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廓の檻に死の香り
しおりを挟む三人用。15分~20分。
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魅陽:筆頭花魁。美しく妖艶で、威厳があるが、とても冷徹。
薄凪:魅陽のライバル。と、自分で思っている。とても感情的でヒステリック。
音音:座敷持ち。冷静。
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シーン①
(SE:不気味な風)
薄凪
「ぁ…あぁ…ありんせん…。こんなこと、あって良いはずがありんせん!小世……あんなに可愛らしかった禿がどうして…あんな姿で…!」(嘆く様に)
魅陽(煙管を吸いながら)
「……騒ぎなさんな、薄凪。その甲高い声、廊下の若い衆に聞こえたらどうしんす?【部屋で、女狐が化けて出た】とでも言わせるおつもりえ?」
薄凪
「っ!?お前さんの部屋で死んでいるのでありんすよ!?魅陽、お前…お前が小世をころしたでありんしょう!」
音音
「薄凪姐さん、あまり近づかない方がよろしおす。小世の死に顔…脳裏に焼き付きんす。目は見開き舌を出して……首には赤黒く一本の筋。」
薄凪
「ッ…っい……嫌…嫌でありんす!」
(SE:向き直る布擦れ)
魅陽(音音に向き直り)
「音音…お前さん、先刻から随分と落ち着いてるようでありんすなぁ。死体は見慣れてるかい?」
音音
「えぇ…。わっちの故郷では、飢えによって死体など道端に転がっておりんした。」
魅陽
「道理で。」
音音
「でありんすが、この部屋は魅陽姐さんが内側から閂をかけていたはず。わっちと薄凪姐さんが呼ばれ入るまで、誰も出入りは出来んせん。」
魅陽
「左様。わっちはこの部屋で独り、酒を飲んでおりんした。……お前たちが来るまではな。」
薄凪(急に大きな声で)
「ほら見なさん!犯人はお前だ。……魅陽、お前が小世を絞め殺し、長持ちの中に隠しんしたろ!」
魅陽(嘲笑う様に)
「ふっ…。わっちが?なぜえ?自分の部屋を汚してまで、あのような小娘を殺す利がどこにのざんしょう。ふふふ。」
薄凪
「ッ…それは…。」
魅陽
「それよりも薄凪。お前さん、その手首…どうしなさんした?」
(SE:布擦れ)
薄凪(とっさに隠しながら)
「!?…これは、何でもありんせん。」
音音(被せる)
「あら、これは。子供に噛まれたような跡でありんすねぇ。……まさか、小世に噛まれたのではありんせんか?あの子が必死に抵抗した…のでは?」
薄凪
「放しんせ!これ…は…。これは、昨晩客と戯れていた時についたものでありんす!」
(SE:ゆっくりな足音・畳)
魅陽(近づきながら)
「(煙を吐く)…。嘘が下手でありんすなぁ。まぁ…犯人が誰なのかは、二の次でありんす。音音…先刻長持ちのあたりを嗅ぎまわっていた時、なにか……拾わなかったかえ?」
音音
「っ!?」
魅陽
「小世が肌身離さず持っていた、この部屋の予備の鍵が、見当たらねぇのでありんす。…音音。お前さんの懐にあるのではありんせんか?」
(SE:沈黙の中で魅陽が煙を吐く音だけ)
シーン②
(SE:拍子木)
魅陽
「吉原の夜が始まりんした。客が来るまで…あと、半刻。さぁ……どうしんす?このままお役人を呼んで、三人揃って地獄へ行きんすか?ふふふ。……それとも…。」
薄凪
「そ…それ、とも…?」
魅陽
「ここで、互いの秘密を吐き出し合い、一番泥をかぶるに相応しい者に…この死体を背負ってもらうか。…どちらかでありんす。」
シーン③
(SE:紙と筆を二人の前に差し出す魅陽)
魅陽
「さあ、始めようではありんせんか。誰が小世を冥土へと送ったのか。あるいは……誰があの子に一番死んで欲しゅうござりんしたのか。嘘をつくなら突き通しなんし。綻びが見えた者から、この骸と共に奈落へ落として差し上げんす。」
(SE:両手で机をたたく)
薄凪
「勝手な事をっ!わっちは何も隠しておりんせん!小世を可愛がっていたんは、この郭の誰もが知っている事。あの子に死なれて困るんは、わっちでありんす!」
音音
「ふふふふふふ…あはははははは!……可笑しなことを。薄凪姐さん、あの子を可愛がっていたでありんすって?毎日、三味線の撥で頭を叩き、禿の給料を掠め取ることが……可愛がる、と言うのでありんすか?」
薄凪
