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第十七章「死を告げる者」
どうしてここに
しおりを挟む「サキ?!」
声をかけても返事は返ってこない。扉の先に消えたまま姿を一向に現さないサキに心臓がバクバクとうるさくなった。
一体扉の向こうで何が起こってるんだ??
「サキ…!?サキ!!」
『へへ、なーんでこんな所にサキがいるんだぁ?』
それはジャックルの声だった。扉の向こう側での会話だからよく聞こえなかったが、確かにあいつの声だった。直後に何かのぶつかる音と、引きずるような音がして、ガチャリと牢屋の扉が開く。
「!!!」
ジャックルが倒れたサキを小脇に抱え、もう片方の手で見たことのある悪魔…多分、インクを抱えてこっちに近寄ってきた。
「さ、サキ?!インクも…どうしてっ」
牢屋の中から二人に手を伸ばした。二人とも気絶している。
『へへ、なんかルナちゃんに抜け駆けしようとしてるみたいだから、しめといたあ~』
「な、何を言って…二人をはなせ!」
『いやなこった~~』
二人をゴミのように手放したと思えば、ガッ!と靴を履いた足で遠慮なく頭を踏みつける。サキとインクは気を失ったまま苦しげに顔を歪める。
「や…やめろってば!!お前ら、仲間じゃないのかよ!!」
『なかまぁ?なにそれ、オレ様たちはそういうんじゃねえよ?マスターに使えてる悪魔同士ってだけだしい?言うなればお隣さん?いや、ほぼ交流ねえから他人以下か』
「だ、だからって…踏みつけるなよ…!!」
『いいんだよ。これが躾ってやつなんだぜ。な、マスター』
マスターという言葉で、ガチリと体が凍りついたように動かなくなった。
「やれやれ、最近使い魔が皆俺の言う事を聞かなくなったけど、それってルトのせいなのかな?」
呆れたようなレインの呟きが響く。見たくもないような、待っていたかのような複雑な気持ちで、廊下から入ってくるレインを見つめる。レインは牢屋の檻の前で立ち止まると、腕を組んだままこっちを見てきていた。
「やあ、ルト、少しは俺の言う事聞く気になった?」
「…」
「そうか、ま、そうだと思って今日は来たんだ」
「??」
まさか俺を解放してくれる気になったのだろうか。少しだけ期待してレインを見つめる。しかしその希望はすぐに絶望へと変わった。レインが楽しそうに笑っていたのだ。ジャックルと共に。
「ルトは自分の事なら我慢強いということを思い出して、ちょっと方法を変えようかと思うんだ」
「…?」
ふと、レインがサキ達に近寄っていく。そして、何を思ったのかその体を思いっきり蹴りあげた。ごろごろと檻の前にサキの体が転がってくる。
「!!!! や、やめろ!!」
叫んでもレインは蹴るのを止めなかった。何度も蹴ろうとするレインの足から庇うように、俺は鉄格子の間から腕を出した。
「やめろってば!!レイン!!」
「はは、悪魔は丈夫だからこれぐらいじゃ死なないよルト」
「丈夫って…悪魔でもサキは女の子だろ!!なんでこんなヒドイことするんだ!!」
「躾ってやつだ。飼い主が甘く見られては主従関係が成り立たない」
躾だと冷たく言い放つ。
(そう…かも、しれないけど…!)
確かにレインの立場としては飼い犬に手を噛まれた状態なのかもしれない。ジャックルや他の残忍な悪魔を見て、確かに生半可な命令ではまとめられないのはわかったが
(だけど、サキとインクはこんな風に躾られなくてもわかるはずだ……こんなの許されることじゃない!!)
レインをキッと睨みつけ、サキに手を伸ばした。二人を守らなければと庇うように伸ばされた両手をレインは冷たい瞳で見下ろす。
「…ルトがどうしても躾をやってほしくないっていうなら、サキをルトが犯して」
「?!」
「そしたら今回は許そうかな」
(俺が…サキを…?)
にこり、と嬉しそうに笑うレイン。ジャックルが横で愉快そうに笑っていた。
『うひーえぐいっマスターえぐい~~』
「それで興奮してるお前に言われたくないな。お前はインクをやれ」
『ういっす~』
ジャックルがインクを脱がしていく。そのまま何も準備のされてない腰を持ち上げた。
(まさか本当にやるつもり、なのか?!)
「や、…」
やめろ。
そう言えば何か変わるのか。
(いや、変わらない…)
それはここに来て、痛いほど思い知った。俺の言葉や意思なんて、部屋の隅にある埃程度、誰も気にもとめない些細なものだ。
そう気付いて、俺は言葉をぐっと飲み込んだ。
なら、この状況で何を言ったらこの二人を助けられる?
俺のために少しでも助けようとしてくれた二人を助けるには?
急がなきゃいけないのに、ぐるぐると思考が巡って、うまく考えられない。
(どうしたら、どうしたら二人を助けられるんだ…?!)
『なんだここ、すげーそそられる匂いがすんだけど』
突然、奥から声が聞こえてきた。
その声に、俺もレインも…その場にいた者全員が目を見開いた。
(う、嘘だ…)
声は牢屋の先から聞こえてくる。どんどん足音が近づいてきて、そのまま扉が乱暴に開けられた。
「!!!!」
やはり聞き間違いではなかった。
『おいおい、すごい事になってんな。俺様もまぜろよ』
赤い髪で眼帯をつけた、悪魔が立っていた。
(ざ…ザク…!?!)
夢でも見てるのかと思い目を擦る。
けれどそいつは消えることなくそこに立ったままで。
しかも、その傍には何故かレイの姿もあった。レイが牢屋の中の俺を見つけて、すっと目をそらした。
(…レイ、どうしてここに…いや、今は)
俺の視界の中心にいる男へ意識を戻した。
「ザク…?」
『あ?』
名前を呼ばれてザクがこっちを向いた。
何もしてないのに黒い靄を周りに漂わせ、前髪を後ろに撫で付けたような髪型のザク。普段はしない髪型、雰囲気。俺へ向ける刺々しいほどの敵意。それらを肌で感じ、俺は違和感を覚えた。
(なんか…変…?)
けれど、そんなことは今どうでもいいと思い直す。この場から助けてくれるなら、なんでもいいのだ。
「ザク…!」
助けて、と言いかけたそのときだった。
『なんで人間ごときが俺様の名前を知ってんだよ』
「え…」
ザクの口から、ありえない言葉がでてきた。
(え…人間、ごとき…?)
何を言ってるんだ、とショックを受けつつも、伸ばしかけた腕を下ろす。
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