腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

沼木ヒロ

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第八話

腐男子、壁ドンされる

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 朝食を食べ終えた俺は洗い物をし(ノインさんは遠慮したが俺にやらせて下さい、と頼んだ)、ノインさんが用意してくれた従業員用の、深みのある緑色のエプロンをブラウスの上に着た。
 開店までまだ二時間位あるとの事で、俺は店先の掃除を任された。

 ほうきとチリトリを持って外に出る。
 澄んだ空気に青い空。目の前の街道には馬車で荷物を運んでいる商人の様な人や、旅人、冒険者、様々な服装の人達が行き来していた。
 朝食の時にノインさんから聞いたが、この本屋の前にある街道は王都と村を繋ぐ一本道らしい。
 なので朝から晩まで人通りがあり、しかも本屋はこの辺一帯だとここにしか無く、それなりに繁盛しているみたいだ。

 街道をせわしなく行き交う人達を尻目に、俺はお店の前とその周辺の掃除を黙々とした。


* * * * *


 一通り掃除が終わったのでノインさんに報告しようと店の中に入る。
 昨日は空腹で店の中を細かく見る余裕が無かったが、改めて見てみると様々な種類の書物が置いてある事が分かった。
 図鑑、一般小説、哲学、宗教、等々実に色んな種類の本が並んでいる。
 ふと、左端の本棚の前で足が止まる。恋愛小説のコーナーのようで、どれもBLモノだった。
 そうか、この世界には男しかいないから恋愛小説もBLだらけなんだ。
 これからは堂々とBL本が買えるのか、胸アツだ。表紙と題名を見る限りこの世界のBL小説も面白そうだ。
 しかし腐男子的には万々歳だが、恐らくエロ本も男ばっかなんだろうな。それだと俺の夜のオカズが無いではないか。
 想像や妄想をフル活用して満足するしかないってやつか……

 BL小説の前で悶々と考え事をしていたら、突然右後ろから腕が伸びてきて壁ドンみたいな事をされた。

((ん!?))

 何が起きたのかと後ろを振り返ると、俺より背が高い金髪碧眼の超絶イケメンが無表情でこちらを見下ろして一言

「オマエ……誰?」

 いやお前こそ誰だよ!! こえーよ!!
 何でイキナリ壁ドンしちゃってんだよ!!
 俺、ヤンキーに絡まれた人っぽくなってるんだけど!!

「キール、その子はヤマト君。今日から住み込みで働いてくれる新人の子だよ」
 店の奥でノインさんがこちらを見ながら大声で説明してくれた。
 キールって名前のイケメンは俺を上から下までジットリ舐め回すように見て
「……へぇー……新人、ねぇ」
と、表情1つ変えずにボソッとつぶやいて顔を近づけてきた。
 その顔は驚く程美しい顔だった。
 差し込む光でキラキラと輝く金色の髪の毛、透き通っていて吸い込まれそうな碧い眼、長い睫毛に高い鼻、艶々とした唇。
 まるで二次元から飛び出してきたような見事なイケメンだった。
 俺が女子だったら間違いなく恋に落ちてるな……って、近い!! 近すぎる!!
 今地震が起きたら確実にキスしてしまう距離なんだけど!!
 俺があたふたしていると、ようやく離れてノインさんがいた方へ歩いて行った。何なんだ、一体。
 そりゃー、俺はキールって奴に比べれば身長も高くないし、ヒョロいし、童顔だし、頼りなく見られたかもしれない。
 でも初対面なんだし、もう少し感じ良く接してくれても良くないか?
 一人でむくれてたらノインさんが朝の挨拶をするからおいでー、と俺を呼んだので急いで店の奥へ行った。


* * * * *


 レジ後ろの部屋に入ると、向かい合って立っていたノインさんとキールが一斉にこっちを見た。ノインさんが俺の手を引っ張り、キールの目の前に立たせる。
「ヤマト君、紹介が遅くなったけど、彼の名前はキール。
 もう五年位になるかな? 通いで働いてくれてる。
 いつも無表情だけど本の事に関してはベテランで僕より詳しいから、分からない事は彼に聞くといいよ」
 とニコニコしながら紹介してくれた。続けてキールの方に向いて話す。
「そしてこっちの可愛らしい子はヤマト君。昨日仕入れの帰り、街道で寝てたから僕が声を掛けて連れて帰ってきたんだ。
 訳あって記憶を無くしているみたいだから、しばらく僕のお店で住み込みで働いて貰う事にしたからね。キール、面倒見てあげてね」

 キールは再び俺の頭から足のつま先まで何往復もジトーッとした目で見た後
「……フーン……よろしく……」
とこれまた無表情でボソッとつぶやいて部屋を出て行った。

 ノインさんが良い人だから、ここで働く事になってラッキー! と思っていたけど、あのキールと上手くやっていけるのか不安になってきた。
 俺は重い足取りで、ノインさんから頼まれた本の補充作業を始めるのであった。
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