9 / 168
第一章「呪われた教会」
旧市街地とスネーカー
しおりを挟む
「これでよし。」
猫の右腕に傷があったので、消毒をして包帯をぐるぐると巻いてやった。お世辞にもうまいとはいえない出来だったが、まあ、ないよりはマシだろう。傷はそんなにひどくないみたいだったから無理やり引っ掻かない限り化膿もしないはず。
「にしても、猫が落ちるなんてことあるのか?」
きっと門から落ちたんだろうが、猫は高いところから落ちても平気だと聞いていたから違和感がある。
じー・・・
そんなことを考えてる間も、猫はじーーっと俺のことを睨んでいた。背中を撫でようとするとフシャー!と威嚇してくる。なんで怒ってるんだ??
「...あ、わかったぞ!」
何か言いたげな目をしてる猫を見て気づいた。ごそごそと鞄をあさる。
(ほんとはリリのためにとっておいた非常食だったんだけど)
後で替えになりそうなのを買ってあげようと心に決め目的の物を取り出した。
「ほら。お腹がすいてたんだろ」
俺は猫の目の前に、水気のない乾いたパンを置いた。
プイ!
顔を背けられてしまった。
「ったく!贅沢なやつだな、言っとくけど今は俺も大した金もってないから期待するだけ無駄だぞ」
俺は言葉のわかるはずもない相手にぶつくさ文句を言った。
じー...
猫と俺がしばしにらみ合う。そのまま一分、二分と過ぎていく。
じー...ちらっ
ふと、猫が視線を外し、怪我のしてない方の手を伸ばした。パンへとゆっくりと近づく。
(よし・・・!)
俺は喜びに耐えるために、にやける口元を咄嗟に隠す。そんな時だった。
=わー!パンだあー!=
猫の手がパンまで届く、数センチのところで...黄色い小鳥がパンを奪っていった。
「!」
「?!」
俺も猫もそんな横槍は予想してなかったため、ポカンと口を開けてただそれを見守るだけしかできなかった。
=ん~おいしい~!=
小鳥は、モノの数秒で自分の体の大きさほどのパンをたいらげてしまう。
じー...
猫が俺を睨む。育て親としての教育を問われた、ような気がした。
「おーい、ルト、遅くなった!って、おお?なんか増えてないか?」
シータの店で待ってると、大きな声が後ろから聞こえてきた。俺は肩に小鳥をのせたまま、膝に赤い猫をのせているので首だけしか動かせない。足を広げてぐうぐうと寝てる猫はお腹いっぱいで幸せそうだ。
(財布は寒くなったけどな...)
「教会で落ちてたんだ、怪我してるから世話してる。」
「なるほど、ルトは動物にもモテモテですなー」
「うるさい。...で、わかったのか?」
その話題をふると一気にバンの顔が引き締まった。
「ああ。一応結果から言うとだな。五分五分だった。」
「は?」
俺は昨日、悪魔を舌で見分けられることを思い出した。どんなに上手く人間に擬態しても舌先は蛇の舌のように裂けたままらしい。その情報を元に「10年前からこの街に住んでる者の中に舌先の割れてるもの、もしくは舌に怪我をしているもの、舌の手術をしたものが何人いるか調べて欲しい、少なければその者たちの素性も」とバンに依頼したのだ。
(それが、五分五分?どうゆうことだよ??)
悪魔が人間に化けていても隠せない唯一の部分。見分けるには舌を調べるしかない。十年前から教会がおかしくなったとして、そのときから人間に化けて街に住み何か良からぬ事を企んでいるとするなら、この条件で調べられるはずなのに・・・。
「...つまり、該当者の半分がその条件を満たしてるわけだ」
「えっ!」
(う、うそだろ?!)
今まで俺は一度もそんなおかしな舌をした奴と出会ったことがない。
(そんなグレー人間がごろごろといてたまるかよ...!)
