牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十六章「カラドリオス街長選挙」

謎の顔ぶれ

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 ***


「はあ…肩こった」
「ははっなんでルトがこってるんだよ」

 バンと俺は屋敷のベランダに移動してワインを飲んでいた。

「俺までって、言っとくけどあの場にいる人達皆緊張してたと思うよ?最終的に兄弟喧嘩を見せられたみたいで微笑ましくなったけど、一瞬バチバチしてたし」
「ま、反対勢力ってのはどこにでもいるからなぁ」
「ノリが軽いんだから…」

 反対勢力の乱入やらクライドの脅しやら色々あった演説もなんとか無事に終わり、ララ率いる合唱団が現れた。特別ゲストに会場は一気に賑やかになった。歌の合間に俺はララと軽く挨拶をして、熱を冷ますためにベランダに移動したところで、後ろからバンが声をかけられて…今に至る。

「ふう…」

 合唱団が現れたおかげなのか、ベランダには俺達以外いなかった。皆会場の方に行って歌を聞いているのだろう。伸びをしながら全身の緊張をほぐしていると「そういえば」とバンが呟いた。

「そういえばルト、さっきクライドに言われたんだが、そのブレスレット…ただのブレスレットらしいぞ」
「えっ」
「あげるってさ」
「ええ???」

 勝手に触らないようにとか散々脅しといてただのブレスレットなのか?!

 あっさりとネタバラシされ拍子抜けしてしまう。爆弾とか毒いりとか考えて震えていた俺たちはなんだったんだ。

(でもよくよく考えたらクライドさんってあまり悪い人って感じしなかったもんな…)

 強引なところもあるしべラさんのことになると周りが見えなくなるけど、悪い人ではない…と思う。だから、そんな危ないことするわけなかったんだ。やり方はほんと、強引だったけど…。

「でも…そんな急にあげるって言われても困るな…」
「はは、深く考えなくていいって。巻き込まれた分の慰謝料とでも思ってもらっておけばいい」
「ええ?けどこれ普通に高そうだよ」
「お、お目が高い。ブランドの一点モノらしいぜ。店に並んでるものだと普通の奴だってすぐバレちまうからな」
「一点モノ?!や、やっぱ、返しといてくれ…こんなのもらえない…」
「ふーん?ルトらしいな、わかったよ」

 苦笑して頭を撫でてくる。

「じゃ、とるぞ」
「うん」

 カチッ

 ブレスレットはあっけないぐらいあっさりと外れた。それをバンに渡して、グラス半分程のワインを飲み干す。ぷはっと息を吐いた。

「…」

 チラリと横をみると、バンも外を眺めながらぼんやりと酒を傾けている。その横顔から心情は…読めなかった。

「なあ、バン」
「なんだ」
「いいのか、選挙、辞退しちゃって」
「…ああ」
「そっか」

 短く言って前に視線を戻すとポツリとバンが溢した。

「最後に辞退するのは決めてたんだ。姉さんを差し置いてなれるとは思ってないし、何より街長なんて立場は性に合わない」
「確かに、椅子の上でふんぞり返ってるバンは変な感じする」
「だろ?」

 俺は頬杖をつきながら笑った。バンも笑ってる。

 バンはべラさんの演説のあと立候補の辞退を発表した。ベラさんは呆れてるような寂しそうな複雑な顔をしていたがバンの決定を止めることはしなかった。クライドさんもしかり。皆がそれぞれぶつかり話し合った先の結果であれば俺も文句はない。

(バンがきちんと家と向き合えて、よかった)

 これから親族集まっての食事会もあるらしく、久しぶりの家族団欒…いや、親睦を深めにいくとのこと。バンはその話を少し嫌そうに、でもちょっと照れくさそうに話してくれた。「ルトも来るか?」と誘われたがさすがに断った。家族水入らずを邪魔するわけにはいかない。

「ありがとな、ルト」
「何が」
「いや、なんでもない」
「ふんっ変なバン」
「はは」

 お互い静かに月を眺めていると、ふとどこかから聞いたことのある話し声が聞こえてきた。

「…?」

 顔を上げてそっちの方に近づく。そこには思ったとおりの人間がいた。

(どうしてあの人が…)

 ベランダ席の隅にとある集団が移動してきた。その一人に、教会支部保安官マック・アーサーがいたのだ。マックは真剣な顔で誰かと話している。この場にはたくさんの偉い立場の人間がいる、政治の話…でもしているのだろうか?

(さっきはイーズもいたし、どうして政治に関係のなさそうな人がこんなにもいるんだ…?)

 首を傾げていると

「どうした、ルト」

 バンが後ろから心配そうに声をかけてくる。慌てて振り向き「なんでもない」と手を振った。

「ちょっと知り合いに似てる人がいてさ」
「なんだと、ルトの人脈も侮れないな。挨拶に行くならついていこうか?」
「いやいいよ…勘違いだと思う。それよりバン、そろそろべラさんのところ行ったほうがいいんじゃないか?時間も押してきてるし」
「あ、ああそうだったな。色々挨拶とかあるし…早めに合流しとくかね。はあ、こういう付き合いってのは礼儀やら何やらでめんどいぜ」

 珍しく愚痴をこぼすバン。いつも飄々として自分の事を話さないバンが、ちょっとだけ感情を見せるようになってくれたのは嬉しい。俺が笑ってるとバンが怒ったような顔を向けてくる。…実際は怒ってるのではなく照れ臭いのだろうが。

