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第一章「呪われた教会」
情報屋
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「――――っは!」
俺は飛び起きた。びっしょりと冷や汗をかいてる。
=なあんだ起きちゃったか=
「!!お前は...!」
俺のすぐ後ろに不気味なものが座り込んでいた。頭部だけ人の顔で、体は蛇、背中のあたりに翼をはやしてる...とにかくおかしなものが飛んでいた。
(このゾッとする感じ、悪魔か...!?)
散々悪魔学を叩き込まれた俺でも流石に本物を見ると一歩引いてしまう。
=俺っち特製の夢、どうだった?=
ケタケタと悪意のこもった笑みを浮かべる。特製の夢か...なるほどな。
「お前、インキュバスか」
=おっよく知ってんじゃん=
悪夢や淫夢を見せてその間に人間の精気を奪う、代表的な悪魔だったか。
「お前こそ俺が牧師だと知って襲ってるのか?」
悪魔にとって教会と牧師は最悪の存在だ。神聖な場所にいれば弱い悪魔は消失してしまう場合もある。
=ああ、知ってるさ=
悪魔はにやっと笑い、舌なめずりをした。その様子に怯える感じはない。どうして。
(見たところ低位っぽいし、それほど知恵が回らないとか・・・?)
俺が怪しむように睨んでいると悪魔は楽しそうに笑い出した。
=くくっ=
悪魔は狂ったように笑って俺の周りを飛び続ける。
「・・・」
目を離すまいと悪魔を睨みつけた。そしてゆっくりと、胸元に入っているポケット聖書に手を伸し唱える準備をする。教会の中ほどではないが、屋上でも少しは効くはず。
=やってみろよ、効かねーから=
「?!?」
俺の意図を読んだ悪魔がにやりと笑う。俺は動揺を隠せず、ジリジリと距離を縮めながら尋ねた。
「どういうことだ?!」
=ここの教会は守られてねーもん=
・・・は?
=ガーゴイルの像、ねえだろ?=
「像?なんのことだ?」
=くく!そんなことも知らないんだ?今回の牧師は面白いな~人魚ってのも噂通りだしボスに教えてあげよっと、ククク!=
「あっおい!どこ行く!」
インキュバスは笑いながら空へと飛んでいった。奴の姿が見えなくなり俺は緊張の糸が切れ、膝から崩れ落ちてしまう。どうゆうことだ...ガーゴイルの像?人魚?噂通り?
「って!あ!リリ!リリはどこだ??リリーーーーっ!」
=・・・ここ、ここだよお~=
遠くの方から声が聞こえてくる。だが、どこからはわからない。どこだ??どこにいるんだ??
にゃあん
ビクッと体が反応する。声のした方を見ると真っ赤な猫がいた。左目に眼帯をつけている不思議な猫だった。・・・変わった首輪(眼帯付きとは)だな。その猫がおもむろに上を見る。俺もつられて上を見たら、教会の鐘にリリが縛り付けられてるのが目に入る。
「リリ!!!」
きっとあの悪魔の仕業だ。俺は急いでリリを助けに行った。
ゴーン...ゴーン...
12時を知らせる鐘が鳴る。
「はあっ、はあっ・・・危なかった・・・」
もしもあと少し気づくのが遅くなっていたらリリは鐘に挟まれて大変なことになってたかもしれない...そんな想像をしたら寒気がした。
「はあ、はあ・・・猫、お前のおかげで助かったよ...って、あれ?」
さっきまで足元にいたはずの猫が消えていた。
「・・・なんだ魚でもおごってやろうかと思ったのに」
=だいじょうぶ?ルトにい=
「あ、ああ。でもやっぱ屋根の上で寝るのは無防備みたいだ、とりあえず中に入ろう」
=んー=
まだ震えの残る腕でリリを抱え地上へと下りる。悪魔の言うことを信じるわけではないが、ここは教会とは名ばかりの危ない場所のようだ。だとしたら夜にここで寝るのはよくない。
“ここの協会は守られてねーもん”
“ガーゴイルの像、ねえだろ?”