俺がイライラと舌打ちすると、膝の上の猫が起きて無言のままおりていった。夕方の残り少ない夕日を避けるように日陰でまた寝始める。
「該当者はあわせて300にのぼる。あと、日陰者で情報としてない奴も含めればもっといるはずだ。これの中に呪いの犯人がいるとしても、一週間で絞り込むのは難しいぞ。」
「...。」
俺は項垂れながら机のひんやりとした冷たさに目を閉じた。
(また振り出しに戻る、か)
期間内に見つけ出せなければこっちが危ない。しかも、300人も一気に見張るなんて一人では不可能だ。俺の様子を何とも言えぬ顔で見ていたバンが口を開いた。
「ここの街にも、俗に言う、ゴロツキってのがいるんだけどよ。そのゴロツキ集団に“スネーカー”って呼ばれてる集団があるんだ。」
「スネーカー、蛇?」
「ああ。そいつらは他の集団と違ってタトゥーはいれないんだ。舌を...こうやって割くんだとさ」
バンが実際に口を開けて2本の指で舌の先を挟むように動かした。
「まさか、それ...」
「おう。その集団に憧れてたり所属してたやつは全員舌が割れてる...つまりルトの条件に該当する人間たちってわけだ」
そうか。どうしてこんなに数が多いのかと思ったらそういう風習があったのか。
(悪魔でもないのにややこしいことしやがって...はあ)
「でもゴロツキ集団なら、教会の大部隊が相手でも土地の利で勝てるかもしれない。悪魔がいれば隠蔽もやりようによっては可能だし...スネーカー・・・当たりっぽいな」
俺は立ち上がってレストランから出ようとした。すぐに肩を掴まれ引き戻される。
「っ、何するんだよ、バン」
「お前、どうするつもりだ?まさかとは思うがスネーカーに」
「...まずは話を聞く」
「は???」
「話を聞いて相談、できたらしたい。できなきゃスネーカーの中から悪魔を見つけて倒す。」
「なっ・・・」
バンは信じられないというような顔で見下ろしてくる。俺は体を捩って肩から手を外そうとするが頑として動かなかった。ほんっと馬鹿力...!
「お、落ち着けよルト。十年間、殺しを続けてる集団に一人で乗り込むって・・・無事に帰れるわけないだろう?それにスネーカーの居場所は?人数は?わかってるのか」
「...。」
バンの言うとおりだが、やっと手に入った情報を試さずにはいられない。この街は呪いの教会以外、設備も雰囲気も素晴らしいし早くも気に入り始めてる。
(バンもシータも、いる・・・お気に入りの店もできた)
だからこそ俺はこの街で暮らしていきたい。
「何を言われても俺は行くよ、バン」
「~~っ、気持ちはわかるが、もう1日待ってくれ!素っ裸で戦地に行かせるようなもんだ...俺がもう少しマシな情報を持ってくる、だから、な?」
「...。」
懇願するようにバンが止めてくる。その必死さにさすがの俺も折れた。
「...はあ、わかったよ。明日の夜までは待つ」
「!!おう!...よし!偉いぞ、ルト!そうと決まれば酒でも飲もう!」
「俺は未成年じゃなかったのか?」
「ハハハ!お前は十分大人だろう?何だ、もしかして飲めないのか」
「馬鹿にするな、飲めるし好きな方だ」
「ほっほー!じゃあ勝負だ!」
バンはさっきの会話を早く打ち消したいのか、珍しくも嘘の笑顔で取り繕って俺をもてなした。しかしそれには気づかないふりをしておく。呪われた教会をなんとかする手がかりが掴めたのだ。少しだけ気分がいい。
「さあ、のめのめ、ルト!」
「飲んでるようるさいな」
「ハハハ!」
こうして俺たちは、頭の上の小鳥が船をこぐまで飲み明かしたのだった。
***
ぐうぐう。
隣でバンが気持ちよさそうに寝てる。
(おい、よだれでこっちの枕まで汚れるだろ、離れろよ...)
とバンの体を押そうとして、俺はやっと気づいた。
「・・・うわああああああああああ!!!」
バンのむき出しの腹筋を蹴る。
「...ぅっわああ?!」
バンをベッドから蹴り落とそうとしたはいいが、その反動で落ちたのは俺の方だった。
ドタ――――ンっ!!
