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第十七章「死を告げる者」
到着
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それから一日半かけて、俺たちはシャール地区の小さな町に到着した。
「ここで馬を交換してまいります。新しい馬なら夕方中には宿泊先に着けるはずです」
「宿泊先…」
「クアドルカという小さな町ですよ。遠征中はそこに宿泊するので覚えておいてください。では失礼します」
護衛という保安官の男が馬車からおり、近くの建物に入っていく。俺はその後ろ姿が建物の中に消えていくのを見守ったあと、ゆっくりと手持ちの鞄を開けた。するとすぐに
=ぷはあ!!!しぬうう!!=
猫ザクが顔を出してきた。
=ぜえっっ!ぜえっ!!猫虐待で訴えられるぞマジで!!=
「ほんと、これに関しては申し訳ない…けど、猫を連れて行きたいっていっても許可してもらえそうになくてさ」
=っち、わーってるよ…=
嫌そうな顔をしつつ、それ以上は文句を言ってこない。ザクなりに今の状況を理解してくれているのだろう。
=にしてもさみーな。もう雪山に入ったのか?=
「らしい…ここからは奥に進むにつれてもっと寒くなるみたい」
=ひえ~人間ってすぐ死ぬ弱っちい体してんのに、雪山なんてよく入ろうと思えるな。物好きっつーかなんつーか=
「それは激しく同意…」
そこまで話した所で護衛が建物から出てきた。後ろから新しい馬と思われるものがついてきている。
「お待たせしましたルト牧師」
「あ、いえ」
俺は片手で猫ザクを鞄に押し込みつつ笑顔をつくるのだった。
***
雪山を進み、薄暗い空模様がより一層重くなってきたところで、馬車はクアドルカに辿り着いた。
「やっと着いた…!」
心の底から嬉しかった。
(やっと馬車の揺れとおさらばできる!!)
久しぶりの長期移動…馬車の揺れから解放されると思うと、本当に、飛び上がりそうに嬉しかった。一人喜びに震えている俺の後ろで、いつの間にか護衛が立っており話しかけてくる。
「では、私は色々手続きを行ってまいりますので…ルト牧師はどうされますか?」
「あ、ちょっと街を見てきてもいいですか?」
「もちろんです。調査は明日からですし今日はもうご自由になさって大丈夫です。では宿の場所はこちらですので用がお済になりましたら戻って来てください」
「は、はい!」
護衛はそのまま宿のある方?へと消えていった。
(案外あっさりしてるな…見張りとかされるのかと思ってたけど…ま、どっちにしろ好都合か)
完全にその後ろ姿が消えるのを見届けてから、鞄を開ける。
「ザク、もういいぞ…って、あれ?」
鞄の中には何もなかった。
(あれ?)
ザクはどこにいったのだろう?と鞄を広げながら首を傾げる。
「いやだ、こんな辺鄙な街にエライ男前がいるじゃない」
「赤い髪なんてはじめて見たわ。すごーい」
「ねえねえお兄さん、外の人なの?」
「けけ、秘密だぜ~」
ふと街の入り口にできていた人だかりに目がいく。その中心には思った通り人型に戻ったザクがいた。女性に囲まれきゃあきゃあ言われている。
(なにやってんだよアイツ…)
呆れつつ俺も人だかりに向かおうとした。すると、
ドンッ
その時誰かの肩とぶつかってしまい、バランスを崩す。どしゃっと音を立てて、雪の積もった地面に転んでしまった。
「ルト!!」
すぐにザクが駆け寄ってくる。
「大丈夫か…おい、気をつけろ!」
ザクが俺にぶつかってきた者を睨んでそう言った。
「ザク、俺は平気だから…。すみません。よく見てませんでした。大丈夫ですか」
ぶつかり、一緒に雪に座り込んでしまった人物に手を伸ばす。マントを頭の上からすっぽりかぶってしまっているので表情はおろか男か女かもわからない。けれど、どこか痛めてるかもしれない、と顔を覗きこんだ。
「あの…怪我でもされたんじゃ…」
ギラリ
奥に光る瞳とぶつかる。一瞬その瞳が赤く光った気がした。
(え…光った…?)