さっきの悪魔の言葉を思い出す。
(もしも悪魔に襲われたことや、教会のこの廃れ具合が像に関係してるとしたら...)
「しかも、悪魔は俺のことを“今回の牧師”って言ってたよな」
ただの悪魔の戯言にしては意味深な言葉が多すぎる。ぐるぐるとさっきの会話が頭を巡る。ダメだ寝れそうにない。このままここにいても寝付けないだろう。仕方ない、街に出て情報収集をしよう。
=?どこいくの~?=
「少し街に。ここで待ってるか?」
=やだっいっしょにいく!=
「だよな」
こんなことがあった教会に一人置いてくのは俺としても落ち着かない。まあ俺といたから巻き込まれたってこともあるかもしれないが...それはどうしようもない。俺は財布と念のため聖書を持って街に出た。
***
ここの教会の唯一の得点が、街の中にあるということだ。街外れの廃れた公園の奥に位置しているが、噴水公園からは30分ほどしか離れてないし昼になれば人通りもそれなりに多くなる。おかげで俺はすぐに街中心部に来れたのだった。
「ふーん、夜は暗いものだと思ってたけど...」
目の前には、人口の太陽が何個もあるのかと思うぐらい明るい世界が広がってた。昼間より明るいぐらい。優しい色ではなく結構どぎつい光色なので目がチカチカする。心なしかすれ違う人たちの種類も違うような...
(露出度の高い服を着てる者が多かったり、ボロい服を着ている子供がゴロゴロ路地に寝てたり)
しかも少し霧が出ていて、街の雰囲気が違ったように見えた。
「おい、ねーちゃん!おれとこれからどーよお?」
街の様子に呆気にとられてると、突如、肩を後方に引っ張られた。
「なあ、なあ~」
40過ぎぐらいの冴えない男だった。吐く息がものすごく酒臭い。
「っ・・・」
これだから酔っ払いは嫌いだ。まあ、酔っ払ってなくても男は嫌いだけど。
「おーいきいてんのか~?」
「離せ」
俺は嫌悪感を顕にした顔で、ベトベト触ってくる男の手を叩き落とした。
「あれ、あんた男だったのか」
声でやっと気づいたらしい。
「・・・」
「ハハ!俺は男でも別にいいぜ、口でしてもらえりゃいいからな~」
「っ!」
そのセリフに寒気がする。
(誰がお前とするものかっ!)
無視して去ろうとするのを奴はしつこく絡んで止めようとする。すれ違う人は見て見ぬふり、というか慣れっこなだけなのかもしれない。
(なんかこんな風景前も見たな)
どこへ行ってもこうなるのか、俺は。げんなりしつつ俺は、先ほどの夢の事もあり苛立っており・・・おもむろに胸元に手を伸ばした。その時だった。
「あ、ルトー!どこにいたんだよ~さがしたんだぜ?」
「「!!?」」
この場に似合わない、楽しそうな声が俺たちを包む。遠目から俺たちを見てた通行人もそっちを見た。
「っよ!」
そこには見たことのある背の高い好青年が立っていた。
「...っバン!?」
「ルトってばまた迷子になってたのかー?ほんとドジっ子だなあ」
「ちっ、っちが!!」
俺たちの間に入ってきたバンは、親しげに肩に腕を回してくる。それから顔だけ酔っ払いの方に向けた。
「おっさん、こいつが迷子だったの助けてくれてたんだよな?ありがとなー、こっからは俺が面倒見るからさ」
「はあ~?あんちゃん何言ってんだあ。先客は俺だろおーが、邪魔者は消えろよ!」
酔っぱらいは苛々とバンを睨みつけた。自分より見てくれのいい男が現れて焦ってるようだ。バンはきょとんと驚いたような顔をした後、困ったなあと頭をかく。
「ふう・・・仕方ないな」
