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第三十五話
腐男子、王子に会う
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(昨日は散々な目に遭ったな……)
次の日の朝、本屋の開店準備をしながらふと思い返した。
中出しされなかったとは言え、知らない男達に押さえつけられ、無理矢理口でしゃぶらされ、生で挿れられ……
BL漫画やゲームでも、たまに主人公がモブ男達に犯されるシーンがあったので、どういう事をされるのかは分かっていた。
でも現実世界でいざ自分が複数人に襲われる立場になると、上も下も前も後ろも苦しくて痛くて大変で、ただひたすら恐怖だった。
自分の好きな人達とだったら、3Pでも4Pでも気持ち良くて安心して感じる事ができるのかもしれない。
俺は当面の間は勘弁だけどな……
「おはよう、ヤマト」
キールが後ろから抱きついてきた。
「ヤマト……昨日は大丈夫だった? あの後、ディルトさんに襲われなかった?」
そうか、キールはディルトさんと食事に行った時にお店のトイレで……
その後キールとは別れたんだった。
俺があの後ディルトさんに襲われたけど逃げて、逃げたけど騎士団の奴等三人に犯されたとか言ったら……
キールは間違いなくブチ切れるな。
今はまだ黙っておこう……
「ううん、何もされてないよ」
そう返事をするとキールは良かった、と言いながら俺の頭の上で、顔を擦り擦りしていた。
(嘘をついてゴメン、キール)
キールに抱かれながら心の中で謝っていると、開店時間になりお客さんが次々と入ってきた。
俺はキールから離れると、挨拶をしながら掃除道具を片付ける為外に出た。
外の倉庫に雑巾とバケツを収めようとしたら、中身がグチャグチャで入らない……
店主のノインさんとキールは整理整頓が苦手の様で、俺がいつも綺麗に片付けている。
箒やチリトリなどを種類別にまとめながら、せっせと倉庫内を片付けていると、背後から肩をトントンと軽く叩かれた。
「いらっしゃいま……」
「やぁ、ヤマト君、おはよ」
挨拶をしながら振り向くと、白い制服姿のロタが立っていた。
軽く会釈をすると、ロタに突然片手を握られた。
「昨日は眠れた? 俺……心配でさ、見回りついでにここに寄っちゃった」
ロタ、心配して朝からわざわざここに来てくれたんだ。良い奴だな。
「う、うん……俺はもう大丈夫、ちゃんと眠れたし」
昨日は色々ありすぎて疲れ果て、習慣にしていた就寝前の本も読む事もなく、ベッドに倒れる様にして爆睡したのだった。
ロタはホッとした様子で笑った。
「そっか……良かったぁ。
あ、あれからちゃんとヤマト君襲った奴等全員見つけて、きっちり報告したから安心して。厳しい処分下るみたいだし」
俺はホッとしながら頷き
「ありがとう、ロタ」
と、見上げながらお礼を言った。
すると、珍しくロタの顔が真っ赤になった。いつも余裕のある涼しそうな顔をしてるのに。
「あっ、いや、違くて、これは……」
ロタが顔を真っ赤にしてあたふたしている。面白い反応でつい見入ってしまった。
「…………あ、あのさ、俺これから見回りの仕事行くんだけど……い、いってらっしゃいのキス……してくんない?」
「えっ、な、何で俺が……」
ロタ、突然何を言ってるんだ?
変な物でも食べたんだろうか……
「頼むよ、お願い!」
ロタはそう言いながら両手を合わせてお願いのジェスチャーをした後、左頬を差し出してきた。
……面倒だけど昨日助けて貰ったし、頬なら別に良いか、と思い頬に軽くキスをし
「……いってらっしゃい……」
と呟いた。
その途端、今度はロタは耳まで真っ赤に染めて歯がゆそうに笑った。
「……アッ……ハハ……これヤベーわ……
ありがとう、ヤマト君……今日一日頑張れそう……」
ロタが赤い顔を隠す様に、片手で自身の口と頬を覆い、少し涙目になって俺を見た。
(頬にキスしただけなのに、そんなに嬉しかったのか?
前に馬車でそれ以上の事を俺にしたってのに……
本当にロタの奴どうしたんだろう)
様子がおかしいロタが馬車に乗って行くのを見送った後、俺は本屋に戻った。
* * * * *
それから一週間が経ったある日の午後、レジカウンター後ろにある奥の部屋で、少し遅い昼食をとった後、本を読んで休憩していた。
(やっとこの本も読み終わった……まさか主人公と魔王が恋に落ちるとは)
予想外の結末で結構面白かった。
異世界のBL小説本も普通に面白いのが沢山あり、仕事中や休みの日に面白そうな本を見つけては買っている為、部屋には積み本が増えてきた。
休憩時間や寝る前、休みの日になるべく読んでいかないとな。
本をテーブルの上に置き、コップを洗っているとキールが「ヤマト、お客さん」とドア越しに声を掛けてきた。
手を拭いてフロアの方に向かうと、ディルトさんが俺の方を向いて手を振った。
「こんにちは、ヤマト君。休憩中にすまないね」
「いえ、もう昼は食べ終わって本読んでました。
今日は……この前言っていた、王子様用の追加の本ですか?」
ディルトさんは頷き、一緒に恋愛小説本のコーナーへ行った。
そこには白のフード付きのマントを羽織っている先客が一人いた。
しゃがみ込み二冊の本を手に取って悩んでいた。
ディルトさんはそのしゃがみこんでいる人の側へ行き、何やら話している。
あれ、ディルトさんの知り合いだったのか。騎士団の人かな?