「黙れ小娘っ!あれは躾でありんす。それより音音…お前さんこそ、小世に弱みを握られていたのではありんせんか?昨晩お前が、客の懐から財布を抜き取るのを、あの子は見ていたでありんす。」
音音
「(静かに)見ていたから…何でありんしょう?あの子はわっちにこう言ったでありんす。【姐さんの指は、魔法の指だね。】と。……だからわっちは、あの子の首をそっと…撫でてあげただけ。」
魅陽
「(煙を吐く)…撫でただけで、首に三味線の跡がつくかえ?音音。お前さんの三味線、一番太い糸が…切れているようでありんすが…。今、どこにあるのかい?」
音音
「……。」
薄凪(勢いよく)
「ほら見なさん!犯人はこいつでありんす!音音が盗みを見られた口封じに、三味線の糸で…!」
魅陽(被せて)
「待ちなさん、薄凪。まだお前さんの秘密が残っておりんす。小世が持っていたはずの密書…。あれは…お前さんが馴染みの客と足抜けを企てていた証拠でありんしょう?」
薄凪
「な、ぜ……それ、を…。」
魅陽
「小世はわっちの教え通りに動いていただけ。……あの子は、わっちの目でありんした。お前たちの不祥事・裏切り…全てをわっちに報告する。忠実な、わっちの分身。……さあ音音。お前さんが隠している鍵を出しなさん。」
(SE:布擦れ)
(SE:真鍮の鍵の転がる音)
音音
「これを……探していたのでありんすか、魅陽姐さん。でも…不思議でありんす。小世は姐さんの目でありんしたのでしょう?どうして、姐さんは小世に毒を飲ませたのでありんすか?」
薄雲
「毒!?」
音音
「小世の口元、微かに苦い香りがしておりんす。姐さんが美しさを保つために飲んでいる…水銀。…あの子に飲ませたのではありんせんか?」
(SE:煙管を置く)
(SE:扇を広げる)
魅陽
「ふふふ………ふはははははは!流石は泥水で育った音音。鼻だけは利くようでありんすなぁ。……左様。小世はわっちの秘密を知りすぎた。そして、お前たちの秘密も知りすぎた。」
薄雲
「そんな…それ、じゃ……わっちたち、は…。」
魅陽
「左様。誰が手を下したかなんてのは、もう境がありんせん。噛みつかれたのも、糸で絞めたのも、毒を盛ったのも…。わっちたちは三人で、小世と言う枷を壊したのでありんす。」
(SE:遠くで祭囃子に三味線の音)
魅陽
「さて…。客が来るまで四半刻もありんせん。この骸をどうするか。共犯になるか…被せるか……。選ばせて差し上げんす。」
シーン④
(SE:二人の周りをゆっくり歩く魅陽)
魅陽
「さあ…顔を上げなさん。そんなに震えていては、後の座敷が務まりんせんよ?薄凪、音音。」
薄雲(縋りつく)
「魅陽姐さん、助け、て……助けておくれ!わっちが悪ぅおざんした。…足抜けなど、もう二度と考えんせん!お役人には、言わないで、おくれ…。」
音音
「あは…あはは、あはははは!わっちはお仕舞い。もうお仕舞いでありんす。逃げられんせん…。糸を見るたび、小世の細い首を…絞めた時の感覚を思い、出す…。あぁぁぁ…あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。」
魅陽(冷たく、甘く)
「そうでありんすなぁ…。お前たちはもう、この紅い鎖から逃れる事は叶わんせん。(クスクスと笑う)…。お前たちが殺した証拠……薄凪は男へ宛てた密書。音音は盗んだ鍵と三味線の糸。わっちが預かっておいてあげんす。」
薄凪
「わっちたちは…一生姐さんの言いなりかえ…?」
魅陽
「言いなり?滅相もありんせん。お前たちは、わっちのための綺麗な飾りでありんす。死ぬまで…この地獄でわっちの為に笑い、わっちの為に稼ぎなさん。それが……小世への、せめてもの手向けでありんしょう?」
(SE:長持ちを閉める)
(SE:ゆっくりと歩く)
魅陽
「さて、客を迎えんすえ。…座敷はちゃんと、務めなんしね。」
音音
「もちろんでありんす、魅陽姐さん。笑顔はいくらでも、作れんすから…。」
(SE:音音が部屋を出ていく)
薄凪
「小世…わっちは……姐さんは、今日も綺麗でありんす。…見ておいで。姐さんはここで、咲いてやすえ…。」
(SE:薄凪が部屋を出ていく)
(静寂)
魅陽
「誰もわっちを越える事は許さんせん。この吉原の頂で朽ちるのは……わっち独りで十分でありんす。」
シーン⑤
(SE:祭囃子・三味線)
―――フェードイン(魅陽の台詞後さらに大きくし、フェードアウト)
魅陽M(被せて)
「さあ……今宵も極楽浄土の、幕開けでありんす。」
END
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