【声劇用】時代声劇脚本

憑 桜兎 -Yoru Sakuto-

文字の大きさ
2 / 2

廓の檻に死の香り

しおりを挟む

三人用。15分~20分。

―――――――――――――――――――

魅陽みよう:筆頭花魁。美しく妖艶で、威厳があるが、とても冷徹。

薄凪うすなぎ:魅陽のライバル。と、自分で思っている。とても感情的でヒステリック。

音音ねね:座敷持ち。冷静。

―――――――――――――――――――


シーン①

(SE:不気味な風)


薄凪
「ぁ…あぁ…ありんせん…。こんなこと、あって良いはずがありんせん!小世さよ……あんなに可愛らしかった禿がどうして…あんな姿で…!」(嘆く様に)

魅陽(煙管を吸いながら)
「……騒ぎなさんな、薄凪。その甲高い声、廊下の若い衆に聞こえたらどうしんす?【部屋で、女狐が化けて出た】とでも言わせるおつもりえ?」

薄凪
「っ!?お前さんの部屋で死んでいるのでありんすよ!?魅陽、お前…お前が小世をころしたでありんしょう!」

音音
「薄凪姐さん、あまり近づかない方がよろしおす。小世の死に顔…脳裏に焼き付きんす。目は見開き舌を出して……首には赤黒く一本の筋。」

薄凪
「ッ…っい……嫌…嫌でありんす!」


(SE:向き直る布擦れ)

魅陽(音音に向き直り)
「音音…お前さん、先刻さっきから随分と落ち着いてるようでありんすなぁ。死体は見慣れてるかい?」

音音
「えぇ…。わっちの故郷では、飢えによって死体など道端に転がっておりんした。」

魅陽
「道理で。」

音音
「でありんすが、この部屋は魅陽姐さんが内側からかんぬきをかけていたはず。わっちと薄凪姐さんが呼ばれ入るまで、誰も出入りは出来んせん。」

魅陽
「左様。わっちはこの部屋で独り、酒を飲んでおりんした。……お前たちが来るまではな。」

薄凪(急に大きな声で)
「ほら見なさん!犯人はお前だ。……魅陽、お前が小世を絞め殺し、長持ちの中に隠しんしたろ!」

魅陽(嘲笑う様に)
「ふっ…。わっちが?なぜえ?自分の部屋を汚してまで、あのような小娘を殺すがどこにのざんしょう。ふふふ。」

薄凪
「ッ…それは…。」

魅陽
「それよりも薄凪。お前さん、その手首…どうしなさんした?」


(SE:布擦れ)

薄凪(とっさに隠しながら)
「!?…これは、何でもありんせん。」

音音(被せる)
「あら、これは。子供に噛まれたような跡でありんすねぇ。……まさか、小世に噛まれたのではありんせんか?あの子が必死に抵抗した…のでは?」

薄凪
「放しんせ!これ…は…。これは、昨晩客と戯れていた時についたものでありんす!」


(SE:ゆっくりな足音・畳)

魅陽(近づきながら)
「(煙を吐く)…。嘘が下手でありんすなぁ。まぁ…犯人が誰なのかは、二の次でありんす。音音…先刻長持ちのあたりを嗅ぎまわっていた時、なにか……かえ?」

音音
「っ!?」

魅陽
「小世が肌身離さず持っていた、この部屋のが、見当たらねぇのでありんす。…音音。お前さんのふところにあるのではありんせんか?」

(SE:沈黙の中で魅陽が煙を吐く音だけ)


シーン②

(SE:拍子木)

魅陽
「吉原の夜が始まりんした。客が来るまで…あと、半刻はんとき。さぁ……どうしんす?このままお役人を呼んで、三人揃って地獄へ行きんすか?ふふふ。……それとも…。」

薄凪
「そ…それ、とも…?」

魅陽
「ここで、互いのを吐き出し合い、一番泥をかぶるに相応しい者に…この死体を背負ってもらうか。…どちらかでありんす。」


シーン③

(SE:紙と筆を二人の前に差し出す魅陽)

魅陽
「さあ、始めようではありんせんか。誰が小世を冥土めいどへと送ったのか。あるいは……誰があの子に一番のか。嘘をつくなら突き通しなんし。ほころびが見えた者から、このむくろと共に奈落へ落として差し上げんす。」


(SE:両手で机をたたく)

薄凪
「勝手な事をっ!わっちは何も隠しておりんせん!小世を可愛がっていたんは、このかくの誰もが知っている事。あの子に死なれて困るんは、わっちでありんす!」

音音
「ふふふふふふ…あはははははは!……可笑しなことを。薄凪姐さん、あの子をでありんすって?毎日、三味線のばちで頭を叩き、禿かむろの給料をかすめ取ることが……、と言うのでありんすか?」