一向に引き下がる様子のない酔っ払いを見て呆れたようにため息をつくバン。それからゆっくりと酔っぱらいに近づき...何かを耳打ちした。
「~~~~!!!????」
すると、真っ赤だったはずの酔っぱらいの顔が一気に青くなり
「そ、そそそ、そのことをどこでっっ」
「まだ俺たちに何か文句あるか?おっちゃん」
短めの黒い髪をかきあげ、バンは余裕の笑顔で男を見下ろす。
「ないでっす!!すいません!!!!」
それを見た男は脱兎のごとく走り去っていった。
(な、何だ、今の変わりようは)
ま、まあともあれ...助かったみたいだな。ほっと胸をなでおろす。
「あ、ありがと、バン。助かった。」
「ルト、ハラハラしたぞ...銃でも突きつけそうな形相だったもんだから、つい手を出しちまった。」
「い、いや、それは...」
なんだ、見られてたのか。それなら最初に助けろよと思ったが、俺を信じて放っておくつもりだったのかもしれない。
「こんな街中でドンぱちは流石にやばいからな?ルト」
「いや、でも、俺だって流石に銃を出すつもりはなかった、ぞ」
「じゃあ、何を出すつもりだったんだ」
「...」
「俺が間に入る前に、ルト・・・お前、胸ポケットに手を伸ばしてただろ?」
よく見てるな...。苛立った俺が酔っ払いにあれを突き出そうとしたことをバンは目聡くも気付いていたらしい。
「えっと、それは・・・その」
「なんだよ、焦らすなって、余計気になるじゃん」
だって、なんか・・・落ち着いて考えると恥ずかしいし、なるべくなら言いたくない。けれど。この知りたそうな顔を前にして秘密にするのは無理そうだ...誤魔化せそうにないし。仕方ない、正直に話すか。
「...せ、聖書だよ。」
「聖書?!」
ポケット聖書だけどな。
「そ、それでどうするつもりだったわけ??」
「...叩く」
その時は必死だったからなんとも思わなかったけど、何やってんだろう俺・・・いや、何がしたかったんだ俺。
「・・・」
バンの白けた顔を見ながらひどい羞恥心に襲われる。やばい、恥ずかしい、顔から火が出そう。穴があったら爆弾と一緒に埋まって誰にも迷惑をかけず死にたい。俺が赤面したまま蹲ると、頭上から楽しそうな笑い声が降ってきた。
「...ぷっふ!アハハハハ!傑作!牧師が聖書で人!を!!あっはっはははは!」
笑い転げるように笑うバン。
「そんっなに!笑うな!ばか!!」
今の俺の顔は真っ赤に違いない。居た堪れなくなってここから消えたくなった。でも、心の底から笑うやつの笑い声には、少しの嫌味も馬鹿にしたような風も感じられなかった。そのせいか、段々と俺にも笑いがうつってくる。
「はは」
「...っ??い、いまルト笑った?!」
「え・・・そりゃ、俺だって笑うけど・・・」
むっとしながら答える。まあ男相手じゃ、滅多に笑わないけども。
「なんだなんだ、笑うと可愛い顔するんだなー」
「っ!!」
(~~~気にしてることをっ、悪びれもなく言い放ちやがって!)
頬を膨らましてバンからぷいっと顔をそらす。そこでやっと俺の周りに集まってた人だかりが減っている事に気付いた。
「で?ルト、牧師がこんな夜中に何するつもりだったんだ?夜遊びか?イケナイ遊びでもする気だったのかな?」
「・・・俺が夜中に出歩いてちゃ、悪いかよ」
「いや別に。不摂生だなと思うぐらい?」
「てか、俺、自分が牧師だなんて言ったはずないのになんで知ってんだよ」
「ハハ、そりゃ俺、情報屋だからな」
(???)
