腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

沼木ヒロ

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第二十九話

腐男子、デートの約束をする

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「おはよう、ヤマト。今日も可愛いね」

 早朝、ほうきで外掃除をしていた俺に、出勤してきたキールが近寄ってきておでこにキスをした。

「……! いつも言ってるだろ、誰かに見られたらどーする……んんっ!?」

 思わず真っ赤になってしまった俺を見て、キールは「可愛い」と言いながら口にもキスをして店の裏口へと歩いて行った。
 赤い顔が引かないまま取り残された俺は、小さな溜息をついた。

 本屋ウチの倉庫でキールにヤられてしまってから一週間ちょっと経ったけど、結局その時の続きはまだしていない。
 前にも増してこんな風にスキンシップが激しくなった位で、キールからは特に誘っては来ない。

『また今度、続きさせてくれる……?』
 なんて言われ、俺一人でドキドキしているのに……
 って、ん? 何で俺ドキドキしてるんだ? 何を期待してるんだ俺。

 てっきり日にちを空けずにすぐに続きを求められると思ってたんだけど……拍子抜けだ。
 我慢出来なくなってある日イキナリ俺を押し倒したりするのだけは勘弁して欲しい。

 それよりも、明日は定休日だ。
積み本も溜まってきたし、明日は部屋で本を読んでゴロゴロしよう。
 落ち葉を掃きながら、どの本から読んでいこうか考えていると、人通りがいつもは少ない時間帯なのに、複数の馬が走る音と、木の車輪が地面をゴロゴロ転がる音がした。
 音のする方へ目を向けると見た事のある金色の縁取りの白い馬車が、三台連なってこちらへ向かって来ていた。あれは王都騎士団の馬車だ。

(こんな朝早くから……何かあったのかな)

 ボーッと馬車を眺めながら地面を掃いていると、その三台の馬車が本屋の近くで止まり、中からこれまた見覚えのある二人が降りて来た。
 蒼髪眼鏡の騎士団長ディルトさんと、赤髪の副長ロタだった。
 ディルトさんは爽やかな笑顔で、いつものように気さくに話し掛けてきた。

「やぁ、ヤマト君、おはよう。朝早くから頑張っているね」
「お、おはようございます。ディルトさん達も……何かあったんですか?」

 俺は軽く会釈をしディルトさんに質問をした。

「この街道先に森があるだろう?
 その森で昨夜から魔物討伐していたんだよ。
 最近、頻繁に魔物の目撃情報があったんでね。
 森からは魔物の気配ももう感じられなくなったし、当面の間は大丈夫だろう」
「俺達、昨日の夜から一睡もしてないから眠くてね~。
 ヤマト君、添い寝してくんない? あ、それだと逆に興奮して眠れないかも」

 ディルトさんの後ろからロタが変な事を言っているので全力でスルーした。
 しかし、俺達が平和に暮らしていけるのも、こうしてディルトさん達が陰で魔物達を討伐してくれているお陰なんだな。ありがたい事だ。

 俺が心の中で感謝をしていると、ディルトさんが白い手袋をつけた手で、俺の頬の線をなぞるように触ってきた。

「ヤマト君、朝からこんな事を言うのもどうかと思うが、以前も伝えた通り私はキミの事が好きだ。
 キミの事をもっと知りたいし、親睦も深めていきたい」

……そうだった。俺、ディルトさんにも愛の告白をされていたんだった。
 
「そこで、こうして偶然キミにも会えたし、デートの約束を取り付けたい。
 明日、一緒に食事でもどうだろうか。
 確か明日は木曜で定休日だろう?
 私の行きつけの店があって、そこの料理がとても美味しいんだ。
 是非ヤマト君にご馳走したい」

 うーん、明日は部屋に閉じこもって本を読みたかったんだけどなぁ。
 でも断る適当な理由も見つからなかった為、食事位なら……と渋々OKした。
 ロタがディルトさんの後ろで「俺も行く行く!」と言っていたがディルトさんがスッパリ断った様で肩を落としていた。

「それじゃヤマト君、明日の朝十時頃迎えに来るからね」

 ディルトさんはそう言ってロタと一緒に馬車に乗り込み、待機していた他の馬車を引き連れて去って行った。

(食事の約束しちゃったけど、ディルトさんならキールやロタに比べて紳士的だから、警戒しなくても大丈夫だろう)

 おれはほうきを持ったまま騎士団の馬車を見送っていると、後ろから誰かに抱きしめられた。本屋のエプロン制服姿に着替えたキールだった。
 気のせいか、いつもより手に力が入っていてキツく抱きしめられている。

「キール、ちょっと、苦し……」
「ねえ、さっきのディルトさん達でしょ? 何話してたの?」

 うーん、声色からしてキール若干キレてますね。
 嘘をついてもしょうがないので、明日ディルトさんと食事に行く約束をしたと言ったら、案の定キールが更にキレた。

「ヤマト、二人っきりは危ないよ、俺も一緒に行く」

……キール、ロタと同じ事を言ってる……
 
「大丈夫だよ、ご飯食べるだけだし、ディルトさんは紳士っぽいし」
「……全然大丈夫じゃないよ。ディルトさんはヤマトの事が好きなんでしょ?
 ヤマトのココに挿れていいのは俺だけ」

 キールはそう言いながら俺のお尻の間に指を這わせてきた。思わず背筋がゾワゾワした。

「キール……大丈夫だって。食事だけ済ませたらすぐ帰るつもりだし。
 ディルトさん、仮にも騎士団長だし、変な事はしてこないと思うけど」

 キールは俺のお尻から手を離し、少し間を空けてから口を開いた。

「…………分かった。でもヤマト、もしディルトさんに迫られたり、嫌な事をされたらすぐ教えてね。
 刺し違えてでもディルトさんを……」

 キール……俺がディルトさんに襲われたらる気なのか。恐ろしい。

 俺は明日の事を少し不安に思いながら、掃除をするのも忘れてキールに抱かれていたのだった。
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