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アーレフ
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しおりを挟む私はその後、尾行者が居ないか確認しながら二時間半かけてモルグへ戻った。モルグのコンピュータでしか、サティから受け取ったUSBメモリの確認をできないからだ。モルグへ入る認証は、何重にもある。指紋、声、脈、網膜なんかは勿論、毛根付きの髪の毛三本を入るたびに捧げなければならない。最近では毛根付きの髪の毛を風呂なんかから採集するようにしている。これでも女なので、やはり気になるものは気になるのだ。
そうこうして、三年前に割り当てられた自室に到着した。私の身体に埋め込まれたモルグの人間である事を証明するセンサーをお利口なドアに読み取らせ、自室に入る。
「ただいまー……ってだーれも居ないんだよね」
スイッチを入れ、明かりを点ける。衣類や書類で散らかった部屋の奥にある、旧時代風のローテクコンピュータを騙った最新機器を起動する。すると、自室で私自身が私自身のコンピュータを使おうとしているのにも関わらず網膜認証が作動し、私の虚ろな───死んでいる人間にしては当然の───眼を読み取る準備がなされた。この認証が個人個人の網膜を、その細かな細胞のささいな違いで読み取っているのを知っているが、私はどうしても網膜ではなく、もっと別の何かを読み取られているように感じる。心だとか、考えだとか、なにを感じているか、だとか。
網膜認証をパスした私が次に老いぼれの皮を被ったコンピュータから受けたのは、静脈認証だ。この認証は、地方病院で見かけるような器具に腕を突っ込んで血圧を測るものにそっくりだ。この鼓動は私が発しているものだ、この血の刻み、この脈の広がり方は私だろうとアピールする。
どうやらすべてクリアできたようだ。ようやくアクセス権を獲得した私は、ガチッ、と気味の良い音を立ててコンピュータにUSBメモリを挿入する。このメモリを信用するか否かの確認が行われ、私は当然、信用する、をカーソルを合わせ選択した。
ようやく中身を閲覧できると思うと、なぜか心躍る。何せ三週間も彼らの尻尾が掴めなかったのだ。ここで全貌を把握できるとなると、嬉しいのやら悔しいのやら、おかしな感情が心に湧く。好奇心の塊と化した私は、留まることを一切せずに、データをモニターいっぱいに開いた。私の網膜に、忌むべき画面の光が映り込んでいた。
モニターに、このメモリに入っている十数個のファイルの名前が映し出された。それらを一つ一つ開いて確認してゆく。シェオルの言葉の意味。メンバーの特徴。支部の場所など。全部を確認しているうちに、少し目が痛くなってきた。そしてまた、次のファイルを開く。
《秘密結社『墓の領域』についての総括》
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秘密結社『墓の領域』についての総括。
西暦一九十四年、戦争が開始される直前に日本、英国間で設立。設立の目的、教義、創設者は未だ不明。
西暦一九十八年、戦争が終結する。シェオルは原型を留めていないほどの損傷を受けた死体をかき集めていた。目的は不明。
西暦一九三九年、戦争が開始される。日本と英国とが敵対してしまったため、この団体は一時在り方や教義を変えた。この年から、日本と英国のシェオルは枢軸、連合国からメンバーを集めていたとされる。
西暦一九四五年、八月。日本に原爆が二発落とされ、戦争が終結する。日本のシェオルはなんらかの方法によって政府を通し、この戦争に参加したほぼすべての国に存在するようになったシェオルメンバーに、日本へ来るようにと連絡を行った。英国のシェオルがこの招集に反発。半分が分裂し、『 』へと名前を変え、現在は英国に集っているようだ(こちらは現在も追跡している。この項目を閲覧するには機密レベル『ラウンズ』が必要)。分裂した英国と不安定な中国以外、つまり米、独、伊、仏、ソ連の分裂しなかった残りの者たちは日本へ来たようで、東京の地下街を復興が落ち着くまで与えられている。メンバーの数はおおよそ三○○人程度だと推測される。
西暦一九四八年、シェオルはある研究に乗り出した。我々の身体を使った『不死トリガー』、つまり全能細胞器官発生の研究だ。
西暦二○○○年、シェオルが日本の公式組織となる。
西暦二○○九年、八月。日本が不死トリガーの開発に成功したと世界中に報道する。世界中はこの最新医療の虜となり、日本に情報やトリガーの研究を詳しく発表することを求めた。日本国政府は現在十月に詳しい不死トリガーについての情報を発表するとし、論文や実験結果などをまとめている。
我々は日本国のみならず、世界に対し、あらゆる手段を講じ、その手段で不死トリガーの存在を隠蔽しなければならない。証拠、開発履歴、過程、研究所を全て抹消しつつ、不死トリガーの情報をシェオルから取り戻さなければならない。今はまだ、彼らが手にするべきその時ではないからだ。
救いを。愛を込めて。
ジェロンティウス・エルガー。
──────────────
「不死トリガー?シェオルが不死トリガーを研究してたってこと?」
今生きている国、つまり活動できている国の人々の八割が定められた寿命で死ぬ以外のことで不死で居続けられるのは、一概にこの不死トリガーというもののおかげだ。不死トリガーは身体のあらゆるものを更新し続け、死んだ細胞を蘇生し、腐っていく部位は代替し、欠けた部分には新しいパーツが完全に修復するまで割り当てられ続ける。これが作られたのは西暦の後、つまり西暦後のある研究者の功績である、とされている。今やこの器官によって病気が存在することはなく、身体障害者も存在しない。そんな夢のような全能細胞とも呼べる代物が、小さな秘密結社の手によって開発されたとは、到底思えない。しかし、ここに書いてあることが事実なら、ますます所長のあの指示の意図が分からない。この結社は日本の公式組織であるなら、犯罪組織ではないのではないか。そう思っている自分が居る。これが私の甘さだと、どこからか聞こえた。犯罪組織と呼ばれるものに憐れみをかけてしまう私。もう存在してはいけない者に対して憐れみをかけてしまう私。私は甘過ぎる。命令に従うことをせず、ただ直情的に考え行動してしまう私は、甘過ぎる。
「……今日は寝て、明日報告書をまとめよう」
何か自己嫌悪のようなものに走ってしまった。きっと疲れてるんだ、そう思い、これ以上モニターの前に座るのをやめて、寝る事に決めた。
今日はもう、疲れた。
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