夢の

安藤ニャンコ

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 断っておくが、これは例え話だ。無理な人間も必ず居るだろう、が、まぁぐっと堪えてほしい。
 好みの色や柄をした猫を思い浮かべてくれ。できるならば体型も、瞳の色も、ヒゲの太さもだ。君が長年飼育していて、十分以上に情が移っている猫が、それだとしよう。その猫は君に懐いており、いつ何時なんどきも君のそばを離れない。ソファに座れば膝の上、ベッドに横たわれば胸の上、どこかへ行くたびに自分の後ろをついて回る、主人が大好きな猫だ。
 そして、君はその猫を金属バットで撲殺した。一撃目を頭に当てた君は、猫を何かしらの言葉で罵った。猫は、「なんでこんなことをするの?なにかじぶんにおちどがあったの?なぜ?なぜ?」と言わんばかりに潤んだ血だらけの目で君を見つめる。君はまた、バットを振りかぶった。
 二撃目は胴だった。猫は死んだ。君はまた、バットを振りかぶった。
 三撃目も胴だった。骨がひしゃげる音が、家いっぱいに響いた。君はまた、バットを振りかぶった。同居人である親が叫びながら止めに入るまで、君は猫を殴り続けた。

 これを読んでいる君が愛猫家であろうとなかろうと関係なく、この話は少なくとも普通の人の心に突き刺さるだろう。出来れば想像したくない、想像することすらしたくない、そんな話は頭に浮かびもしなかった、なんて人は多くいるだろう。勿論、僕だってその多数派の一人だ。普通を生きる人々にとって、こんな事を想像する機会はほぼゼロに近いだろう。
 なぜこんな事をしてしまうのだろう。普通ならこんな事を考える。猫を飼う、という事自体が猫に少なからず好意を持っているという事の証なのにも関わらず、その猫を嬲り殺したのはなぜなのか、と。
 これも普通の事だが、世の中には猫を嬲り殺す、したい、という人間はごまんといる。しかし彼らはそれをひた隠し、猫は愛玩動物だと言い続ける。これを「おぞましい」と思うのは、普通の感情ではない。彼らは普通を生きる為の仮面を被り続けて居るのだから、彼らなりの努力がその感情を仮面で隠せているのだ。一般、普通。そんな言葉で縛られた世界で波風立たせぬように生きているのだ。それならば、彼らは褒められるべきではないだろうか。いつの日かそんな感情を抱かなくなるまで、彼らは努力し続けるだろう。

 普通とそうでないものが生きるこの坩堝で、人が生き、そして永らえる。
 
 これは現実に起こっている。
 猫を殺し、犬を殺し、人を殺すという行為は、現実に確かに起こっている。
 人は、自ら永らえることはないと叫ぶ。その行いと言動によって。
 意思に反して、体はそう叫んでいる。
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