「ルト、なんだそのニヤケ顔…鼻つまむぞ」

 言うより先に鼻を摘ままれ、やめろ!と訴えた。バンは楽しそうに笑って会場の方に戻っていく。

「じゃ、今夜は誰にも攫われないように気をつけて帰るんだぞー」
「さらった本人が言うな!早く行け!」
「はは」

 手を振ってバンは会場に戻っていった。

 (やれやれ…)

 呆れつつもなんとなく視線をマックのいた方に戻してみると

「…あれ?」

 もうそこには誰もいなかった。

「き、消えた…」
「誰かをお探しですか」
「!!」

 びくりと驚いて振り返る。そこには灰色の髪を後ろで結った細身の男が立っていた。幸の薄そうな顔を歪めるようにして微笑む。貴族風の服に豪華な装飾の施された杖、それらを身に着けた男はどこかこの場と浮いていた。

「またお会いしましたね」
「…えっと…?」

 会った事あるっけ、と必死に記憶を探す。けれどこの人の顔には見覚えがなかった。

(なんとなく…知ってるような、気もするのに…なんだろ、このもやもや)

 スッ

 音も無く猫が俺の前に現れた。威嚇するように低く唸る。猫ザクだった。

「ザク!」
「ほう、まだこの駒を使っているのですね。あんな事があったというのに物好きな…」
「…」

 あんなこと、と意味ありげに低く言う。

(この人…俺たちの何を知っているんだ?)

「物語は動き続けている、あなたは一体どちら側に転がり落ちるのでしょうね」
「ものがたり?」

 (あれ、こんなことを前にも誰かに言われたような?しかもどちら側ってどういう意味…)

「少し興味があるのです。どうしてそこまでレインが肩入れするのか」
「?!」

 レインという言葉を聞き鳥肌が立つ。とっさに後ずさろうとしてベランダの手すりに封じられた。それを見た男は一気に距離をつめてくる。目と鼻の先に男の顔が現れギョッとした。

「ーっ!あ、あんたは…誰なんだ…!」
「さあ」

 顎を、頬を、手袋をしたままの指で撫でられる。ぞぞっと鳥肌が立ち、その手を叩き落そうとするが…手首を掴まれぐいっと捻られた。

「ーっ!イ…っ!な、何するんだ…っ」
「少し見てみたいと思ったのでね」
「は…っ、や、やめろ!」

 男の手が服の中に入ってくる。暴れても後ろ手に拘束されていてうまく動けなかった。じたばたと暴れながら男の手から逃げていると、後ろから低く抑えた声が聞こえてくる。

 =離れろ=

「…!!」

 =それは、俺様のものだ=

 やっと声を聞けたと思ったら第一声がそれか、と突っ込みたくなったが、ザクはゆったりとした動きで猫型から人型になり、俺たちのほうに近づいてきた。目は俺を触れる男の手に突き刺さっている。

「それ以上ルトに触ろうってなら人間相手でも容赦しねえぜ。俺様は今最高に機嫌が悪いからな、覚悟しな」
「ざ、ザク!いくらなんでもっ」

 俺が慌てる横で、男はくすくすと笑った。

「本当に、つくづく面白い関係ですね」

 男は笑って手を離した。そしてザクの方に向き直る。ザクが身構えた所で、掌を向けて「落ち着いて」とジェスチャーしてくる。

「さて、時間ですね、ではこのあたりで」
「なっ…おい!!」

 ザクの横をすり抜けそのままベランダを飛び降りた。

「?!」

 ここ3階とかじゃなかった?!焦ってベランダの下を見る。けれどそこには誰もいなかった。

「…な、なんだったんだ、あの人」
「あいつは吸血鬼事件の首謀者を操っていた奴だ。匂いが同じですぐピンときた」
「吸血鬼事件…あ、エスと出会うことになったあの事件か」

 確か、吸血鬼嫌いの男が街の人をだますため、吸血鬼が殺害したように見せかけた手口で連続殺人を行ったあの一件か。

「って、まさかあの人が首謀者を操っていた悪魔ってこと??」
「さあな。俺様もよくわからねえけど」

 顔をしかめながらベランダの下を睨むザク。

(そっか…あの時の。だからなんとなく知っている気がしたんだ)

 顔が記憶の情報と繋がってスッキリしたが、言われた台詞にはもやもやが残っている。特にレインの名前が出てきたのは予想外だった。俺が考え込んでると、横にいたザクが腕を組んで「うぉい」と声をかけてくる。

「それよりもだ、ルト」
「あ、うん」
「何か俺様に言うこと、あるんじゃねえの?」
「?……あ!」

 バンとのことを思い出す。

(キスとか、ベッドでのこと見られてたんだっけ…)

 友人の域を超えてバンとあれやこれをしてしまったのだ。一応すぐに猫ザクに謝ったけど聞いてもらえてたかはわからない。

「あああ、あれは…その…」

 ザクへの気持ちを裏切ったつもりはない。でも俺がやってしまったことは許される事ではない。それもわかってた。だって逆の立場でザクにそれをやられたら…きっとかなり落ち込む。というかキレそう。

(ざ、ザクのことを忘れたわけじゃない、けど…でも…うわあ、なんて言っても良い訳臭いよな…)

 言葉に迷っていると手首を掴まれ引っ張られた。一気にドアップになるザクの顔にドキリと心臓が跳ねた。

「ーっ、ざ、ザク???」
「…」
「うう、えっと…ごめん、なさい」
「…」
「何度も言ったけど、その、俺が好きなのは…ざ、ザクだから」
「…卑怯だよなー」
「え?」

 ザクがぼりぼりと頭をかく。赤いコートがひらりと揺れた。

 ちゅ

 優しくキスされて、再び心臓が跳ねた。
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