腰をしたたかに打ち、痛い。
「いったあ・・・」
「ん・・・な、に・・・」
寝ぼけた顔で上半身を起こすバン。その体は裸で、むかつくほど見事な腹筋に目がいってしまう。
「ルト?何寝ぼけて落ちてんだ」
ほら、と手を伸ばされた。それをパシッと弾いて壁に逃げこむ。
「おおおお、お前!バン!なんで俺のべべべベッドに一緒になって寝てるんだよ!」
「いや、これシータのだからな」
そう言いつつ我が物顔でベッドを使うバン。俺は警戒を解かずにじりじりとベッドから離れていく。
「ルト?おいおい。男同士なのにそんな警戒するなよ。取って食ったりしないぞ...俺は」
「俺はってなんだ、俺はって!!もういい、教会に戻る!!!」
「おっそうか...じゃ、くれぐれも気をつけてくれよ。夜にな」
いつもより長い沈黙のあと渋々「うん」と答えた。ひどく酔っ払っていたとはいえ、俺も気を緩ませすぎだ。街に来たばかりの俺の固い決意はどこに行った!
(信じない信じない信じちゃダメだ!)
言い聞かせるように心で繰り返し、自らの両頬をぱしんっと叩く。
(とにかく!忘れよう)
少しずつ冴えてきた頭で、必死にさっきの状況を忘れようと頭を働かせた。廊下に出てもう一度顔を引き締める。
=にい!おはよう~=
「リリ!どこにいたんだ」
「僕が預かってたんだよー」
「!」
突き当たりから意味ありげな顔でシータがこっちを見てくる。エプロン姿なのでそろそろ開店する時間なのだとわかった。
「あ・・・そうだったのか、リリをありがとう」
「いいよいいよ。二人の愛の邪魔をさせるわけにはいかないし」
「二人って、バンと俺のことか?」
「うん、今日は一緒に寝たんでしょ?」
「っば!馬鹿にする、...」
ハッとそこで俺は気づいた。ここでむやみに否定しては逆に怪しいのでは?
(・・・うん)
いっそここは、なんでもない顔で流してしまおう。
「ま、まあな」
実際、寝てたしな。普通に寝てただけだけど。さっき落ちた時にうった腰を摩りながら頷いた。
「・・・」
「?どうした、シータ?」
シータは黙ったまま暗い顔で俺を見つめてくる。
「シータ?」
もう一度シータの名前を呼んだ。するとシータはパッと顔をあげて笑う。
「ははは、なんでもないよ!腰が痛くなるまでイチャイチャするなんて焼けるなあ~~それでバンは?」
「まだ寝てる。疲れてると思うから起こさないでやってくれ。俺は教会に戻るから」
「わかった。じゃあまた」
シータとわかれて、裏口から外に出た。
ヒュウッ・・・
気持ちのいい風が吹く。明け方の空気は一番好きだ。少し湿っていて、静かで、和やかで、浄化された空気・・・だと俺は思う。
「ん~~」
大きく伸びをしてから教会のある公園に向けて歩き出す。すると足の間をするっと何かが通り抜けた。
「?」
赤いものがちらついたと思ったら後ろの狭い路地の先に、あの赤い猫がいた。
「おい、猫!お前まだ足治ってないのに」
俺は無意識に猫を追いかけていた。猫はすんでのところで俺の手をかわし、どんどん知らない路地の奥へと進んでいく。そういえばバンに、あまりこの辺の路地には近づくなって言われてたか。バンの顔がちらつく。
(バンめ・・・)
朝のことを思い出してムカムカと反抗心が浮かんできた。
「あんな奴の助言なんか知るか」
結局、俺は猫を追いかける足を止めなかった。
***
「随分、奥まで来ちゃったな」
腕に猫を抱えながら呟く。やっと捕まえたと思ったときにはすでに見たことのない場所にまで迷い込んでいた。
「うーん、困ったな」
=リリみてこようか~?=
「ん・・・そうだな、ちょっと上からバン達の店を探してみてくれるか」
=まかせて~=
俺の頭にいた小鳥が狭い路地の壁を越えて消えていった。これで少し待っていれば帰れるだろう。
グルルッ
突然、猫が路地の先を見て唸りだした。どうしたんだ?ネズミがでたとか?猫をぎゅっと抱きかかえ身構える。
「ここにいたのか~探したぜえ?」
すると、路地の前後から柄の悪そうな男たちがぞろぞろと現れた。
「...なんだお前ら」
「噂以上にかわいい顔~」
「青い目で白い髪だし当たりだな」
(???)
