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後
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そしていつの間にか幼女はわたくしから離れ、殿下の指をきゅっと握っている。
気持ちはわかるし自然な流れだけど、なんでだろう、ちょっともやっとするんですが! 幼女羨ましいことしてますね! 違うでしょ、ここはわたくしから離れてくれて安堵しているところでは?
ああ、自分でも自分の考えていることがよくわからない。情緒が著しく乱れていることだけはわかる。よーし、こういう時は深呼吸……。
「セディお兄様には、どこに連れて行ってもらったの?」
「んーん……」
「……この後お兄様がどこに行くつもりかは、知っている?」
「わかんない……」
「そっか。大丈夫、すぐにまた会えるからね」
女の子の目からまたぶわっと涙があふれてきた。
殿下がすっとハンカチを貸――いやいやいや、さすがにそれは! それはわたくしのハンカチにしてください!
間一髪、滑り込みで自分のものを差し出す。ちーん! といい音がした。
うむ、元気に鼻をかめる子はよい子です。でも殿下の持ち物にちーん! は、付き人というか本日ここに殿下を召喚してしまったわたくし的に寿命が縮む行為ですので、はい。
「ほらよ、ちびすけ」
そこで背後から声がかかった。てっきり真っ先に逃げたと思われていたロジェが戻ってきたようだ。片手には揚げパン――そうか、屋台に戻ってもう一つ買ってきたのですね。おいしい匂いに、幼子の顔が明るくなります。
どうしよう、同行者の男性陣が有能揃いすぎて、今のところ迷子に対してわたくしが一番何もできていない!?
わたくしの(何かせねば。でも何を……?)という葛藤はさておき、殿下が困ったような表情になっていた。
「ロジェ、ありがとう。ただ、食べ物は……どうかな……」
「うちの近所のちびすけは皆これで機嫌良くするが、なんかまずかったか?」
「近所の子なら問題ないと思う。親御さんも知った仲だしね。ただ、見知らぬ子となると、あげる方ももらう方も、ちょっと怖いかなって……その子が食べられないものもわからないし」
「好き嫌いのことか?」
「あとは体質、かな……」
なるほど。「よその人から貰った物に口をつけちゃいけません」って、子どもに親が注意する定型文の一つですものね。
まず親御さんからしたら、何が入れられてるのかわかったものじゃない物を、勝手に子どもに飲み食いさせたくはない。
たとえ好意百パーセント、普通の食べ物だったとしても、当たってしまうこともある。
もし後で食べ物をあげた子がお腹を痛くしたとしても、責任が取れない……だから殿下は躊躇していらっしゃったのか!
わたくしはロジェの気配りと行動力に感心するばかりだったけれど、殿下の気遣いが更に上回っていて、もはや白目になりそう。
「あー……そっか、そこまでは考えてなかった。悪い、つい条件反射でよ」
「ううん。ありがとう、すぐに動いてくれて。クリスタ、揚げパンはセディお兄様を見つけられたら、一緒に食べようってお願いしてみよう?」
殿下が声をかけると、女の子は「ん!」とお返事してきた。ロジェもほっとした様子で、「それまでしまっておくな」と鞄に揚げパンを入れている。
さすが殿下――すべてにおいてパーフェクトな男……!
「んで? 結局どこの子どもなんだ?」
「お家の名前はわかる?」
「…………」
少し前まではお利口に答えていた幼女だったが、黙ってしまった。なんだろう、恥ずかしくなってしまったのか、別に答えるのをためらう理由があるのか……。
「そういや最初はシャリーアンナにひっついてきたけど、なんかこいつに気になることでもあったわけ?」
「にーさまと、いっしょ……」
ダイレクトに名字すなわち素性が聞き出せなさそうだと思ったらしいロジェが、別方面からアプローチする。すると女の子は、わたくしの紺色スカートを指さして答えた。わたくしたちは顔を見合わせる。
「服の色が、ってことなのかな……?」
「教会関係者っつーことなんじゃね?」
「黒ならまあ……でもシャンナの服、紺色なんだよね」
「びっみょーだな。魔術師って可能性もあるし……」
わたくしの紺色ワンピースで「お兄様」となると、まあ色の暗いローブだろうという推理になりますよね。男の人でそんな格好をしているのは、教会の人か魔術師ぐらいだろうけど……それにしては女の子の格好がお洒落にすぎるような。
「……ロジェ、警備騎士の詰め所ってこの近く?」
「この場所からだと結構歩くぜ」
「預けに行ったら、逆に保護者と遠ざかっちゃうかもしれないね」
さてどうしたものか、と考え込む男性陣と共に視線を幼女に向けたわたくしは、「あ」と声を上げました。
「シャンナ、どうかした?」
「――わかるかもしれません」
わたくしはいまいちど幼子をよく見るために、買ってきたばかりの眼鏡を外した。
気持ちはわかるし自然な流れだけど、なんでだろう、ちょっともやっとするんですが! 幼女羨ましいことしてますね! 違うでしょ、ここはわたくしから離れてくれて安堵しているところでは?
