腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

沼木ヒロ

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第三十九話

腐男子、板挟みになる

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 王子達と別れた後お店に戻り、ノインさんにトイレ行ってきますと告げ、トイレへ入った。

 トイレの鍵を閉め、先程ロタに握らされた紙を開くと、手紙の様で文章が書いてあった。

「ヤマト君へ

 初めての手紙がこんなのでゴメンね。
 
 シリウス様がヤマト君の事をかなり気に入っているのは知ってるよね?
 実は先日、城の裏庭でシリウス様が不審な奴等と人さらいの話をしていたのを偶然立ち聞きしたんだ。
 ヤマト君の事ではないと願いたいけど、一応用心しておいた方が良い。
 俺も、夜に仕事がある時は本屋の周辺を見て回るから、どうか気をつけてね。

 それじゃ、また。

 ロタより」

 ロタ……俺の身を案じてこんな手紙まで書いてくれたんだ。
 凄く嬉しい。ありがとう、ロタ。

 しかし、人さらいの話とか尋常じゃないな。
 それマジでターゲットが俺だったらどうしよう……

 キール、力はあるけど……いざ人さらいの奴等が来たら太刀打ちできるんだろうか。
 俺とノインさんは非力だから戦力外だし。
 頼れる知り合いの人って言ったら、騎士団長で一級剣士のディルトさんと、騎士団副長で一級盾士のロタしかいない……
 うーん……本当にどうしよう。

 悩んでいるとトイレのドアをノックされた。
 すぐに鍵を開け、扉の前にいたお客さんに礼をし、ロタの手紙をエプロンのポケットに突っ込みながらフロアへと戻った。



* * * * *



 その日の夜、当たり前の様に俺のベッドに入ってきたキールに、ロタから貰った手紙を見せた。
 キールは手紙を読むうちに、段々と眉間に皺が寄り、渋い顔付きになっていった。

「ヤマト……この人さらいの話が本当で、ターゲットがヤマトだったらかなりヤバイよ。
 王子と話しが出来る位だから、秘密裏に動いているプロの人達なんじゃない?
 複数で来られたら俺一人で勝てるかどうか……
 ディルトさんや副長さん達に、何か良い方法が無いか相談した方が良いよ」
「そ、そうだな……俺、なんだか怖くなってきたよ……」

 ベッドの上で体育座りをしていたが、肩と手が恐怖で震え出した。
 キールがそれに気付き、横から優しく抱きしめてくれた。
 温かい体温に包まれ、恐怖感が段々と薄れてきた。

「ありがとう、キール。そういうキールの優しい所、好きだよ」

 そう呟くと、今度はキールの腕が震え出し

「ヤ、ヤマトが俺の事好きって言った……!」

 と叫び、ベッドに押し倒されて口にキスされた。

(……優しい所が好きって言ったんだけどな……まぁ、いっか……)

 いつもは抵抗するんだけど、この時だけはキールに身を委ね、受け入れた。



* * * * *



【コン……コン……】

……何だ? 夜中にふと、目が覚めた。
 窓ガラスに石か何かが当たる音がした気がする。

 ゆっくりと起き上がり、横で寝ているキールを起こさない様そっと足元の方から下り、窓際へ近寄って外を見た。

 下には、白い制服姿の……ロタが一人立っていた。
 俺は寝間着姿のまま、静かに螺旋階段を下り、裏口から外へ出た。

「ヤマト君……ゴメンね、起こして。ちょっと話があって……
 寝間着姿も可愛いね」
「可愛いって……ロタ、仕事帰り?
 もしかして本当に見て回ってくれてたのか?」

 ロタはうなずきながら俺の側に歩み寄って来た。

「手紙、見てくれたみたいだね」
「見たよ、心配してくれてありがとう。ロタって優しいのな」

 笑みを浮かべてロタの顔を見上げると、ギュッと抱きしめられた。

「ロタ……苦し……」
「……ハァ……ヤマト君……ずっとこうして抱きしめたかった。
 シリウス様がいる前じゃ出来ないからね……」

 ロタは片手で俺の頭を優しく撫でながら、呟いた。

「俺ね、最近変なんだよね。
 前は人肌恋しい時は、俺に言い寄ってきた奴と適当にヤッてたんだけど……
 今は全然できなくなっちゃった……
 全部、ヤマト君のせいだよ?」
「俺の……せい?」