「あんたが今回の牧師、だな?」
にやりと男達は俺を見て笑う。その舌先はぱっくりと割れていた。
「おい、どこに連れていく気だ」
「うっせーなーわかんなくてもいいんだよ、んなことはー」
俺は今、後ろ手で縛られた状態で狭い路地を歩かされてる。目の前と後方に二人ずついるので逃げれそうになかった。俺の質問にめんどくさそうに返事をする男は先頭を迷わず進んでいく。
(はあ・・・息が詰まりそうだ)
こんな状況で男に囲まれて...リリがいなかったのがせめてもの救いだろう。
(リリには刺激が強すぎる)
俺が考え込んでると後ろにいた男が背中を押してきた。歩く速度をきもち早くする。
「にしてもあんた、ほんとキレーだなー」
「?」
後ろにいる男、さっき小突いてきた方ではない奴が俺をジロジロ見ながら言ってきた。その目つきは俺の体を上から下に舐めるように流れていく。
(この男、しばいてやろうか。)
自由じゃない両手がひどくもどかしかった。
「牧師ってのはジジイばっかだと思ってたから、こんな連れてくだけの仕事メンドーとか思ってたけど...あんたなら損した気分にはならないな」
「...」
へー、連れてくだけ、ね。てことはこれから連れてかれる先で何かされるわけか?視線を横に移動させ、男たちの様子をよく確認する。皆揃ってグレーの服に身をまとっていて背中には同じマークがあった。この街のシンボルの、白い鳥に巻き付くように蛇が書かれてる。そして、奴らの発した言葉には“今回の牧師”があった。舌先が割れていたのも決定的な証拠だろう。
(なるほど。こいつらがスネーカーか)
ふん、ちょうどいい。わざわざ出向く必要がなくなってラッキーだ。バンにはかなり怒られるだろうがここは大人しく付いていくとしよう。
「まあまあ、そんな難しい顔すんなよ。」
「これが普通の顔だ」
「眉間にシワ寄せてんの疲れね?」
「これが普通の顔だからな」
「ふーん。あんた、名前は?」
「...。」
「...ちぇ~つれねーなー」
物好きの男に絡まれているうちにいつの間にか
「ついたぜ」
呪いの正体である、ゴロツキ集団…スネーカーのアジトに到着した。
「!」
そこは五階建てのボロボロの建物だった。俺が来たばかりの教会といい勝負だ。
(にしても今までの街とは雰囲気がガラッと変わったとこだな...)
俺はキョロキョロと辺りを観察してみた。夜に見かけたボロボロの服を着た子供たちや、露出度の高い服を着た独特の雰囲気を醸し出す男女が当たり前のように歩き回っている。
(まるで別の街にきたみたいだ)
俺が困惑していると、見かねたリーダーっぽいやつが説明してくれた。
「ここは旧市街地ってとこだ。街の中心とは違っていろんな奴が逃げ込んできてる。」
「旧市街・・・」
「ここは、はぐれ者の唯一の居場所だ。だからあんまキョロキョロしてっと変なのに絡まれっぞ。」
「...面白いことを言うんだな」
俺は鼻で笑ってやった。なるべく余裕を持たせた感じで。気分を害したように男が顔をしかめる。
「何がおかしい」
「いや、だってこれから殺されに行く俺に心配って変だろ」
「っはは、まあ確かに・・・だが、殺さるかはお前次第だな」
「?!」
その答えは予想外だった。
「ど、どういう意味だ」
俺は動揺を隠せずにそのまま声に出してしまう。だってそうだろ、前の代の牧師。いや十年前からずっとお前たちは牧師を殺してきたんじゃないのか?なのに、俺次第だって?
