短編

リナ

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不死鳥シリーズ

トリック・オア・トリート(不死鳥組)

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 ※十話読了推奨
 ※ハロウィンを楽しむ回🎃



「ライ~オハヨウ~❤」

 いつものように開店準備をしてると朝帰りのグレイがテンション高めに入ってきた。酔っぱらいモードのグレイになんとなく嫌な予感を察知して

「お、おはよう…」

 挨拶をしつつ背を向ければ、

 ガシッ

 速攻捕まえられ、むちゅーっと頬にキスされた。

「うわあっ!やめろ!酔っぱらい!!」

 羽交い締めにされかけた所をジタバタと暴れてなんとか抜け出し、慌ててグレイから距離をとった。

「あら残念、逃げられちゃったワ」
「突然キスされたら逃げるだろ!キス魔め!」
「キス魔っていうほどキスしてないジャナーイ❤あ、足らなかった?」
「結構です!!!」

 ゴシゴシと頬についたリップなのか口紅なのかよくわからないものを拭ってると「ごめんなさい❤」とグレイが全然反省してない顔で謝ってくる。

「ライ~❤お詫びにコレあげるから機嫌直しテ~❤」

 どうぞ、とバラエティーパックのお菓子をもらう。薬局とかスーパーで売ってるお徳用のやつだ。特に甘党でもないグレイがこれを買うなんて珍しいな…と首を傾げてるとグレイが意味深に笑った。

「うちに置いといた方がいいかな~と思って買ったんだけど、多分あんたの方が必要になると思うからあげちゃウ❤」
「俺に必要って…別に甘いものには困ってないけど」
「いいからいいから、もっときなサイ。絶対使うから❤」
「…今日は?」
「そーよ❤」

 グレイがコートを脱ぎながら寄ってくる。またキスされるのかと警戒しているとおもむろに手が突き出された。掌は天井に向けた形で、何かを求めるように揺らされている。

「えっと…」
「ふふ、やっぱりライ忘れてるワネ。“今日が何の日か"認識してないなんて客商売失格ヨー?」
「今日が何の日か…」
「そう!今日は10/31!ハロウィンの日ヨ🎃」
「あーそういえば…」
「だから…トリック・オア・トリート❤」

 やっと諸々の意味を理解した俺は、パックの中から一つ、コーヒー味のチョコレートを取り出してグレイの手にのせた。

「うんうんその調子❤こんな感じでお菓子配りお兄さんとしてイタズラされるのを食い止めるのヨ~❤」
「あんたに初手でやられてるんだが…(頬擦る)」
「ふふふっそれはお菓子代って事で❤❤じゃ~また後で~❤」
「はぁ…」

 ちゅっと投げキッスをしながらグレイは廊下に消えた。最後の最後までテンションが高かったな…とため息を吐いて、手元のお菓子を見つめる。

「グレイのやつ、わざわざ用意してくれたけどこんなん使うわけが――」

 チリリーン

「?!」
「トリック・オア・トリート!!」

 面白いぐらい良いタイミングで学生が入店してきた。その学生は栗色の髪のまだ少し幼さの残る青年で…

「ユウキ…またお前、学校サボったのか…」

 ユウキだった。もはや説明のいらない神出鬼没っぷりに呆れてると、ユウキは元気よく「大丈夫!」とグーサインを出した。

「今日は中間テストだから!サボってません!」
「テスト週間ならこんな所来てないで家帰って勉強しろよ」
「え~でも今日は大事な日でしょ~??」
「大事?」
「今言ったじゃん!トリック・オア・トリートって!お菓子くれないとイタズラするぞ~!」

 がおーっとユウキは両手をあげて威嚇するポーズをする。
 (まさか速攻必要になるとは…)
 グレイの菓子を驚きと共に見下ろし、余計な事をされる前にとユウキにミルクチョコレートを押し付けた。

「えー!!!!なにこれ?!なんでライお菓子持ってんの!??!」
「なんでって…お前が欲しいって言ったんだろ」
「そうだけどさー!!ライは絶対こういうの興味ないしお菓子も用意してないと思ってイタズラ(確定演出)しに来たのに~!」
「堂々とイタズラしに来てんじゃねえよ、営業妨害で出禁にするぞ」
「オーナー出禁にするってヤバイからね?!てかこれ用意したの店長さんでしょ??くそー!俺としたことが先手を打たれた~!悔しい~!」
「……(半目)」


