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後
しおりを挟むわたくしが拍子抜けして、変な声を出してしまったのも仕方ないと思う。
だって、今日の流れ的に、ここは「なんで婚約破棄なんて言い出したんだ? 撤回しないの?」とかまず詰められる所のはずじゃない?
侯爵閣下はわたくしの向かいで腕を組み、顎をのせてみせる。
「レオナールはもう二度ときみの前に姿を見せない。それならきみも、無理に我が家と婚約破棄をする必要はなくなるだろう?」
「……えっと。あの……申し訳ございません、わたくしにはお話の意味がわからなくて」
「どんなタイプの子が好みなのかな? 金髪碧眼の優男かい? いいよ。きみの好みの子を用意してあげる。それなら何の問題もないだろう?」
「待って……待ってください。あの、絶対に聞き間違いだと思うのですけど……まさか閣下、レオナールとわたくしの婚約破棄は認めるけれど、デュジャルダン侯爵家との縁談は無効にならなくて……だからかわりに、別の相手を用意すると。そのようなことをおっしゃっているわけでは、ありませんよね?」
「その通りだけど? どうして驚くことがあるのかな」
奇妙に若々しい男は、当然の顔で小首を傾げた。
――絶句する。
カップとかお菓子とか、手にしていなくて良かった。たぶん落としていた。
「わ、わかりません……だって、レオナールは侯爵家の大事な跡取り息子でしょう?」
「跡取りはね。必要な時に必要なだけ、いるものだよ。あれはまあ、不出来だったが、忠実ではあったのだけどね」
――駄犬は所詮駄犬だね。恐ろしく若い男は、のんびりとそんなことも付け足した。
わたくしは震える手をぎゅっと握りしめる。
これはもう、ずっと無意識にも意識的にも避けていた問いを向けるしかない。
「閣下、お聞かせください。そもそも未来の侯爵夫人にわたくしがいいと言い出したのも、あなたであったと聞いています。わたくしは何一つ特筆するような才能のない、名ばかり男爵家の娘です。あなたが無理に侯爵家に迎えたがる理由など、何一つ――」
「きみ相手なら、このまま三文芝居を続けるのも悪くはないけど。その枕詞も、そろそろやめないかい?」
侯爵閣下はすっと立ち上がり、あっという間に距離を詰める。
わたくしは逃げる間もなく彼の腕と腕の間に閉じ込められた。ぞぞぞぞぞっ、と背筋に悪寒が走る。
けれどわたくしが何か言ったり行動を始める前に、デュジャルダン侯爵はそっと小さく囁いてきた。
「私はずっと待っていたんだよ、マノン」
――その名前を出された瞬間。
わたくしはもう、動くどころか何も考えられなくなってしまった。
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