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後
しおりを挟む「シャ、シャンナ? ええと、とにかく……デュジャルダン侯爵はこれから裁かれるだろうし、きみも調査はされると思うけど……」
「はい」
「でも、きみは彼に勝手に執着されていただけだから、心配することはないだろうし……」
「はい」
「…………。だ、大丈夫……?」
「わたくしはいつでも元気です」
「そっかあ……」
なんか本当、すみません。何から何まで、すみません。「皇子殿下がいなくても一人でできるもん!」とか言っておきながら、ご配慮の塊で窒息しそう。
「いただいたご恩は忘れません。一生かけてお返ししますので」
本心から言ったのだが、皇子殿下が珍しく真顔になった。彼はわたくしの手をそっと取る。
――デュジャルダン侯爵に触れられたときは嫌悪でぞわっとしたけれど、殿下に触れられるとどきっと心臓が跳ねて体が熱くなる。
「シャンナ。きみはいつも、僕から貰ってばかりだと思っているみたいだけど。僕はこの国に来て、きみと会って、皇室で優等生を演じるだけだった時より、自由に好きに振る舞えて……本当に楽しいんだ。それに、命の恩人とか思っているなら、貸し借りはゼロだよ」
わたくしが目を上げる。翡翠の視線を向ければ、蕩けるような笑みを、いつも通りに彼はふわりと浮かべた。
「だってほら。デュジャルダン侯爵の詠唱の種類を言い当てて、助けてくれたでしょう? 僕、空の方に意識が行っていたから、シャンナが直前に教えてくれなければ、きっと今頃は侯爵の操り人形になってしまっていたよ。……ね? きみはきみが思っているよりずっとすごい人なんだよ」
「――いいえ」
わたくしの口からするりと言葉が漏れる。
今度は殿下が目を見張り、わたくしが笑う方だった。
「貸し借りゼロではありません。わたくし、また殿下に助けていただきました。ですから、その……この不肖の身がお側に侍ることを許していただけるのであれば。この先も階段の分のご恩返しをさせてくださいませ」
殿下が嬉しそうに目を細めると、わたくしも心が幸せでいっぱいになる。
――もうなんか、建前とか、しがらみとか、全部アホらしい。
最初は身分違いの相手に迫られて、不釣り合いだと逃げ出したかった。
途中は一緒にいることが心地よいことに気がついたけど、わたくしの秘密を知られればと思っていた。
今はもう、何も憂えることはない。
この人の側にいたい。胸を張って。いや――他の誰からそぐわないと言われようと、お側に侍りたい。
「それでその……ええと。今後のこと、なんだけど。これはその本当、きみが良かったら、なんだけど……シャンナ、今回のことが色々と一段落したらさ。隣国に来るつもりはない?」
やりたいこと、なりたいことなんてなかった。浮き草みたいに流されて、適当に生きていればそれでよかった。
でも、わたくしは日陰にいながら、光にずっと憧れていた。「わたくしなんか」って手抜きをしながら、「わたくしだから」と言える日が来ないかなと夢を見ていた。
皇子殿下は高嶺の方。何から何まで違う人。
だけど自分の気持ちに――憧れに正直に、この人を追いかけてみよう。
チャンスをもらえたのなら、すがりついてみよう。できると言われるなら、その言葉を信じて空だって飛んで見せよう。
「はい、喜んで……ハインツさま」
手を取った瞬間、思いのほか結構強く握り返されて、「よし言質取ったぞ、もう逃がさないからね」って笑顔の中に何か垣間見えた気もしましたが。
それも悪くない……むしろ、いい。
わたくしは応じるように手を握り返し、翡翠色の目をまっすぐ殿下に向けて、にっこり笑った。
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