腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

沼木ヒロ

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第二十話

腐男子、風邪を引く

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「ハックション!」

 俺はベッドの上で大きくクシャミをした。

 昨日、風呂場でキールに襲われてから……しばらく裸で座っていたのがいけなかったのか、王都で色んな出来事があったせいなのか分からないが、俺は今朝、熱を出してブッ倒れてしまった。
 ノインさんは夜遅く仕入れから帰ってきて疲れているだろうに、営業時間をずらし俺の為に王都へ薬を買いに行ってくれた。
 ノインさんはついでの用事もあるから気にしないでねと言ってくれたが……本当に良い人で頭が下がる。
 熱が下がったら、沢山働いて恩返ししよう。

 それはそうと、今何時だっけ……
 ボーッとした頭で時計に目をやる。朝八時か……
 お腹が空いたけど、自分で作る気力が無い……昼まで寝ようかな……
 そう思っていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
 キールだ。
 ドアが遠慮がちに開き、キールは美味しそうな匂いのするお皿が乗ったトレイを持っていた。

「あの、ヤマト……スープ作ったから……食べる?」
「……! うん、あ、ありがとう……」

 キールにゆっくり起こしてもらい、スプーンで食べさせて貰う。
 芋と玉ねぎと人参の、ポトフの様なシンプルなスープ。塩胡椒の加減が丁度よくて美味しい。空っぽの胃に染み渡る。

 スープを食べさせて貰って何回目かで、キールが口を開いた。

「ヤマト、その……昨日はゴメン。俺、どうにかしてた」

 熱で頭がボーッとしたまま、キールの顔を見た。キールはスプーンで、残ったスープをかき混ぜながら続けて喋った。

「ヤマトが監禁部屋で見つかった時、下に何も履いてなかったのを見て……凄くショックだったんだ。
 このままじゃ、他の奴にヤマトの全てを奪われてしまう、って思ったら居ても立っても居られなくなって……気がついたらヤマトにあんな酷い事……本当に申し訳ない」

 キールはそう言うと俺に頭を下げた。
 心なしか、肩が少し震えていた。

「……ううん、もういいよ。
 あの時はキールの様子がいつもと違っててちょっとビックリしただけだし……
 ファーストキスは奪われたけどな」

 そう話した途端、キールは顔をガバッと上げ
「えっ、ファーストキス……?」
 と驚いた様子で呟いた。

「そ、そーだよ!あれ、ファーストキスだったの!
 この歳までキスもまだだったし童貞だよ!
 笑いたかったら笑えよっ」

 キールは呆気あっけにとられた後、頬と唇の端を緩ませた。

「笑わないよ。嬉しい、凄く嬉しい……
 ヤマト、俺が責任とって幸せにするから。
 もう誰にも渡さない」

 キールはそう言うとスープを横の棚の上に置き、俺の肩をガシッと掴み、またキスをしようとしてきた。
 キールの目がイッちゃってる。何かスイッチが入ってる!
 いやいやいや、キスで責任とかノーサンキューだから!

「いい! 責任とらなくていいから! そして顔近い! 熱がうつる!」
「いいよ、俺にうつして。…………ヤマト、好きだよ」
「良くない! ってか、先にキスして告白とか順番が逆……んんーっ!」

 キールに迫られ俺は、二回目のキスも奪われた。
 でも昨日のとは違い、ふわっとした優しいキスだった。
 俺は何故か顔が赤くなり心臓もバクバク鳴り、キールを払いける事が出来なかった。

 おかしい……何か変だ俺。熱が出ているせい、だと思いたい。



* * * * *



 翌日、俺はすっかり元気になった。
 ノインさんが買ってきてくれた薬のお陰で熱もすぐ下がった。本当に感謝しかない。
 今日からまた仕事、一生懸命頑張ろう。

 俺はいつも通り店の周辺を掃除し、店内の窓や床掃除、棚掃除をし、ノインさんが仕入れてきた大量の本を本棚に補充、整理して回った。
 お、俺がこの世界ではじめて買った虎人達ワータイガーの恋愛小説の新刊が出てる。
 前巻では喧嘩別れしちゃってて、続きが気になってたんだよな。
 よし、後で忘れずに買おう。
 王都で買ってきた本や雑誌も、俺が熱出して手付かずだから、あれも少しずつ読んでいかないとな。
 BL本の事を考えていると凄く心がウキウキする。
 この瞬間、あー、俺やっぱりBL本好きな腐男子なんだなぁ、と思う。

 本を並べ替えていると、本を数十冊抱えて歩いていたキールと目が合い、ニコッと微笑みかけられた。
 爽やかな笑顔……相変わらず今日もイケメンだ……
 俺に愛の告白をしてきたキールだったが、朝も今までと変わらず普通だった。
 ……って、べ、別に何かを期待していた訳じゃないんだけど……
 
 王都の本屋二階のカフェでも考えたけど、俺はキールの気持ちにどう答えればいいんだろう。
 恋愛対象、男じゃなかったのに……キールにキスされても心の底から嫌ではなかった。
 キールがイケメンだから? キールに好きって言われて迫られて、情にほだされているから? それともこの世界に慣れてきているから? 

 うーん……

 まだ結論を出すには早過ぎるかもしれない。
 俺は答えを出すのはもう少し先送りにする事にした。



* * * * *



 それから一週間経ったある日、いつも通り本棚の整理と掃除をしていたら後ろから肩をトントンと叩かれた。
 後ろを振り向くと、王都で助けてくれた騎士団長のディルトさんが白い制服姿で立っていた。

「こんにちは、ヤマト君。久しぶりだね。
 ちょっとキミに話がある、一緒に外に出てもらえないか。
 店主さんには許可取ってあるから」
 
 ディルトさんはそう言うと、俺の手首を持って正面出入り口へと歩き出した。
 途中、客と話しているキールと目が合った。
 キールは不安そうな顔で、店を出て行く俺達二人をずっと見ていた。
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