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fin.聖女様、旅立つ

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 ……あれから随分長い時が流れた。

「さぁ、ディナ様、参りましょう」
「はい……エネマ、本当に良いのですか?」
「はい、私はこの命が尽きる限り、貴方様のお側で尽くしていたいのです」
「そうですか……」

 長い月日……本当に長い月日が経った。
 明日にはこの部屋に「新しい人」が来る。
 私たちは早々に出て行かなければならない。
 髪もすっかり伸びてしまった……それはもう背中を覆いつくすぐらいに。

「さて、そろそろ『あの人』が来る時間ですね……行きましょう」
「はい……」

 私はエネマと共に、荷物を纏め、外へと出た。
 ……清々しい空気だ、朝日が私たちを歓迎している。
 ……あら?

「まだ来ていないみたいですね」
「……えぇ、そのようですね、もしかすると、ディナ様の事を忘れてしまったのでは?」
「それは無いです、手紙を毎日欠かさず送ってきたほどですし、頻繁に会いに来ていたわけですから、忘れることは無いとは思いますけど……」

 それは無い、真っ先にその言葉が出た。
 そうだ、彼は直に来る、そう確信できた。
 エネマと会話をしていると、東の方角から、なにやら足音のような音共に小刻みな地響きが聞こえてくる。
 あれは……。

「ディナステス! 俺だ!! おい! もっとスピード上げろ!!」

 馬車の窓から、私の迎え人が手を振って大声を上げている。
 彼は従者を急かし、こちらに近づいて来ていた。
 神殿の門の前に到達するや否や、急ブレーキをかけ、彼は何事もなかったかのように降りてきた。
 ……なんでしょう、虐めてあげたいですね、そうだ。

「やぁ、ディナステス。遅れて申し訳ない、実は今日……」

 彼は何かを口にしたようだが、私はその前に彼の口を抑える……私の口で。

「ん……」
「んんん!?」

 これは私たちを待たせた罰だ。
 理由なんてどうだっていい、これは彼が受けるべき贖罪だ。
 ……しばらくお互いに繋がり、私は彼を許すことにした。

「遅いですよ、もっと早く来てください」
「あ、あぁ……申し訳ない……」
「さ、さっさと行きましょう」
「あぁ……荷物は俺が……」
「自分で持てます」
「はい……」

 ……やっぱり頼りない、情けない彼が一番好きだ。
 これから長い時間、何をして過ごしましょうか? ……まずは、許してくださいと言うまで寝具の上で弄んでみましょうかね。

「さ、行きましょうか……別邸に」
「あぁ……」

 スタッグ様は従者に命令を出し……私たちは別邸へと向かった。
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