俺がボーッと二人を眺めていると、白マントの人が立ち上がってこちらへ振り返った。
薄紫色のサラサラしたショートヘアーに、同じ紫色の瞳の、凄く綺麗な品のある顔立ちをした人だった。
騎士団の人にしては騎士団の制服着てないし、ディルトさんが敬語で何かを話しているので友達ではなさそうだ。本当に誰だ?
すると薄紫色の髪の人はこっちへツカツカ歩いて来て、俺の襟元をグイッと引っ張り、顔をマジマジと見つめられた。顔が超近い!
「……あ、あの……何か……?」
「お前がヤマトか。想像していたより遥かに可愛いじゃないか。
ディルト、本と一緒にヤマトも連れて帰るぞ。
このまま本屋で働かせるのは勿体ない。
俺の傍で、俺の世話をしろ」
「はぁっ!?」
「えっ!?」
俺とディルトさんは同時に声を上げた。何なんだこの人は。
俺が益々混乱していると、ディルトさんが小声で囁いた。
「ヤマト君、このお方はこの国の第一王子、シリウス・ノア・セイルーン様だよ」
王子!? この人がこの国の王子!?
「私が今日本屋に行く事をお話ししたら、殿下がどうしてもヤマト君に会いたいと言われてね……お忍びでついて来られたんだ。
本だけ買われるのかと思ったら、ヤマト君も凄く気に入られた様だけど……」
「は、はぁ……」
王子は俺の襟元からパッと手を離し
「そうだ、ヤマト、さっき面白そうな本を二冊見つけたんだが、どっちがオススメか教えてくれ」
と言い、ニッと微笑みながら手招きした。
(王子って割にはお高くとまってないっていうか……フレンドリーな感じの人だな)
俺は王子の側へ行き、ディルトさんと一緒に時間をかけて、本を選ぶお手伝いをした。
次の日の朝、本屋の開店準備をしながらふと思い返した。
中出しされなかったとは言え、知らない男達に押さえつけられ、無理矢理口でしゃぶらされ、生で挿れられ……
BL漫画やゲームでも、たまに主人公がモブ男達に犯されるシーンがあったので、どういう事をされるのかは分かっていた。
でも現実世界でいざ自分が複数人に襲われる立場になると、上も下も前も後ろも苦しくて痛くて大変で、ただひたすら恐怖だった。
自分の好きな人達とだったら、3Pでも4Pでも気持ち良くて安心して感じる事ができるのかもしれない。
俺は当面の間は勘弁だけどな……
「おはよう、ヤマト」
キールが後ろから抱きついてきた。
「ヤマト……昨日は大丈夫だった? あの後、ディルトさんに襲われなかった?」
そうか、キールはディルトさんと食事に行った時にお店のトイレで……
その後キールとは別れたんだった。
俺があの後ディルトさんに襲われたけど逃げて、逃げたけど騎士団の奴等三人に犯されたとか言ったら……
キールは間違いなくブチ切れるな。
今はまだ黙っておこう……
「ううん、何もされてないよ」
そう返事をするとキールは良かった、と言いながら俺の頭の上で、顔を擦り擦りしていた。
(嘘をついてゴメン、キール)
キールに抱かれながら心の中で謝っていると、開店時間になりお客さんが次々と入ってきた。
俺はキールから離れると、挨拶をしながら掃除道具を片付ける為外に出た。
外の倉庫に雑巾とバケツを収めようとしたら、中身がグチャグチャで入らない……
店主のノインさんとキールは整理整頓が苦手の様で、俺がいつも綺麗に片付けている。
箒やチリトリなどを種類別にまとめながら、せっせと倉庫内を片付けていると、背後から肩をトントンと軽く叩かれた。
「いらっしゃいま……」
「やぁ、ヤマト君、おはよ」
挨拶をしながら振り向くと、白い制服姿のロタが立っていた。
軽く会釈をすると、ロタに突然片手を握られた。
「昨日は眠れた? 俺……心配でさ、見回りついでにここに寄っちゃった」
ロタ、心配して朝からわざわざここに来てくれたんだ。良い奴だな。
「う、うん……俺はもう大丈夫、ちゃんと眠れたし」
昨日は色々ありすぎて疲れ果て、習慣にしていた就寝前の本も読む事もなく、ベッドに倒れる様にして爆睡したのだった。
ロタはホッとした様子で笑った。
「そっか……良かったぁ。
あ、あれからちゃんとヤマト君襲った奴等全員見つけて、きっちり報告したから安心して。厳しい処分下るみたいだし」
俺はホッとしながら頷き
「ありがとう、ロタ」
と、見上げながらお礼を言った。
すると、珍しくロタの顔が真っ赤になった。いつも余裕のある涼しそうな顔をしてるのに。
「あっ、いや、違くて、これは……」
ロタが顔を真っ赤にしてあたふたしている。面白い反応でつい見入ってしまった。
「…………あ、あのさ、俺これから見回りの仕事行くんだけど……い、いってらっしゃいのキス……してくんない?」
「えっ、な、何で俺が……」
ロタ、突然何を言ってるんだ?