「んだぁ、うるせぇと思えばクソガキが来てんのか」


 廊下からソルが顔を出してくる。グレイがオールナイトする前に寝かしつけてたから今日は早めに目が覚めたようだ。

「おはよう、ソル」
「はよ」

 ソルは寝癖を残したまま大股で近づいてくる。そして

 スッ

 当然のように手を出してきた。

「え」
「トリック・オア・トリート」
「…あんたもハロウィンの回し者か」
「くくっ、そりゃ菓子とイタズラ両方共オレの好物だからなぁ」
「確かに…」

 俺は袋からイチゴチョコを取り出してソルに渡した。

 ぱくっ

 ソルはそれを速攻で口に入れたと思えばすぐにまた手を出してくる。

「いや、もう…菓子あげたけど…」

 何事もなかったかのように手を差し出されて戸惑ってると、ソルはぺろりと舌なめずりして見せた。すでにイチゴチョコは平らげたらしい。

「トリック・オア・トリート。次はミルク希望な」

 そういって「早く」と手を揺らすソル。

「へ?」
「ほら、トリック・オア・トリートっつったろ?菓子くれねえならイタズラするぜ」
「は??」
「三秒カウントな、いーち、にー」
「待て待て!ほら!」

 謎のカウントに焦らされ、俺は慌ててミルクチョコレートを差し出した。ソルはそれもぱくりと美味しそうに頬張って、

 スッ

 また手を出してきた。

「ちょっ…わんこそばかよ!あんたいい加減に!」
「いい加減も何も。配る用の菓子がなくなったらイタズラできるようになるってイベントだろ?ハロウィンってのはさ?」
「ぜってえ違うから!!」
「うわ!ソルさん天才!じゃあ俺も、ぱくっ…!ライ~!トリック・オア・トリート!」
「ええ?!ちょっ」
「カウント開始。さーん、にー、いー」
「待てっ!わかった!ほらあげるから!ユウキも!」

 ソルとユウキの両方に渡すが、二人は何事もなかったかのように頬張って「トリックオアトリート」と再度迫ってくる。ユウキはともかくソルはかなりの甘党なので菓子を一袋開けるぐらい屁でもないはずだ。俺の予想通り、二人はあっという間にお徳用パックを空にしてしまって…俺は空の袋を手に立ち尽くしてしまった。

「「トリック・オア・トリート🎃」」

 二人がにっこり笑って手を差し出してくる。

「うっ…すぐに買いに行くんで許してください…」
「アア??ハロウィン舐めてんのかてめえ」
「そうだよライ。今すぐお菓子をあげるかイタズラされるかの二択なんだから“少し待ってください”は通用しないよ?」
「そんなこと言われてもっちょ、おいっ」

 二人に囲まれた俺はあっという間に壁に押しやられ、両手をとられ、エプロンを脱がされた。そのままシャツを開けられそうになった所で

 チリリーン

 救世主のフィンが帰ってきた。

「フィンっ!!!(涙目)」

「チッ、いい所で邪魔しやがって」
「隣町まで買い出しに行ったらいいのに…」

「…何か言ったか悪ガキ共」

「「 何でもありませーん 」」

 全く悪びれない二人に、フィンはやれやれと肩をすくめる。

「ライ、大丈夫か。対応に困っていたようだが、奴らに何か脅されていたのか?」
「いや…ハロウィンの菓子がなくなっちまってさ」
「ハロウィン…ああ、そういう事か」

 合点がいったのかフィンは床に落ちたバラエティーパックを一瞥した後、おもむろに自分の買い物袋を漁り出した。

「そんなに菓子が欲しいなら私がくれてやろう。今日はスーパーで珍しい物を見つけたからな」

 がさっ

 フィンが買い物袋から小さな白い紙箱を取り出した。黒のひし形が並んでるパッケージのお菓子で、それを見た瞬間ソルもユウキもぎょっとして後退る。

「「サルミア●キ!!!!」」

「なんだ、お前達も知ってたか。これがたまに食べたくなる味をしてるんだ。…ほら、遠慮せず言うが良い。トリックオアトリート、なんだろう?いくらでもやるぞ」
「…」
「…」

 二人共その菓子を見た途端一気に静かになって、気まずげに互いを見合っていた。そして

「かえりまぁす…」
「オレも…糖分取ったし仕事するわ…」

 とぼとぼと姿を消すのだった。

 チリリーン

 退店の鈴と共に、一気に静かになる店内。二人きりになった俺とフィンは軽くハグをしてから「おかえり」「ただいま」と笑いあった。

「まったく、奴らときたら…ライ、イタズラはされなかったか?」
「ギリセーフ。あと一秒遅かったらどっちかの腹を蹴りつけてたかもしんねえけど」
「ふっ、奴らにはそれぐらいでちょうどいいな」

 ニヤリと笑って、フィンは床に落ちたままのバラエティーパックを拾い上げカウンター裏のゴミ箱に捨てに行く。俺はその背中をじっと見守った後、

 (……)

 ゆっくりと近づいた。

「…フィン」
「ん?なんだ?」
「…トリック・オア・トリート」

 おずおずと手を差し出せば、フィンはキョトンと目を丸くした後、二人きりの時にしか見せない甘く蕩ける笑みを浮かべた。

「ふふ、ここにも菓子を欲しがる子がいたようだな」

 フィンはニヤリと笑ってから、買い物袋を漁り、「しまった」と嘘っぽい仕草で額を押さえる。

「ああ困ったな…どうやら菓子は買い忘れてしまったらしい」

 そう言って買い物袋をカウンター席に置いて、両手で俺を抱き寄せた。先程の菓子はいいのか?と思ったが…俺も俺でなんとなくそう言ってくれる気がしてたので、そのまま身を任せ、頬にちゅっと吸いついた。

「じゃあ、イタズラするけど…」
「ふふ…好きなだけどうぞ」
「……あんたは言わねえの…?」
「私は夜にイタズラするから問題ない」
「…」

 ぼすっと軽く肩を小突いてから、目の前の笑みの形を作った唇に口付けるのだった。




 end
     
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