牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十七章「死を告げる者」

酒場のマスター

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 ***


「一ヶ月前からおかしいのよ、この街…」

 酒場で親身に色々尽くしてくれた、何故か女性言葉のマスター(オカマなのか?)がそうぼやいたのは、酒場に入って2時間程経ってからだった。最初は外の人間向きの、雪山での苦労話とかそういう話しかしてくれなかったが、ザクのイケメンパワーにやられたのかやっと口を開いてくれた。

「街の皆はさ、あんまり話題にしないようにしてるけどね…」

 賑やかな酒場の中でヒソヒソと声を潜めて話すマスターは誰かの目を気にしているような感じだった。自ずと俺も視線をさ迷わせるが、特に怪しい人間はいないように思えた。

「あたしは子供とかいないからあんまり怖くないってのが大きいのだけど」
「子供…?」
「ええ、家族がいる人たちは皆、毎晩恐々としてるわよ。なんてったって子供達があんなことになっちゃうんだから」
「あんなことぉ?」

 ずっと黙って飲んでいたザクが眉をひそめる。マスターが少し頬を染めてザクを見たあと、小さくため息をついた。

「狂った感じといえばいいのかしら。とりあえず今までの面影なんて全然なくて、その変わりっぷりにびっくりしちゃうの。詳しくは…あまりあたしの口からは言えないのだけどね…」
「…」
「ねえ、あなたたちも教会からの使者なの?」
「え?」
「あ、違ったらごめんなさいね。先週もシャール地区担当だとかいう牧師がきて、えらそーに根掘り葉掘り聞いてきてさ。協力するのが当たり前?みたいな傲り高ぶった感じ?あたしカチンときちゃって何も知りませんっていってやったの」

 うふふ、と得意気に笑うマスター。

(そうか…一応シャール地区の牧師も調べようとしてたのか…)

 俺が難しい顔をしたのを見てマスターが、サービスよ、と追加でおつまみを出してくれた。

「あ、ありがとうございます!」

 食べようとしたらザクに手をぺしっと叩かれる。

「いったっ」
「俺様が先だ」
「なんだよ…別にいいけどさ…」

 叩かれた部分をさすりながらザクを睨む。

 (なんだよ、食い意地はっちゃって。確かに馬車の中ではひどい扱いしてたけどさ…)

 そこでふと、俺たちの様子を見ていたマスターが目尻を下げて微笑んだ。

「ふふ、でもやっぱりあなた達は違うわね。悪いことなんて考えてなさそうだもの」
「え」
「というか自分達しか見えてない?みたいな、うふふっ。初々しいけど旅行できたのかしら、あ、もしかして新婚旅行だったり?」
「ええ!?」

 俺が驚いて返答に困っていると、ザクが隣で大きく頷く。

「おう、よくわかったな」
「ざ、ざざ、ザクっ?!」
「ふふ、隠さなくてもいいわよ。あなた達本人は気付いてないかもしれないけど、なんていうのかしら…二人を包む雰囲気が柔らかくてただの友人同士には見えないわ」
「そ、そ…柔らか…え…っ?!」

 (俺とザクってそんなに浮いてるのか?!)

 急に恥ずかしくなって俺は酒場をキョロキョロと見回した。気をつけて見てみればそういえばなんか客がちらちらとこっちを見てる…ような。戸惑っていると、ザクに肩を抱かれカウンターの方に向き直される。

「気にすんなって今更」
「で、でもさ…」
「見せ付けてやればいいんだよ」
「はあ?!」
「うふふ、仲良しねえ」
「ち、違います…!いや、付き合ってるのは…違わないんですけど、えっと、そうじゃなくて、マスター。それ以外にこの辺りでおかしい事ありましたか?」
「え?」
「その…し、新婚旅行で、失敗したくないから、色々知っておきたいというか…」

 最後の方は半ば消え入るように、顔を真っ赤にしながら言った。自分的には今言える最高の嘘だったと思う。ザクが横でニヤニヤ笑っているのがムカつくけど。マスターは少し考え込むようなそぶりを見せてから口を開く。

「そういえば数日前にこの近くで雪崩が起きてね。巻き込まれた人達がここの隣にある宿にきたのよ」
「雪崩…!」
「大丈夫よ、滅多に起きないから。まあだからこそ皆驚いてたわ。何か大きな災害の前触れじゃないといいけどって噂になってる。さっきの事もあるしね」
「…」

(雪崩に巻き込まれた人が宿に来てるのか…あ、そうだ)

 そこで俺は先ほど護衛に渡されたメモを取り出した。そのメモにかかれた俺たちの宿の場所…それはここからすぐそこの、酒場の隣に位置している。

(じゃあ雪崩の人も同じ宿にいるってことか)

 雪崩についてはその人たちに色々聞いてみる事にしよう。新たな情報源を手に入れられて内心ガッツポーズをした。

「いつもならこんなゴタゴタしてないのよ。クアドルカの雪景色はシャール地区でも有名だし、今は時期的に作ってないけれど織物も素晴らしいし」
「織物も有名なんですね。雪景色は来てすぐ堪能しました。綺麗ですよね、びっくりしました」
「毎日見てると慣れちゃうけど、外から来た人たちは皆驚くから、きっと珍しいことなのね。織物は店とかに並んでるだろうから、明日になったら見に行ってみるといいわ。お土産にぴったりよ」
「はい!わかりました!いってみます!」
「ふふ、素直でほんと可愛いわねえ」

 マスターがつーっと俺の頬を指で撫でた。ザクが刺すような視線をぶつけてくる。俺は俯いてそんなことないです、と小さい声でいった。それを見たマスターが少女のようにくすっと可憐に笑う。

「あなた達ならいつでも歓迎するわ。また何かあったら聞きにきて頂戴。滞在はいつまでなの?」
「えっと、一週間ほどで考えてます」
「じゃああと3回は会えるわね!もっと来てくれていいんだけど、きっと都合があるだろうからそれぐらいで許してあげるわ」
「はは…考えておきます…」
「けけ、ここの飯はうまいが、夜は忙しいからな~」
「なっ!ばか!ザク!」
「あらやだ、隣の部屋の人に怒られないようにね?」
「けけけ、それはルト次第…イテッ」

 それから三人で他愛もないことを話し、あっという間に時間は深夜になってしまった。

(なんだか…久しぶりに楽しく飲めたな)

 マスターにお礼をいって店を後にする。そして俺たちは宿に向かった。酒場から十分もせずに立派な建物が見えてくる。雪を落とすようにできた特徴的な屋根、二重になって奥行きのある玄関、暖かみを出す木製の壁。煙突からはモクモクと煙が出ていた。

「でっけー」
「街でもこの宿は一番大きいらしいな」

 マスターいわく、客用の宿の中だとここがこの辺りで一番大きいらしい。ざっと百人は入りそうだ。バンの屋敷より一回り小さいぐらい…って余計ややこしくなるか。とにかく俺の経験上で言えば見たことないぐらい大きな宿だった。

「んじゃ俺様も猫になっとくか…ふあーあ」

 大きく欠伸をしながらザクが変身した。いつもの猫姿。そのまま俺から離れていく。

(一緒に宿に入ったら追い出されちゃうもんな…)

 あとで迎えにいこう、とその背中を見届けてから俺も宿に入った。
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