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第三十六話

腐男子、気に入られる

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 俺は王子が持っていた二冊のうちの片方を選び、更に以前からチェックしていた、王子にオススメの本もいくつかピックアップした。
 学園ファンタジーモノや冒険モノの恋愛小説本を三冊程選び、王子にオススメのポイントなどを丁寧に説明した。
 王子は目をキラキラさせながら何度かうなずき、嬉しそうに本を手に取って眺めていた。

「よし、今日はこれを買って帰ろう。ディルト、いつもの様に頼む」
「かしこまりました」

 ディルトさんは王子から本を受け取ると、レジカウンターの方へ持って行った。
 すると王子が突然俺の手を握り、ディルトさんの後を追ってレジの方へ行き、会計をして領収書を発行しているノインさんに向かって話しだした。

「お前がこの本屋の店主か?」
「ハイ、店主のノインと申します。
 シリウス様、いつもありがとうございます」

 ノインさんは物怖ものおじせず、ニコニコと笑顔で礼をした。
 丁度レジ横に立っていたキールも王子に気付き一礼したが、王子と俺が手を繋いでいるのを見て、目を見開いて固まった。

 王子は俺の手を更に引っ張り、肩を抱き寄せて衝撃的な事を口走った。

「本と一緒に、ヤマトも買い取りたい。いくらだ?」
『え!?』

 俺とキールとディルトさんの三人が同時に驚きの声を発した。

 さっきの「俺の傍で俺の世話をしろ」は本気だったのか!?
 ってか、俺を買い取るとかまるで物扱いだな……

 恐る恐るノインさんの方へ目をやると、腕組みをし、

「……それは、いくらシリウス様の頼みでも難しいですね。
 ここの本屋の従業員は僕を合わせ三人しかいません。
 ヤマト君は本にも詳しくて真面目で、お客様にも人気があり、ヤマト君目当てで来店される方もおられます。
 それに凄く良く働いてくれているので、今ここで抜けられてしまうと非常に困ります」

 と、お断りする様な返事をしてくれた。
 ホッと胸を撫で下ろす。

「そうか……でも俺はどうしてもヤマト、お前が欲しい。
 どうしたらお前を手に入れられるんだ?」

 王子が俺の方を振り返り、聞いてきた。
 そ、そんな事俺に聞かれても困るんですけど……
 返答に困っている俺の顔を、ジーッと上から見つめられた。
 端正たんせいな顔立ちに、ややツリ目気味の澄んだ紫色の瞳に、俺は返事をするのも忘れ思わず見とれていると、ディルトさんが助け舟を出してくれた。

「シリウス様、今日の所は本のみ購入して帰りましょう。
 突然その様な事を申されたので皆様お困りの様子ですし」

 ディルトにうながされ、王子は眉間にシワを寄せ、不満気な表情で俺の手を離した。

「ヤマト、俺はお前を手に入れるまで絶対諦めないからな。
 覚悟しておけよ。また来る」

 王子は俺の顔を撫で、ノインさんから紙袋に入った本を受け取り、ディルトさんと帰って行った。

 呆然と王子達を見送っている俺の肩に、キールは手を乗せてつぶやいた。

「ヤマト……面倒な事になったね……
 シリウス様、ヤマトを王城へ連れて行く気だよ」
「……そうだな……」

 力無くキールに返事をすると、レジカウンターにいるノインさんも頬杖をついて溜息混じりに話しだした。

「困った事になったよね~。
 僕としてはヤマト君を絶対手放したくないけど、シリウス様はこの国の王子だからね……
 あらゆる手を使ってヤマト君をここから連れ出そうとするんじゃないかな。
 それこそ、ヤマト君を誘拐して王城の中に監禁したりとか……ね……」

 ノインさんの話を聞いて、俺もキールもゾッとした。
 王城の中で監禁なんかされたら、誰も助けに来れないし脱出不可能じゃんか。

 何か良い案が無いか考えていると、ノインさんが

「うーん、今日からしばらく、キールはヤマト君と一緒の部屋に寝泊まりしてくれないかな。護衛も兼ねて」

 などと言ってきた。
 いやいや、同じ部屋に寝泊まりとか、絶対俺、毎晩キールにヤラシイ事されるよね!? ってか、抱かれるよね!?
 横にいるキールの顔を見ると頬を赤らめて「任せて下さい」なんて言ってる……
 
 でもまぁ、閉店後、俺とノインさんだけだと何かあった時に体力的に心細いし、キールが同じ部屋にいてくれた方が安心できるかもしれない。
 王城に連れて行かれて監禁されるのと、キールにヤラシイ事されるのだったらまだ後者の方が良い。
 前向きに考えよう、前向きに……

 結局、その日の夜からしばらくの間、俺の部屋でキールも寝る事になった。
 キールのベッドは俺の隣の部屋のノインさんのベッドを運び入れ、ノインさんは一階の見張りも兼ねてレジカウンター奥の部屋で、布団を敷いて寝る事になった。

 閉店作業も無事終わり、風呂と歯磨きを終えてキールと二人で部屋に戻る。

 俺はキールにおやすみと挨拶をした後、さっさと左奥角にある自分のベッドの中に入った。
 キールのベッドは入り口横にしかスペースが無かったので、俺のベッドとは離れた位置で寝てもらう事になった。
 入り口横だと、不審者がもし入ってきてもキールがすぐそばにいるから心強い。

 キールもベッドの中に潜り、入り口側の壁の方を向いて寝だした。
 俺は、読みかけの本を棚から取り出し、仰向けで読むうちに、いつの間にか眠りの世界へと落ちていった。
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