昼間は確か案内人って言ってたような?俺の表情から心を読んだのかバンがにこにこと説明しだした。
「案内人は昼間のお仕事さ。それだけじゃ食ってけないから情報屋もやってる」
「・・・二足のわらじってことか。見た目によらず苦労してるんだな」
「少年牧師に心配されるほど苦労はしてないさ」
「俺は18だぞ、子供扱いするな」
「今までの土地ではどうだったか知らんが、この街じゃ20はまだ守られるべき子供だ」
「えっそうなのか?」
「まあな」
不思議な感覚だ。今まで俺は早く一人前になりたいと背伸びして生きてきて、やっと歳がその気持ちに追いつけたと思ったのに。18で牧師となり大人としてようやく認められ、見つけた仕事先に行ったら俺はまだ子供だなんて言われるなんて。
「この街のお前と同年代のやつは恋に勉学に遊びに勤しんでるぞー?」
「...平和なとこなんだな」
そうとしか、答えられなかった。憧れてるわけじゃない。俺は今の仕事に環境に満足してる...と思う。ふと悪魔のことがよぎって少し唸る。
「って!ああ!そうだった!悪魔!」
「な、なんだ急に?!」
襲いかかる勢いで俺が振り向いたのでかなり驚いているようだ。
「実は、ある情報を探してるんだ。」
「ほう・・・仕事話ってわけか。じゃあまず場所を変えよう。ここじゃ聞かれたくないだろ?」
「そ、そうだな...店の指定は俺がしていいか?」
「いいけど、街に来たの今日だろ?店なんて知ってるのか?」
昼間いったテラス席を思い描く。
「気に行った店があるんだ」
あそこなら静かに話ができるだろう。それにリリも連れて行けるしと思った矢先・・・
「...」
「...っく、くくく」
後ろでバンが笑いをこらえて腹を押さえている。
「・・・」
俺は道に迷ったわけでも、財布を落としたわけでもない。
―CLOSE―
「...」
「よ、夜中だからな...くくく!」
俺の肩をドンマイと叩くバン。なんかもう、いろいろ嫌になってきた。もう帰りたい。帰れないけど。
「はあ・・・」
がっくりと肩を落とすと、ぽんぽんと励ますように背中を叩かれた。
「ルトはよくやったよ、こっからはまあ俺に任せな」
「...?」
固く閉められた扉を見て、無理やり開けるのは無理そうだなという考えがよぎった。するとバンは看板を踏み台にして二階の窓に手を伸ばし、どこから出したのかわからないコインで窓を軽く引っ掻いた。それを二回ほど繰り返して看板から降りてくる。
「何やってんだ?猫の真似?」
「まあ、そんなとこだ」
俺たちは猫じゃないぞと言おうとしたらCLOSEと書かれた扉がガチャりと言って開いた。中から若めの男が出てくる。
(歳はバンと同じぐらいか?)
扉を開けながら眠そうにしていたその青年は、俺とバンを見た瞬間、目をカッと見開いた。
「そそその子は!!」
俺はびっくりしてバンの影に隠れそうになる。その様子を笑って見てるバン。
「あ、ああああああバン!!そっそそそそその子はかの、かのじ」
「夜中に悪いんだが、ちょっと二階を開けてくれないか?彼がここを所望してるんだ」
「それはいいけど...連れ込みは店が違うだろ???」
連れ込みだと?!
「ひいい!」
俺がギロリと睨めば男は怯むように一歩下がった。
「どうどう」
ぽん、と頭にバンの手が置かれる。
「安心しろ、仕事話だよ」
「ならいいけど...」
俺をチラチラと見ながらバンと話してる男。その姿を見て俺は思い出した。
(この顔どこかで見たと思ったら、昼間俺が注文を頼んだときすっげー顔真っ赤にして逃げた店員じゃんか)
今の今まで忘れてたけどな。
「さ、行くか、ルト」
そんな考え事をしてる間に二人は話が済んだようでバンがこっちを見ていた。堂々としたその姿はさすがの貫禄があった。
俺は飛び起きた。びっしょりと冷や汗をかいてる。
=なあんだ起きちゃったか=
「!!お前は...!」
俺のすぐ後ろに不気味なものが座り込んでいた。頭部だけ人の顔で、体は蛇、背中のあたりに翼をはやしてる...とにかくおかしなものが飛んでいた。
(このゾッとする感じ、悪魔か...!?)