変な物でも食べたんだろうか……
「頼むよ、お願い!」
ロタはそう言いながら両手を合わせてお願いのジェスチャーをした後、左頬を差し出してきた。
……面倒だけど昨日助けて貰ったし、頬なら別に良いか、と思い頬に軽くキスをし
「……いってらっしゃい……」
と呟いた。
その途端、今度はロタは耳まで真っ赤に染めて歯がゆそうに笑った。
「……アッ……ハハ……これヤベーわ……
ありがとう、ヤマト君……今日一日頑張れそう……」
ロタが赤い顔を隠す様に、片手で自身の口と頬を覆い、少し涙目になって俺を見た。
(頬にキスしただけなのに、そんなに嬉しかったのか?
前に馬車でそれ以上の事を俺にしたってのに……
本当にロタの奴どうしたんだろう)
様子がおかしいロタが馬車に乗って行くのを見送った後、俺は本屋に戻った。
* * * * *
それから一週間が経ったある日の午後、レジカウンター後ろにある奥の部屋で、少し遅い昼食をとった後、本を読んで休憩していた。
(やっとこの本も読み終わった……まさか主人公と魔王が恋に落ちるとは)
予想外の結末で結構面白かった。
異世界のBL小説本も普通に面白いのが沢山あり、仕事中や休みの日に面白そうな本を見つけては買っている為、部屋には積み本が増えてきた。
休憩時間や寝る前、休みの日になるべく読んでいかないとな。
本をテーブルの上に置き、コップを洗っているとキールが「ヤマト、お客さん」とドア越しに声を掛けてきた。
手を拭いてフロアの方に向かうと、ディルトさんが俺の方を向いて手を振った。
「こんにちは、ヤマト君。休憩中にすまないね」
「いえ、もう昼は食べ終わって本読んでました。
今日は……この前言っていた、王子様用の追加の本ですか?」
ディルトさんは頷き、一緒に恋愛小説本のコーナーへ行った。
そこには白のフード付きのマントを羽織っている先客が一人いた。
しゃがみ込み二冊の本を手に取って悩んでいた。
ディルトさんはそのしゃがみこんでいる人の側へ行き、何やら話している。
あれ、ディルトさんの知り合いだったのか。騎士団の人かな?
俺がボーッと二人を眺めていると、白マントの人が立ち上がってこちらへ振り返った。
薄紫色のサラサラしたショートヘアーに、同じ紫色の瞳の、凄く綺麗な品のある顔立ちをした人だった。
騎士団の人にしては騎士団の制服着てないし、ディルトさんが敬語で何かを話しているので友達ではなさそうだ。本当に誰だ?
すると薄紫色の髪の人はこっちへツカツカ歩いて来て、俺の襟元をグイッと引っ張り、顔をマジマジと見つめられた。顔が超近い!
「……あ、あの……何か……?」
「お前がヤマトか。想像していたより遥かに可愛いじゃないか。
ディルト、本と一緒にヤマトも連れて帰るぞ。
このまま本屋で働かせるのは勿体ない。
俺の傍で、俺の世話をしろ」
「はぁっ!?」
「えっ!?」
俺とディルトさんは同時に声を上げた。何なんだこの人は。
俺が益々混乱していると、ディルトさんが小声で囁いた。
「ヤマト君、このお方はこの国の第一王子、シリウス・ノア・セイルーン様だよ」
王子!? この人がこの国の王子!?
「私が今日本屋に行く事をお話ししたら、殿下がどうしてもヤマト君に会いたいと言われてね……お忍びでついて来られたんだ。
本だけ買われるのかと思ったら、ヤマト君も凄く気に入られた様だけど……」
「は、はぁ……」
王子は俺の襟元からパッと手を離し
「そうだ、ヤマト、さっき面白そうな本を二冊見つけたんだが、どっちがオススメか教えてくれ」
と言い、ニッと微笑みながら手招きした。
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