なんだから。…それよりも、お兄様!どさくさに紛れてなごみちゃんを撫でようったってそうは行かないよ!離れろー!」
「は…!?な、何を誤解させるような事言ってんだ!俺はただ、慰めようとして…」
「おねえ、協力するよ!お兄をホールド!!」
なごみを守るようにして二人の間を割いて雪実が割り込み、蒼の行動を阻止しようと茜が羽交い締めにする。
今の今まで、あんなシリアスな雰囲気だったのが嘘のように状況が明るくなっていく。
「ああぁぁぁーー!!」なんて間抜けた声が蒼の口から出た時には、呆れの感情まで顔を出す。
永陽はほんの少しだけ、口角を上げた。
「さてお兄様。そろそろ本題に入ろう。このぬいぐるみに帯びた魔力の色について、ね!」
「あ、ああ…。本題に入るのはいいけどこの…茜の固め技をどうにかしてくれ……。」
死に際の蚊が弱々しく鳴いているような声で助けを求めながら、自分の首に回された茜の腕を叩いてギブアップを促す。
仕方ないなーと茜は言い、ようやく自由の身となった蒼は服についた埃を払って。
「まあ、この際だからなごみちゃんにも知ってもらうか。星野家の事を。」
「良いのでしょうか?…と言いたい所ですが、それで思い出しました。星野家と祀杞家は、二代前の祖父母世代で関わりがあるという事を…ですからこのご縁にかけて、是非教えて頂きたいです。」
「あー、そっか。その事で重大なお話があるって言ってたのもなんだか中途半端になっちゃってたしね。時間が許す限り話し合おう!って感じで行く?」
「おねえの意見に賛成~!」
そうか、この子達は…私みたいな幽霊の姉が居なくても、全然やっていけるのか。
永陽はそう思い、胸を撫で下ろした。と、同時に心の隅で虚無も感じた。
悪く言ってしまえば、自分なんて必要無いのだ。
現に幽霊としてこの場にいて、ただ状況が収束するさまを見守っているだけ。
『私が、居なくても_____』
「お姉ちゃん、話し合うって案が出てるんだけどそれでもいいかな?」
小首を傾げ、永陽の心の内なんて知らずにきょとんと雪実は様子を伺ってくる。
少しぼーっとしていた永陽は目を丸くして思わず「いいわよ」なんて声を裏返し。
「じゃあ決まりな。まずは今の現状について…」
また空気は一変し、場は静寂に包まれた。
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