腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

沼木ヒロ

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第八十五話

腐男子、元に戻る

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「ヤマト君、こっちにおいで」

 御者ぎょしゃ席にいるディルトさんが俺の方を向いて手招きした。
 俺は呼ばれるがままに騎士団の馬車の方へと行くと、エバン君は客車の座席にロープで体をぐるぐる巻きにされたまま座らされていた。顔を下向きにして項垂うなだれていて、表情をうかがい知る事ができない。
 俺はエバン君を横目で見ながら、ディルトさんの横へ腰掛け、俺が座ったのを確認したディルトさんが手綱を持ち、馬車を王都方面へと走らせた。

 馬車に乗ってしばらくしてから、ディルトさんにまだお礼を言えてなかった事に気付き、ディルトさんの名を呼んだ。

「なんだい、ヤマト君」

 ディルトさんは微笑みながら、こちらをチラッと見た。
 センター分けで耳の上で切り揃えられた蒼い髪が風でなびき、銀の細フレームの眼鏡が太陽の光でキラキラ輝き、綺麗で整った顔を更に際立たせていた。
 思わず見惚れていた事に気付き、ハッと我に返る。

「あっ、あの、助けてもらってありがとうございます……ディルトさん」
「ふふ、どういたしまして。君を助ける事ができて本当に良かったよ。
 最初はヤマト君がエバン君とそういう……プレイ……をしているのかと思ったが、様子がおかしく思ってね。止むを得ずミツアキ君に時間停止能力を使ってもらった」
「そうだったんですね」
「……君も、ミツアキ君と同じ様に時間停止能力を使えるんだろう?」

 ディルトさんから、予期せぬ方向からの質問をされた。心臓がドクンと跳ね上がったのが分かる。

「何度か、君の姿が突然消えた時があった。あの時、時間停止能力を使って逃げた。違うかい?」

 そうだ、俺はディルトさんの前で二回も時間停止能力を使った事がある。
 ロタに担がれて王都へ連れて行かれそうになった時と、騎士団の駐車場で止まっていた馬車の中だ。
 別に俺をこの世界へ転移させた天使ハニエルには能力についての口止め等はされていないので、自分はこういうチート能力を持っている、と喋っても良いだろう。
 でも、どこの世界にも良い人ばかりがいる訳ではない。俺のこの能力を悪い事に利用しようとする奴等もいるかもしれないと思い、今まで口外せずにいた。
 でも、ディルトさんはミツアキさんが時間停止能力を持っている事を知っている。ディルトさんになら教えても良いかもしれない。

「…………ハイ、その通りです。俺もミツアキさんと同じ時間停止能力と……あと鑑定能力も持ってます」

 何となく、妊娠できる能力の事は伏せた。ディルトさんは既に俺が妊娠できる体質だと知っているし、今更妊娠できるのは能力の力ですと言っても意味が無いと思ったからだ。
 能力の事を告白してもディルトさんは特に驚いた様子も無く、黙って頷いた後少ししてから口を開いた。

「……ありがとう、ヤマト君。私に本当の事を言ってくれて。その事を話したのは私が初めてかい?」
「……ハイ」
「どうして私に本当の事を?」
「……ディルトさんになら話しても良いかなって思って……
 今まで誰にも話さなかったのは悪い事に利用されると嫌だなって思ってただけで……
 ディルトさんはミツアキさんの事も知ってるし、誠実で信用出来るっていうか……」
「誠実で信用出来る、か…………私はそんな完璧な人間では無いよ」

 ディルトさんはそう言いながら、手綱を片手でまとめて持ち、もう片方の手で俺の手をギュッと握ってきた。

「ヤマト君とは別れた間柄なのに、未だに君の事を夜な夜な想っている。
 今もこうして、手を握るだけで胸が熱く高鳴っている。これ以上の事をしたいとさえ思っている。
 おかしいだろう? お互いの事を思って身を引いたというのに、ヤマト君への想いをスッパリ断ち切れずに未だに未練たっぷりに引きずっている」
「ディルトさん……」

 ディルトさんは俺の手をさっきよりも強めに握ってきて、指を絡ませてきた。
 親指で手の平の甲をツツッ……となぞられて手がビクッと震えた。

「……ヤマト君……私から別れを切り出しておいて何だが……君さえ良ければ、復縁してもらえないだろうか。
 都合が良すぎるのは分かっている。でもやはり、私にはヤマト君しかいない。ヤマト君が私の全てなんだ」
「…………」

 ディルトさんからの突然の復縁の申し出に、思わず返す言葉が詰まってしまった。
 馬車を走らせながら、手も握ったままディルトさんは言葉を続けた。

「今まで私は、面倒な仕事は全て私一人でやってきた。
 仕事量が増え、上層部からの信頼も厚くなっていったが、それが原因でヤマト君と過ごす時間が無くなってしまって寂しい思いをさせてしまった。
 だから上層部と掛け合って、兼任している他の騎士団の団長は辞退し他の者に代わってもらう。
 仕事もなるべく日中で済ませられるものを選び、夜間の仕事は他の団員達に交代で任せる様にする。
 これからはヤマト君を心身共に満たしてあげられる様に努力する。
 勿論、君の能力の事も勝手に口外したりしない。
 だから、もう一度……私とお付き合いしてもらえないだろうか」

 握られている手に更に力が込められ、小刻みに震えている。

 ディルトさんとは一度別れてしまったが、元々嫌いで別れたのでは無く、ディルトさんがお互いの事を想っての別れだった。

 俺もまだディルトさんの事が好きだ。別れた後もロタからディルトさんの事を聞く度に心が幾度となくざわついた。
 思ってもみないディルトさんからの復縁の申し出に、俺は一寸の迷いも無かった。

「……こちらこそ、よろしくお願いします、ディルトさん」

 笑顔でそう返事を返すと、ディルトさんは馬車を急停止させた。

「うわっ……!!」

 後ろの客車でエバン君の体が客車の壁にぶつかった音と同時に、自分も驚きの声を上げながら前のめりで倒れそうになった。するとディルトさんにすぐさま腕を引っ張られ、そのまま抱きしめられた。
 身長差があるのでディルトさんの分厚い胸板に顔がうずまり、腕の中にすっぽり入った状態になっている。

「あぁ、ヤマト君……ありがとう……!
 好きだ、大好きだ、愛してる」

 ディルトさんに髪を撫でられた後、頬を伝い顎下に手を添えられ、そのまま口にキスをされた。
 
(あぁ……ディルトさんとまた再び恋人になれた……嬉しい)

 俺はディルトさんとの久しぶりのキスに夢中になり、後ろの方でエバン君の痛がる声に気付いたのはもう少し後のことだった。
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