ああ、自分でも自分の考えていることがよくわからない。情緒が著しく乱れていることだけはわかる。よーし、こういう時は深呼吸……。
「セディお兄様には、どこに連れて行ってもらったの?」
「んーん……」
「……この後お兄様がどこに行くつもりかは、知っている?」
「わかんない……」
「そっか。大丈夫、すぐにまた会えるからね」
女の子の目からまたぶわっと涙があふれてきた。
殿下がすっとハンカチを貸――いやいやいや、さすがにそれは! それはわたくしのハンカチにしてください!
間一髪、滑り込みで自分のものを差し出す。ちーん! といい音がした。
うむ、元気に鼻をかめる子はよい子です。でも殿下の持ち物にちーん! は、付き人というか本日ここに殿下を召喚してしまったわたくし的に寿命が縮む行為ですので、はい。
「ほらよ、ちびすけ」
そこで背後から声がかかった。てっきり真っ先に逃げたと思われていたロジェが戻ってきたようだ。片手には揚げパン――そうか、屋台に戻ってもう一つ買ってきたのですね。おいしい匂いに、幼子の顔が明るくなります。
どうしよう、同行者の男性陣が有能揃いすぎて、今のところ迷子に対してわたくしが一番何もできていない!?
わたくしの(何かせねば。でも何を……?)という葛藤はさておき、殿下が困ったような表情になっていた。
「ロジェ、ありがとう。ただ、食べ物は……どうかな……」
「うちの近所のちびすけは皆これで機嫌良くするが、なんかまずかったか?」
「近所の子なら問題ないと思う。親御さんも知った仲だしね。ただ、見知らぬ子となると、あげる方ももらう方も、ちょっと怖いかなって……その子が食べられないものもわからないし」
「好き嫌いのことか?」
「あとは体質、かな……」
なるほど。「よその人から貰った物に口をつけちゃいけません」って、子どもに親が注意する定型文の一つですものね。
まず親御さんからしたら、何が入れられてるのかわかったものじゃない物を、勝手に子どもに飲み食いさせたくはない。
たとえ好意百パーセント、普通の食べ物だったとしても、当たってしまうこともある。
もし後で食べ物をあげた子がお腹を痛くしたとしても、責任が取れない……だから殿下は躊躇していらっしゃったのか!
わたくしはロジェの気配りと行動力に感心するばかりだったけれど、殿下の気遣いが更に上回っていて、もはや白目になりそう。
「あー……そっか、そこまでは考えてなかった。悪い、つい条件反射でよ」
「ううん。ありがとう、すぐに動いてくれて。クリスタ、揚げパンはセディお兄様を見つけられたら、一緒に食べようってお願いしてみよう?」
殿下が声をかけると、女の子は「ん!」とお返事してきた。ロジェもほっとした様子で、「それまでしまっておくな」と鞄に揚げパンを入れている。
さすが殿下――すべてにおいてパーフェクトな男……!
「んで? 結局どこの子どもなんだ?」
「お家の名前はわかる?」
「…………」
少し前まではお利口に答えていた幼女だったが、黙ってしまった。なんだろう、恥ずかしくなってしまったのか、別に答えるのをためらう理由があるのか……。
「そういや最初はシャリーアンナにひっついてきたけど、なんかこいつに気になることでもあったわけ?」
「にーさまと、いっしょ……」
ダイレクトに名字すなわち素性が聞き出せなさそうだと思ったらしいロジェが、別方面からアプローチする。すると女の子は、わたくしの紺色スカートを指さして答えた。わたくしたちは顔を見合わせる。
「服の色が、ってことなのかな……?」
「教会関係者っつーことなんじゃね?」
「黒ならまあ……でもシャンナの服、紺色なんだよね」
「びっみょーだな。魔術師って可能性もあるし……」
わたくしの紺色ワンピースで「お兄様」となると、まあ色の暗いローブだろうという推理になりますよね。男の人でそんな格好をしているのは、教会の人か魔術師ぐらいだろうけど……それにしては女の子の格好がお洒落にすぎるような。
「……ロジェ、警備騎士の詰め所ってこの近く?」
「この場所からだと結構歩くぜ」
「預けに行ったら、逆に保護者と遠ざかっちゃうかもしれないね」
さてどうしたものか、と考え込む男性陣と共に視線を幼女に向けたわたくしは、「あ」と声を上げました。
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わたくしはいまいちど幼子をよく見るために、買ってきたばかりの眼鏡を外した。
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