薄凪
「黙れ小娘っ!あれはしつけでありんす。それより音音…お前さんこそ、小世にを握られていたのではありんせんか?昨晩お前が、客のふところから財布を抜き取るのを、あの子は見ていたでありんす。」

音音
「(静かに)見ていたから…何でありんしょう?あの子はわっちにこう言ったでありんす。【姐さんの指は、魔法の指だね。】と。……だからわっちは、あの子の首をそっと…撫でてあげただけ。」

魅陽
「(煙を吐く)…撫でただけで、首に三味線の跡がつくかえ?音音。お前さんの三味線、一番太い糸が…切れているようでありんすが…。今、どこにあるのかい?」

音音
「……。」

薄凪(勢いよく)
「ほら見なさん!犯人はこいつでありんす!音音が盗みを見られた口封じに、三味線の糸で…!」

魅陽(被せて)
「待ちなさん、薄凪。まだお前さんのが残っておりんす。小世が持っていたはずの…。あれは…お前さんが馴染みの客とあしぬけを企てていた証拠でありんしょう?」

薄凪
「な、ぜ……それ、を…。」

魅陽
「小世はわっちの教え通りに動いていただけ。……あの子は、わっちのでありんした。お前たちの不祥事・裏切り…全てをわっちに報告する。忠実な、わっちの分身。……さあ音音。お前さんが隠しているを出しなさん。」


(SE:布擦れ)

(SE:真鍮しんちゅうの鍵の転がる音)

音音
「これを……探していたのでありんすか、魅陽姐さん。でも…不思議でありんす。小世は姐さんのでありんしたのでしょう?どうして、姐さんは小世にを飲ませたのでありんすか?」

薄雲
「毒!?」

音音
「小世の口元、微かに苦い香りがしておりんす。姐さんが美しさを保つために飲んでいる…。…あの子に飲ませたのではありんせんか?」


(SE:煙管を置く)
(SE:扇を広げる)

魅陽
「ふふふ………ふはははははは!流石は泥水で育った音音。鼻だけは利くようでありんすなぁ。……左様。小世はわっちの秘密を知りすぎた。そして、お前たちの秘密も知りすぎた。」

薄雲
「そんな…それ、じゃ……わっちたち、は…。」

魅陽
「左様。なんてのは、もう境がありんせん。噛みつかれたのも、糸で絞めたのも、毒を盛ったのも…。わっちたちは三人で、小世と言うかせを壊したのでありんす。」


(SE:遠くで祭囃子に三味線の音)

魅陽
「さて…。客が来るまで四半刻しはんときもありんせん。このむくろをどうするか。共犯になるか…被せるか……。選ばせて差し上げんす。」


シーン④

(SE:二人の周りをゆっくり歩く魅陽)


魅陽
「さあ…顔を上げなさん。そんなに震えていては、後の座敷が務まりんせんよ?薄凪、音音。」

薄雲(縋りつく)
「魅陽姐さん、助け、て……助けておくれ!わっちが悪ぅおざんした。…足抜けなど、もう二度と考えんせん!お役人には、言わないで、おくれ…。」

音音
「あは…あはは、あはははは!わっちはお仕舞い。もうお仕舞いでありんす。逃げられんせん…。糸を見るたび、小世の細い首を…絞めた時の感覚を思い、出す…。あぁぁぁ…あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。」

魅陽(冷たく、甘く)
「そうでありんすなぁ…。お前たちはもう、このから逃れる事は叶わんせん。(クスクスと笑う)…。お前たちが殺した証拠……薄凪は男へ宛てた密書。音音は盗んだ鍵と三味線の糸。わっちが預かっておいてあげんす。」

薄凪
「わっちたちは…一生姐さんの言いなりかえ…?」

魅陽
「言いなり?滅相もありんせん。お前たちは、わっちのためのでありんす。死ぬまで…この地獄でわっちの為に笑い、わっちの為に稼ぎなさん。それが……小世への、せめてものでありんしょう?」

(SE:長持ちを閉める)

(SE:ゆっくりと歩く)

魅陽
「さて、客を迎えんすえ。…座敷はちゃんと、務めなんしね。」

音音
「もちろんでありんす、魅陽姐さん。笑顔はいくらでも、作れんすから…。」

(SE:音音が部屋を出ていく)


薄凪
「小世…わっちは……姐さんは、今日も綺麗でありんす。…見ておいで。姐さんはここで、咲いてやすえ…。」

(SE:薄凪が部屋を出ていく)


(静寂)


魅陽
「誰もわっちを越える事は許さんせん。この吉原の頂で朽ちるのは……わっち独りで十分でありんす。」


シーン⑤

(SE:祭囃子・三味線)
―――フェードイン(魅陽の台詞後さらに大きくし、フェードアウト)

魅陽M(被せて)
「さあ……今宵も極楽浄土の、幕開けでありんす。」




END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...