 ロタに頭を撫でられ続けながら、俺は言葉を返した。

「正直、ヤマト君とセックスした時は半分遊びのつもりだったんだよ。
 でも、日に日にヤマト君の事が忘れられなくなっちゃって……
 ヤマト君と話して触れ合う度に、どんどん好きになっちゃって……
 本気の恋だと気付いたけど、気付いたのが遅かった。
 シリウス様が相手じゃ、絶対勝てっこない。
 こうして気軽に会ったり、触ったりが出来なくなるの、俺嫌だよ」

 ロタは更に力強く抱きしめてきた。
 そんな風に想ってくれていたのか……

 少しして、ロタが指で俺の頬を撫で、ジッと見つめてきた。
 月明かりに照らされて、ロタの赤い瞳がより一層深くて綺麗な色に輝いていた。

「ヤマト君……好きだよ」

 ロタの顔が段々と近づいてきた。
 キスされる……と思ったその時、背後から声がした。

『ヤマトッ……!』

 後ろを振り返ると、同じく寝間着姿のキールが立っていた。

……あ、これ、ヤバイ状況じゃない?
 そう思っているとキールが早足で歩いてきて、ロタから俺を引き剥がした。

「……副長さんじゃないですか。
 ヤマトに何してたんですか?」
「何、って……抱きしめてキスしようとしてた所だけど。
 邪魔しないでもらいたいなぁ」

 キールとロタが、俺の頭上で睨み合ってる。あわわわわ……俺どうすれば……

「ヤマトに余計な事しないで下さい。
 寝る前にも、怖いって震えていたんですから。
 ヤマトは俺に任せて、副長さんは外の見回りお願いしますよ」
「金髪君こそ、ヤマト君が抜け出した事に、気付くの遅すぎなんじゃない?
 キミだと役不足な気がして、俺は不安だよ」

 うっわ……どーしよー。
 これ、本でよく見るやつ……いわゆる「修羅場」ってやつだ。
 こういう時はどうすれば良いんだ!?
 止めに入った方が良いのか?

「あの、二人共……いがみ合うのはやめてくれよ……」

 オドオドしながら俺は二人の間に入った。
 二人は一斉に俺の顔を見て、両サイドから手を握られた。

「……ヤマトに免じてこの辺でやめておきます。
 さ、ヤマト、また一緒のベッドで寝よう」
「キール!! 余計な事を……!!」

 ロタの方に目をやると、案の定目を見開いて俺とキールを交互に見ていた。

「えっ……? い、一緒のベッド!?
 ヤマト君、この金髪君と同じベッドで寝てんの!?」
「ち、違うって、今だけキールと同室で、キールが勝手に俺のベッドに……」

 本当の事なので黙ったままでも良かったのだが、ショックを受けているロタを目の前にしてつい、慌てて言い訳をしてしまった。
 俺の気持ちを知ってか知らずか、俺の横にいたキールがニヤニヤしながら俺に抱きつき、スリスリしながら更に追い討ちをかけてきた。

「昨日も今日も、ベッドの中でヤマトと抱き合ってキスして……柔らかかったなぁ。
 また俺の手と口で気持ち良くイかせてあげるからね、ヤマト」
「ウワァァァァ! キール! ちょっと黙ってて!」

 キールが言わなくてもいい事まで喋り出したので、思わず両手でキールの口を塞いだ。

 キールの言葉を聞いてロタはショックを受けた様子で青ざめたが、すぐに歯を食いしばりながら言葉を発した。

「同じ本屋の店員だからって、ヤマト君にそんな事を……!
 …………決めた。俺、これからしばらくヤマト君の部屋で夜の見張りをするよ。
 誰も手出し出来ない様に朝まで見張っててあげる」
『えぇっ!?』

 ロタの思わぬ申し出に俺とキールは同時に驚きの声を上げ、固まったのだった。
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