散々悪魔学を叩き込まれた俺でも流石に本物を見ると一歩引いてしまう。
=俺っち特製の夢、どうだった?=
ケタケタと悪意のこもった笑みを浮かべる。特製の夢か...なるほどな。
「お前、インキュバスか」
=おっよく知ってんじゃん=
悪夢や淫夢を見せてその間に人間の精気を奪う、代表的な悪魔だったか。
「お前こそ俺が牧師だと知って襲ってるのか?」
悪魔にとって教会と牧師は最悪の存在だ。神聖な場所にいれば弱い悪魔は消失してしまう場合もある。
=ああ、知ってるさ=
悪魔はにやっと笑い、舌なめずりをした。その様子に怯える感じはない。どうして。
(見たところ低位っぽいし、それほど知恵が回らないとか・・・?)
俺が怪しむように睨んでいると悪魔は楽しそうに笑い出した。
=くくっ=
悪魔は狂ったように笑って俺の周りを飛び続ける。
「・・・」
目を離すまいと悪魔を睨みつけた。そしてゆっくりと、胸元に入っているポケット聖書に手を伸し唱える準備をする。教会の中ほどではないが、屋上でも少しは効くはず。
=やってみろよ、効かねーから=
「?!?」
俺の意図を読んだ悪魔がにやりと笑う。俺は動揺を隠せず、ジリジリと距離を縮めながら尋ねた。
「どういうことだ?!」
=ここの教会は守られてねーもん=
・・・は?
=ガーゴイルの像、ねえだろ?=
「像?なんのことだ?」
=くく!そんなことも知らないんだ?今回の牧師は面白いな~人魚ってのも噂通りだしボスに教えてあげよっと、ククク!=
「あっおい!どこ行く!」
インキュバスは笑いながら空へと飛んでいった。奴の姿が見えなくなり俺は緊張の糸が切れ、膝から崩れ落ちてしまう。どうゆうことだ...ガーゴイルの像?人魚?噂通り?
「って!あ!リリ!リリはどこだ??リリーーーーっ!」
=・・・ここ、ここだよお~=
遠くの方から声が聞こえてくる。だが、どこからはわからない。どこだ??どこにいるんだ??
にゃあん
ビクッと体が反応する。声のした方を見ると真っ赤な猫がいた。左目に眼帯をつけている不思議な猫だった。・・・変わった首輪(眼帯付きとは)だな。その猫がおもむろに上を見る。俺もつられて上を見たら、教会の鐘にリリが縛り付けられてるのが目に入る。
「リリ!!!」
きっとあの悪魔の仕業だ。俺は急いでリリを助けに行った。
ゴーン...ゴーン...
12時を知らせる鐘が鳴る。
「はあっ、はあっ・・・危なかった・・・」
もしもあと少し気づくのが遅くなっていたらリリは鐘に挟まれて大変なことになってたかもしれない...そんな想像をしたら寒気がした。
「はあ、はあ・・・猫、お前のおかげで助かったよ...って、あれ?」
さっきまで足元にいたはずの猫が消えていた。
「・・・なんだ魚でもおごってやろうかと思ったのに」
=だいじょうぶ?ルトにい=
「あ、ああ。でもやっぱ屋根の上で寝るのは無防備みたいだ、とりあえず中に入ろう」
=んー=
まだ震えの残る腕でリリを抱え地上へと下りる。悪魔の言うことを信じるわけではないが、ここは教会とは名ばかりの危ない場所のようだ。だとしたら夜にここで寝るのはよくない。
“ここの協会は守られてねーもん”
“ガーゴイルの像、ねえだろ?”
さっきの悪魔の言葉を思い出す。
(もしも悪魔に襲われたことや、教会のこの廃れ具合が像に関係してるとしたら...)