ギイッ
詳しく聞こうとした瞬間、建物の扉が開きその中に連れて行かれる。
猫の右腕に傷があったので、消毒をして包帯をぐるぐると巻いてやった。お世辞にもうまいとはいえない出来だったが、まあ、ないよりはマシだろう。傷はそんなにひどくないみたいだったから無理やり引っ掻かない限り化膿もしないはず。
「にしても、猫が落ちるなんてことあるのか?」
きっと門から落ちたんだろうが、猫は高いところから落ちても平気だと聞いていたから違和感がある。
じー・・・
そんなことを考えてる間も、猫はじーーっと俺のことを睨んでいた。背中を撫でようとするとフシャー!と威嚇してくる。なんで怒ってるんだ??
「...あ、わかったぞ!」
何か言いたげな目をしてる猫を見て気づいた。ごそごそと鞄をあさる。
(ほんとはリリのためにとっておいた非常食だったんだけど)
後で替えになりそうなのを買ってあげようと心に決め目的の物を取り出した。
「ほら。お腹がすいてたんだろ」
俺は猫の目の前に、水気のない乾いたパンを置いた。
プイ!
顔を背けられてしまった。
「ったく!贅沢なやつだな、言っとくけど今は俺も大した金もってないから期待するだけ無駄だぞ」
俺は言葉のわかるはずもない相手にぶつくさ文句を言った。
じー...
猫と俺がしばしにらみ合う。そのまま一分、二分と過ぎていく。
じー...ちらっ
ふと、猫が視線を外し、怪我のしてない方の手を伸ばした。パンへとゆっくりと近づく。
(よし・・・!)
俺は喜びに耐えるために、にやける口元を咄嗟に隠す。そんな時だった。
=わー!パンだあー!=
猫の手がパンまで届く、数センチのところで...黄色い小鳥がパンを奪っていった。
「!」
「?!」
俺も猫もそんな横槍は予想してなかったため、ポカンと口を開けてただそれを見守るだけしかできなかった。
=ん~おいしい~!=
小鳥は、モノの数秒で自分の体の大きさほどのパンをたいらげてしまう。
じー...
猫が俺を睨む。育て親としての教育を問われた、ような気がした。
「おーい、ルト、遅くなった!って、おお?なんか増えてないか?」
シータの店で待ってると、大きな声が後ろから聞こえてきた。俺は肩に小鳥をのせたまま、膝に赤い猫をのせているので首だけしか動かせない。足を広げてぐうぐうと寝てる猫はお腹いっぱいで幸せそうだ。
(財布は寒くなったけどな...)
「教会で落ちてたんだ、怪我してるから世話してる。」
「なるほど、ルトは動物にもモテモテですなー」
「うるさい。...で、わかったのか?」
その話題をふると一気にバンの顔が引き締まった。
「ああ。一応結果から言うとだな。五分五分だった。」
「は?」
俺は昨日、悪魔を舌で見分けられることを思い出した。どんなに上手く人間に擬態しても舌先は蛇の舌のように裂けたままらしい。その情報を元に「10年前からこの街に住んでる者の中に舌先の割れてるもの、もしくは舌に怪我をしているもの、舌の手術をしたものが何人いるか調べて欲しい、少なければその者たちの素性も」とバンに依頼したのだ。
(それが、五分五分?どうゆうことだよ??)
悪魔が人間に化けていても隠せない唯一の部分。見分けるには舌を調べるしかない。十年前から教会がおかしくなったとして、そのときから人間に化けて街に住み何か良からぬ事を企んでいるとするなら、この条件で調べられるはずなのに・・・。
「...つまり、該当者の半分がその条件を満たしてるわけだ」
「えっ!」
(う、うそだろ?!)
今まで俺は一度もそんなおかしな舌をした奴と出会ったことがない。
(そんなグレー人間がごろごろといてたまるかよ...!)