ドン!!
腕で突き放され、俺は再び雪に尻餅をついてしまう。そのまま、焦ったように走り去っていくマント男を、ザクが追いかけようとした。
「てめえっ!!」
「ザク待って!追いかけなくていい!」
「だけどよルトっ」
「ザク、ここで問題を起こしたら保安官にばれる!そしたら下手したらザクが標的にされちゃうから…頼むから落ち着いてくれ」
「…ちっ」
こんなところで騒ぎを起こして、万が一にでもザクのことがばれたら、そう思うと不安で押し潰されそうになる。ザクは強い。強いが、白服がどう動くか読めないため絶対安全ともいえないのだ。あっちは集団なのだから。
「…わーったよ」
不服そうな顔をしつつも、そういって手を差し伸べてきた。手をとる、とすごい力で引っ張られ抱き起こされるような形で引き上げられる。
(あたたかい…)
凍えそうなぐらい寒いこの世界で唯一暖かい気がして、ザクの体から離れたくなかった。でも、すぐに他人の目を思い出し、ザクの腕の中から逃げ出す。
「ありがと、ザク…」
「いいってことだ。んで、ルト、どうするよ」
「ひとまずは保安官より先に情報を掴みたいな」
教会本部は情報統制をしてくる腹の読めない奴らだ。その下にいる保安官といたらマトモな情報なんて掴めないのは目に見えている。ならば先手を打つべきだ。なるべく早くこの状況を把握し、動かなければ俺だけ置いてかれてしまう。俺の言葉に、ザクが不敵に笑った。
「ならさっきレディに聞き出しておいたぜ。街一番情報が集まる、酒場の場所をな」
「!」
珍しくザクが役に立つな、なんて思ったのは本人には言わないでおこうと思うルトなのであった。
「ここで馬を交換してまいります。新しい馬なら夕方中には宿泊先に着けるはずです」
「宿泊先…」
「クアドルカという小さな町ですよ。遠征中はそこに宿泊するので覚えておいてください。では失礼します」
護衛という保安官の男が馬車からおり、近くの建物に入っていく。俺はその後ろ姿が建物の中に消えていくのを見守ったあと、ゆっくりと手持ちの鞄を開けた。するとすぐに
=ぷはあ!!!しぬうう!!=
猫ザクが顔を出してきた。
=ぜえっっ!ぜえっ!!猫虐待で訴えられるぞマジで!!=
「ほんと、これに関しては申し訳ない…けど、猫を連れて行きたいっていっても許可してもらえそうになくてさ」
=っち、わーってるよ…=
嫌そうな顔をしつつ、それ以上は文句を言ってこない。ザクなりに今の状況を理解してくれているのだろう。
=にしてもさみーな。もう雪山に入ったのか?=
「らしい…ここからは奥に進むにつれてもっと寒くなるみたい」
=ひえ~人間ってすぐ死ぬ弱っちい体してんのに、雪山なんてよく入ろうと思えるな。物好きっつーかなんつーか=
「それは激しく同意…」
そこまで話した所で護衛が建物から出てきた。後ろから新しい馬と思われるものがついてきている。
「お待たせしましたルト牧師」
「あ、いえ」
俺は片手で猫ザクを鞄に押し込みつつ笑顔をつくるのだった。
***
雪山を進み、薄暗い空模様がより一層重くなってきたところで、馬車はクアドルカに辿り着いた。
「やっと着いた…!」
心の底から嬉しかった。
(やっと馬車の揺れとおさらばできる!!)
久しぶりの長期移動…馬車の揺れから解放されると思うと、本当に、飛び上がりそうに嬉しかった。一人喜びに震えている俺の後ろで、いつの間にか護衛が立っており話しかけてくる。
「では、私は色々手続きを行ってまいりますので…ルト牧師はどうされますか?」
「あ、ちょっと街を見てきてもいいですか?」
「もちろんです。調査は明日からですし今日はもうご自由になさって大丈夫です。では宿の場所はこちらですので用がお済になりましたら戻って来てください」
「は、はい!」
護衛はそのまま宿のある方?へと消えていった。
(案外あっさりしてるな…見張りとかされるのかと思ってたけど…ま、どっちにしろ好都合か)
完全にその後ろ姿が消えるのを見届けてから、鞄を開ける。
「ザク、もういいぞ…って、あれ?」
鞄の中には何もなかった。
(あれ?)
ザクはどこにいったのだろう?と鞄を広げながら首を傾げる。
「いやだ、こんな辺鄙な街にエライ男前がいるじゃない」
「赤い髪なんてはじめて見たわ。すごーい」
「ねえねえお兄さん、外の人なの?」
「けけ、秘密だぜ~」
ふと街の入り口にできていた人だかりに目がいく。その中心には思った通り人型に戻ったザクがいた。女性に囲まれきゃあきゃあ言われている。
(なにやってんだよアイツ…)
呆れつつ俺も人だかりに向かおうとした。すると、
ドンッ
その時誰かの肩とぶつかってしまい、バランスを崩す。どしゃっと音を立てて、雪の積もった地面に転んでしまった。
「ルト!!」
すぐにザクが駆け寄ってくる。
「大丈夫か…おい、気をつけろ!」
ザクが俺にぶつかってきた者を睨んでそう言った。
「ザク、俺は平気だから…。すみません。よく見てませんでした。大丈夫ですか」
ぶつかり、一緒に雪に座り込んでしまった人物に手を伸ばす。マントを頭の上からすっぽりかぶってしまっているので表情はおろか男か女かもわからない。けれど、どこか痛めてるかもしれない、と顔を覗きこんだ。
「あの…怪我でもされたんじゃ…」
ギラリ
奥に光る瞳とぶつかる。一瞬その瞳が赤く光った気がした。
(え…光った…?)
ドン!!
腕で突き放され、俺は再び雪に尻餅をついてしまう。そのまま、焦ったように走り去っていくマント男を、ザクが追いかけようとした。
「てめえっ!!」
「ザク待って!追いかけなくていい!」
「だけどよルトっ」
「ザク、ここで問題を起こしたら保安官にばれる!そしたら下手したらザクが標的にされちゃうから…頼むから落ち着いてくれ」
「…ちっ」
こんなところで騒ぎを起こして、万が一にでもザクのことがばれたら、そう思うと不安で押し潰されそうになる。ザクは強い。強いが、白服がどう動くか読めないため絶対安全ともいえないのだ。あっちは集団なのだから。
「…わーったよ」
不服そうな顔をしつつも、そういって手を差し伸べてきた。手をとる、とすごい力で引っ張られ抱き起こされるような形で引き上げられる。
(あたたかい…)
凍えそうなぐらい寒いこの世界で唯一暖かい気がして、ザクの体から離れたくなかった。でも、すぐに他人の目を思い出し、ザクの腕の中から逃げ出す。
「ありがと、ザク…」
「いいってことだ。んで、ルト、どうするよ」
「ひとまずは保安官より先に情報を掴みたいな」
教会本部は情報統制をしてくる腹の読めない奴らだ。その下にいる保安官といたらマトモな情報なんて掴めないのは目に見えている。ならば先手を打つべきだ。なるべく早くこの状況を把握し、動かなければ俺だけ置いてかれてしまう。俺の言葉に、ザクが不敵に笑った。
「ならさっきレディに聞き出しておいたぜ。街一番情報が集まる、酒場の場所をな」
「!」
珍しくザクが役に立つな、なんて思ったのは本人には言わないでおこうと思うルトなのであった。
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