「しかも、悪魔は俺のことを“今回の牧師”って言ってたよな」
ただの悪魔の戯言にしては意味深な言葉が多すぎる。ぐるぐるとさっきの会話が頭を巡る。ダメだ寝れそうにない。このままここにいても寝付けないだろう。仕方ない、街に出て情報収集をしよう。
=?どこいくの~?=
「少し街に。ここで待ってるか?」
=やだっいっしょにいく!=
「だよな」
こんなことがあった教会に一人置いてくのは俺としても落ち着かない。まあ俺といたから巻き込まれたってこともあるかもしれないが...それはどうしようもない。俺は財布と念のため聖書を持って街に出た。
***
ここの教会の唯一の得点が、街の中にあるということだ。街外れの廃れた公園の奥に位置しているが、噴水公園からは30分ほどしか離れてないし昼になれば人通りもそれなりに多くなる。おかげで俺はすぐに街中心部に来れたのだった。
「ふーん、夜は暗いものだと思ってたけど...」
目の前には、人口の太陽が何個もあるのかと思うぐらい明るい世界が広がってた。昼間より明るいぐらい。優しい色ではなく結構どぎつい光色なので目がチカチカする。心なしかすれ違う人たちの種類も違うような...
(露出度の高い服を着てる者が多かったり、ボロい服を着ている子供がゴロゴロ路地に寝てたり)
しかも少し霧が出ていて、街の雰囲気が違ったように見えた。
「おい、ねーちゃん!おれとこれからどーよお?」
街の様子に呆気にとられてると、突如、肩を後方に引っ張られた。
「なあ、なあ~」
40過ぎぐらいの冴えない男だった。吐く息がものすごく酒臭い。
「っ・・・」
これだから酔っ払いは嫌いだ。まあ、酔っ払ってなくても男は嫌いだけど。
「おーいきいてんのか~?」
「離せ」
俺は嫌悪感を顕にした顔で、ベトベト触ってくる男の手を叩き落とした。
「あれ、あんた男だったのか」
声でやっと気づいたらしい。
「・・・」
「ハハ!俺は男でも別にいいぜ、口でしてもらえりゃいいからな~」
「っ!」
そのセリフに寒気がする。
(誰がお前とするものかっ!)
無視して去ろうとするのを奴はしつこく絡んで止めようとする。すれ違う人は見て見ぬふり、というか慣れっこなだけなのかもしれない。
(なんかこんな風景前も見たな)
どこへ行ってもこうなるのか、俺は。げんなりしつつ俺は、先ほどの夢の事もあり苛立っており・・・おもむろに胸元に手を伸ばした。その時だった。
「あ、ルトー!どこにいたんだよ~さがしたんだぜ?」
「「!!?」」
この場に似合わない、楽しそうな声が俺たちを包む。遠目から俺たちを見てた通行人もそっちを見た。
「っよ!」
そこには見たことのある背の高い好青年が立っていた。
「...っバン!?」
「ルトってばまた迷子になってたのかー?ほんとドジっ子だなあ」
「ちっ、っちが!!」
俺たちの間に入ってきたバンは、親しげに肩に腕を回してくる。それから顔だけ酔っ払いの方に向けた。
「おっさん、こいつが迷子だったの助けてくれてたんだよな?ありがとなー、こっからは俺が面倒見るからさ」
「はあ~?あんちゃん何言ってんだあ。先客は俺だろおーが、邪魔者は消えろよ!」
酔っぱらいは苛々とバンを睨みつけた。自分より見てくれのいい男が現れて焦ってるようだ。バンはきょとんと驚いたような顔をした後、困ったなあと頭をかく。
「ふう・・・仕方ないな」