俺がイライラと舌打ちすると、膝の上の猫が起きて無言のままおりていった。夕方の残り少ない夕日を避けるように日陰でまた寝始める。
「該当者はあわせて300にのぼる。あと、日陰者で情報としてない奴も含めればもっといるはずだ。これの中に呪いの犯人がいるとしても、一週間で絞り込むのは難しいぞ。」
「...。」
俺は項垂れながら机のひんやりとした冷たさに目を閉じた。
(また振り出しに戻る、か)
期間内に見つけ出せなければこっちが危ない。しかも、300人も一気に見張るなんて一人では不可能だ。俺の様子を何とも言えぬ顔で見ていたバンが口を開いた。
「ここの街にも、俗に言う、ゴロツキってのがいるんだけどよ。そのゴロツキ集団に“スネーカー”って呼ばれてる集団があるんだ。」
「スネーカー、蛇?」
「ああ。そいつらは他の集団と違ってタトゥーはいれないんだ。舌を...こうやって割くんだとさ」
バンが実際に口を開けて2本の指で舌の先を挟むように動かした。
「まさか、それ...」
「おう。その集団に憧れてたり所属してたやつは全員舌が割れてる...つまりルトの条件に該当する人間たちってわけだ」
そうか。どうしてこんなに数が多いのかと思ったらそういう風習があったのか。
(悪魔でもないのにややこしいことしやがって...はあ)
「でもゴロツキ集団なら、教会の大部隊が相手でも土地の利で勝てるかもしれない。悪魔がいれば隠蔽もやりようによっては可能だし...スネーカー・・・当たりっぽいな」
俺は立ち上がってレストランから出ようとした。すぐに肩を掴まれ引き戻される。
「っ、何するんだよ、バン」
「お前、どうするつもりだ?まさかとは思うがスネーカーに」
「...まずは話を聞く」
「は???」
「話を聞いて相談、できたらしたい。できなきゃスネーカーの中から悪魔を見つけて倒す。」
「なっ・・・」
バンは信じられないというような顔で見下ろしてくる。俺は体を捩って肩から手を外そうとするが頑として動かなかった。ほんっと馬鹿力...!
「お、落ち着けよルト。十年間、殺しを続けてる集団に一人で乗り込むって・・・無事に帰れるわけないだろう?それにスネーカーの居場所は?人数は?わかってるのか」
「...。」
バンの言うとおりだが、やっと手に入った情報を試さずにはいられない。この街は呪いの教会以外、設備も雰囲気も素晴らしいし早くも気に入り始めてる。
(バンもシータも、いる・・・お気に入りの店もできた)
だからこそ俺はこの街で暮らしていきたい。
「何を言われても俺は行くよ、バン」
「~~っ、気持ちはわかるが、もう1日待ってくれ!素っ裸で戦地に行かせるようなもんだ...俺がもう少しマシな情報を持ってくる、だから、な?」
「...。」
懇願するようにバンが止めてくる。その必死さにさすがの俺も折れた。
「...はあ、わかったよ。明日の夜までは待つ」
「!!おう!...よし!偉いぞ、ルト!そうと決まれば酒でも飲もう!」
「俺は未成年じゃなかったのか?」
「ハハハ!お前は十分大人だろう?何だ、もしかして飲めないのか」
「馬鹿にするな、飲めるし好きな方だ」
「ほっほー!じゃあ勝負だ!」
バンはさっきの会話を早く打ち消したいのか、珍しくも嘘の笑顔で取り繕って俺をもてなした。しかしそれには気づかないふりをしておく。呪われた教会をなんとかする手がかりが掴めたのだ。少しだけ気分がいい。
「さあ、のめのめ、ルト!」
「飲んでるようるさいな」
「ハハハ!」
こうして俺たちは、頭の上の小鳥が船をこぐまで飲み明かしたのだった。
***
ぐうぐう。
隣でバンが気持ちよさそうに寝てる。
(おい、よだれでこっちの枕まで汚れるだろ、離れろよ...)
とバンの体を押そうとして、俺はやっと気づいた。
「・・・うわああああああああああ!!!」
バンのむき出しの腹筋を蹴る。
「...ぅっわああ?!」
バンをベッドから蹴り落とそうとしたはいいが、その反動で落ちたのは俺の方だった。
ドタ――――ンっ!!