一向に引き下がる様子のない酔っ払いを見て呆れたようにため息をつくバン。それからゆっくりと酔っぱらいに近づき...何かを耳打ちした。
「~~~~!!!????」
すると、真っ赤だったはずの酔っぱらいの顔が一気に青くなり
「そ、そそそ、そのことをどこでっっ」
「まだ俺たちに何か文句あるか?おっちゃん」
短めの黒い髪をかきあげ、バンは余裕の笑顔で男を見下ろす。
「ないでっす!!すいません!!!!」
それを見た男は脱兎のごとく走り去っていった。
(な、何だ、今の変わりようは)
ま、まあともあれ...助かったみたいだな。ほっと胸をなでおろす。
「あ、ありがと、バン。助かった。」
「ルト、ハラハラしたぞ...銃でも突きつけそうな形相だったもんだから、つい手を出しちまった。」
「い、いや、それは...」
なんだ、見られてたのか。それなら最初に助けろよと思ったが、俺を信じて放っておくつもりだったのかもしれない。
「こんな街中でドンぱちは流石にやばいからな?ルト」
「いや、でも、俺だって流石に銃を出すつもりはなかった、ぞ」
「じゃあ、何を出すつもりだったんだ」
「...」
「俺が間に入る前に、ルト・・・お前、胸ポケットに手を伸ばしてただろ?」
よく見てるな...。苛立った俺が酔っ払いにあれを突き出そうとしたことをバンは目聡くも気付いていたらしい。
「えっと、それは・・・その」
「なんだよ、焦らすなって、余計気になるじゃん」
だって、なんか・・・落ち着いて考えると恥ずかしいし、なるべくなら言いたくない。けれど。この知りたそうな顔を前にして秘密にするのは無理そうだ...誤魔化せそうにないし。仕方ない、正直に話すか。
「...せ、聖書だよ。」
「聖書?!」
ポケット聖書だけどな。
「そ、それでどうするつもりだったわけ??」
「...叩く」
その時は必死だったからなんとも思わなかったけど、何やってんだろう俺・・・いや、何がしたかったんだ俺。
「・・・」
バンの白けた顔を見ながらひどい羞恥心に襲われる。やばい、恥ずかしい、顔から火が出そう。穴があったら爆弾と一緒に埋まって誰にも迷惑をかけず死にたい。俺が赤面したまま蹲ると、頭上から楽しそうな笑い声が降ってきた。
「...ぷっふ!アハハハハ!傑作!牧師が聖書で人!を!!あっはっはははは!」
笑い転げるように笑うバン。
「そんっなに!笑うな!ばか!!」
今の俺の顔は真っ赤に違いない。居た堪れなくなってここから消えたくなった。でも、心の底から笑うやつの笑い声には、少しの嫌味も馬鹿にしたような風も感じられなかった。そのせいか、段々と俺にも笑いがうつってくる。
「はは」
「...っ??い、いまルト笑った?!」
「え・・・そりゃ、俺だって笑うけど・・・」
むっとしながら答える。まあ男相手じゃ、滅多に笑わないけども。
「なんだなんだ、笑うと可愛い顔するんだなー」
「っ!!」
(~~~気にしてることをっ、悪びれもなく言い放ちやがって!)
頬を膨らましてバンからぷいっと顔をそらす。そこでやっと俺の周りに集まってた人だかりが減っている事に気付いた。
「で?ルト、牧師がこんな夜中に何するつもりだったんだ?夜遊びか?イケナイ遊びでもする気だったのかな?」
「・・・俺が夜中に出歩いてちゃ、悪いかよ」
「いや別に。不摂生だなと思うぐらい?」
「てか、俺、自分が牧師だなんて言ったはずないのになんで知ってんだよ」
「ハハ、そりゃ俺、情報屋だからな」
(???)
昼間は確か案内人って言ってたような?俺の表情から心を読んだのかバンがにこにこと説明しだした。
「案内人は昼間のお仕事さ。それだけじゃ食ってけないから情報屋もやってる」
「・・・二足のわらじってことか。見た目によらず苦労してるんだな」
「少年牧師に心配されるほど苦労はしてないさ」
「俺は18だぞ、子供扱いするな」
「今までの土地ではどうだったか知らんが、この街じゃ20はまだ守られるべき子供だ」
「えっそうなのか?」
「まあな」
不思議な感覚だ。今まで俺は早く一人前になりたいと背伸びして生きてきて、やっと歳がその気持ちに追いつけたと思ったのに。18で牧師となり大人としてようやく認められ、見つけた仕事先に行ったら俺はまだ子供だなんて言われるなんて。
「この街のお前と同年代のやつは恋に勉学に遊びに勤しんでるぞー?」
「...平和なとこなんだな」
そうとしか、答えられなかった。憧れてるわけじゃない。俺は今の仕事に環境に満足してる...と思う。ふと悪魔のことがよぎって少し唸る。
「って!ああ!そうだった!悪魔!」
「な、なんだ急に?!」
襲いかかる勢いで俺が振り向いたのでかなり驚いているようだ。
「実は、ある情報を探してるんだ。」
「ほう・・・仕事話ってわけか。じゃあまず場所を変えよう。ここじゃ聞かれたくないだろ?」
「そ、そうだな...店の指定は俺がしていいか?」
「いいけど、街に来たの今日だろ?店なんて知ってるのか?」
昼間いったテラス席を思い描く。
「気に行った店があるんだ」
あそこなら静かに話ができるだろう。それにリリも連れて行けるしと思った矢先・・・
「...」
「...っく、くくく」
後ろでバンが笑いをこらえて腹を押さえている。
「・・・」
俺は道に迷ったわけでも、財布を落としたわけでもない。
―CLOSE―
「...」
「よ、夜中だからな...くくく!」
俺の肩をドンマイと叩くバン。なんかもう、いろいろ嫌になってきた。もう帰りたい。帰れないけど。
「はあ・・・」
がっくりと肩を落とすと、ぽんぽんと励ますように背中を叩かれた。
「ルトはよくやったよ、こっからはまあ俺に任せな」
「...?」
固く閉められた扉を見て、無理やり開けるのは無理そうだなという考えがよぎった。するとバンは看板を踏み台にして二階の窓に手を伸ばし、どこから出したのかわからないコインで窓を軽く引っ掻いた。それを二回ほど繰り返して看板から降りてくる。
「何やってんだ?猫の真似?」
「まあ、そんなとこだ」
俺たちは猫じゃないぞと言おうとしたらCLOSEと書かれた扉がガチャりと言って開いた。中から若めの男が出てくる。
(歳はバンと同じぐらいか?)
扉を開けながら眠そうにしていたその青年は、俺とバンを見た瞬間、目をカッと見開いた。
「そそその子は!!」
俺はびっくりしてバンの影に隠れそうになる。その様子を笑って見てるバン。
「あ、ああああああバン!!そっそそそそその子はかの、かのじ」
「夜中に悪いんだが、ちょっと二階を開けてくれないか?彼がここを所望してるんだ」
「それはいいけど...連れ込みは店が違うだろ???」
連れ込みだと?!
「ひいい!」
俺がギロリと睨めば男は怯むように一歩下がった。
「どうどう」
ぽん、と頭にバンの手が置かれる。
「安心しろ、仕事話だよ」
「ならいいけど...」
俺をチラチラと見ながらバンと話してる男。その姿を見て俺は思い出した。
(この顔どこかで見たと思ったら、昼間俺が注文を頼んだときすっげー顔真っ赤にして逃げた店員じゃんか)
今の今まで忘れてたけどな。
「さ、行くか、ルト」
そんな考え事をしてる間に二人は話が済んだようでバンがこっちを見ていた。堂々としたその姿はさすがの貫禄があった。
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居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ばぶばぶ保育園 連載版
雫@不定期更新
BL
性癖全開注意で書いていたばぶばぶ保育園を連載で書くことにしました。内容としては子供から大人までが集まるばぶばぶ保育園。この園ではみんなが赤ちゃんになれる不思議な場所。赤ちゃん時代に戻ろう。
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