腰をしたたかに打ち、痛い。
「いったあ・・・」
「ん・・・な、に・・・」
寝ぼけた顔で上半身を起こすバン。その体は裸で、むかつくほど見事な腹筋に目がいってしまう。
「ルト?何寝ぼけて落ちてんだ」
ほら、と手を伸ばされた。それをパシッと弾いて壁に逃げこむ。
「おおおお、お前!バン!なんで俺のべべべベッドに一緒になって寝てるんだよ!」
「いや、これシータのだからな」
そう言いつつ我が物顔でベッドを使うバン。俺は警戒を解かずにじりじりとベッドから離れていく。
「ルト?おいおい。男同士なのにそんな警戒するなよ。取って食ったりしないぞ...俺は」
「俺はってなんだ、俺はって!!もういい、教会に戻る!!!」
「おっそうか...じゃ、くれぐれも気をつけてくれよ。夜にな」
いつもより長い沈黙のあと渋々「うん」と答えた。ひどく酔っ払っていたとはいえ、俺も気を緩ませすぎだ。街に来たばかりの俺の固い決意はどこに行った!
(信じない信じない信じちゃダメだ!)
言い聞かせるように心で繰り返し、自らの両頬をぱしんっと叩く。
(とにかく!忘れよう)
少しずつ冴えてきた頭で、必死にさっきの状況を忘れようと頭を働かせた。廊下に出てもう一度顔を引き締める。
=にい!おはよう~=
「リリ!どこにいたんだ」
「僕が預かってたんだよー」
「!」
突き当たりから意味ありげな顔でシータがこっちを見てくる。エプロン姿なのでそろそろ開店する時間なのだとわかった。
「あ・・・そうだったのか、リリをありがとう」
「いいよいいよ。二人の愛の邪魔をさせるわけにはいかないし」
「二人って、バンと俺のことか?」
「うん、今日は一緒に寝たんでしょ?」
「っば!馬鹿にする、...」
ハッとそこで俺は気づいた。ここでむやみに否定しては逆に怪しいのでは?
(・・・うん)
いっそここは、なんでもない顔で流してしまおう。
「ま、まあな」
実際、寝てたしな。普通に寝てただけだけど。さっき落ちた時にうった腰を摩りながら頷いた。
「・・・」
「?どうした、シータ?」
シータは黙ったまま暗い顔で俺を見つめてくる。
「シータ?」
もう一度シータの名前を呼んだ。するとシータはパッと顔をあげて笑う。
「ははは、なんでもないよ!腰が痛くなるまでイチャイチャするなんて焼けるなあ~~それでバンは?」
「まだ寝てる。疲れてると思うから起こさないでやってくれ。俺は教会に戻るから」
「わかった。じゃあまた」
シータとわかれて、裏口から外に出た。
ヒュウッ・・・
気持ちのいい風が吹く。明け方の空気は一番好きだ。少し湿っていて、静かで、和やかで、浄化された空気・・・だと俺は思う。
「ん~~」
大きく伸びをしてから教会のある公園に向けて歩き出す。すると足の間をするっと何かが通り抜けた。
「?」
赤いものがちらついたと思ったら後ろの狭い路地の先に、あの赤い猫がいた。
「おい、猫!お前まだ足治ってないのに」
俺は無意識に猫を追いかけていた。猫はすんでのところで俺の手をかわし、どんどん知らない路地の奥へと進んでいく。そういえばバンに、あまりこの辺の路地には近づくなって言われてたか。バンの顔がちらつく。
(バンめ・・・)
朝のことを思い出してムカムカと反抗心が浮かんできた。
「あんな奴の助言なんか知るか」
結局、俺は猫を追いかける足を止めなかった。
***
「随分、奥まで来ちゃったな」
腕に猫を抱えながら呟く。やっと捕まえたと思ったときにはすでに見たことのない場所にまで迷い込んでいた。
「うーん、困ったな」
=リリみてこようか~?=
「ん・・・そうだな、ちょっと上からバン達の店を探してみてくれるか」
=まかせて~=
俺の頭にいた小鳥が狭い路地の壁を越えて消えていった。これで少し待っていれば帰れるだろう。
グルルッ
突然、猫が路地の先を見て唸りだした。どうしたんだ?ネズミがでたとか?猫をぎゅっと抱きかかえ身構える。
「ここにいたのか~探したぜえ?」
すると、路地の前後から柄の悪そうな男たちがぞろぞろと現れた。
「...なんだお前ら」
「噂以上にかわいい顔~」
「青い目で白い髪だし当たりだな」
(???)
「あんたが今回の牧師、だな?」
にやりと男達は俺を見て笑う。その舌先はぱっくりと割れていた。
「おい、どこに連れていく気だ」
「うっせーなーわかんなくてもいいんだよ、んなことはー」
俺は今、後ろ手で縛られた状態で狭い路地を歩かされてる。目の前と後方に二人ずついるので逃げれそうになかった。俺の質問にめんどくさそうに返事をする男は先頭を迷わず進んでいく。
(はあ・・・息が詰まりそうだ)
こんな状況で男に囲まれて...リリがいなかったのがせめてもの救いだろう。
(リリには刺激が強すぎる)
俺が考え込んでると後ろにいた男が背中を押してきた。歩く速度をきもち早くする。
「にしてもあんた、ほんとキレーだなー」
「?」
後ろにいる男、さっき小突いてきた方ではない奴が俺をジロジロ見ながら言ってきた。その目つきは俺の体を上から下に舐めるように流れていく。
(この男、しばいてやろうか。)
自由じゃない両手がひどくもどかしかった。
「牧師ってのはジジイばっかだと思ってたから、こんな連れてくだけの仕事メンドーとか思ってたけど...あんたなら損した気分にはならないな」
「...」
へー、連れてくだけ、ね。てことはこれから連れてかれる先で何かされるわけか?視線を横に移動させ、男たちの様子をよく確認する。皆揃ってグレーの服に身をまとっていて背中には同じマークがあった。この街のシンボルの、白い鳥に巻き付くように蛇が書かれてる。そして、奴らの発した言葉には“今回の牧師”があった。舌先が割れていたのも決定的な証拠だろう。
(なるほど。こいつらがスネーカーか)
ふん、ちょうどいい。わざわざ出向く必要がなくなってラッキーだ。バンにはかなり怒られるだろうがここは大人しく付いていくとしよう。
「まあまあ、そんな難しい顔すんなよ。」
「これが普通の顔だ」
「眉間にシワ寄せてんの疲れね?」
「これが普通の顔だからな」
「ふーん。あんた、名前は?」
「...。」
「...ちぇ~つれねーなー」
物好きの男に絡まれているうちにいつの間にか
「ついたぜ」
呪いの正体である、ゴロツキ集団…スネーカーのアジトに到着した。
「!」
そこは五階建てのボロボロの建物だった。俺が来たばかりの教会といい勝負だ。
(にしても今までの街とは雰囲気がガラッと変わったとこだな...)
俺はキョロキョロと辺りを観察してみた。夜に見かけたボロボロの服を着た子供たちや、露出度の高い服を着た独特の雰囲気を醸し出す男女が当たり前のように歩き回っている。
(まるで別の街にきたみたいだ)
俺が困惑していると、見かねたリーダーっぽいやつが説明してくれた。
「ここは旧市街地ってとこだ。街の中心とは違っていろんな奴が逃げ込んできてる。」
「旧市街・・・」
「ここは、はぐれ者の唯一の居場所だ。だからあんまキョロキョロしてっと変なのに絡まれっぞ。」
「...面白いことを言うんだな」
俺は鼻で笑ってやった。なるべく余裕を持たせた感じで。気分を害したように男が顔をしかめる。
「何がおかしい」
「いや、だってこれから殺されに行く俺に心配って変だろ」
「っはは、まあ確かに・・・だが、殺さるかはお前次第だな」
「?!」
その答えは予想外だった。
「ど、どういう意味だ」
俺は動揺を隠せずにそのまま声に出してしまう。だってそうだろ、前の代の牧師。いや十年前からずっとお前たちは牧師を殺してきたんじゃないのか?なのに、俺次第だって?
ギイッ
詳しく聞こうとした瞬間、建物の扉が開きその中に連れて行かれる。
10
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる